歯車の潤滑油 10   @AB CDE FGH JKL M




まるでそれを自ら課した罰の様に、甘んじて耐える先生。 結局、先に音を上げたのはボク達。
ごめんなさい! って先生を開放した。 だって泣きながら耐えてるイルカ先生を見続けたら・・・。
先生の口から出る言葉は、大好き、愛してる。 泣きながらそう言われ続けたら、耐えられない。

ナルトを庇った時だってそうだ。 イルカ先生はちっとも悪い事をしたと思っていない。
あの時はボク達と出会っていなかったから、一億歩譲って許してあげる。 でも今なら分かるでしょう?
知ってたんですよ、ボク達は。 指を咥えてみてたんです、ナルトが利用されるのも怪我をするのも。
身を斬られるより辛かった。 でもその後で出会えるって知ってたから耐えられたんだ。

そんなボク達の思いを今の先生は知ってるでしょう? なのに何で人質なんて・・・・・。
火の国が他国に介入しないのを信条としているのは、ボク達木の葉の忍びなら誰もが知っている。
でも他国はそうじゃない。 完全に口をふさぐ為に、事情を知ってる人間を始末する事もあるのに!

確かに響様はそんな人じゃない。 この国も。 けれどもし他の国だったら? 同じように申し出た?
やめて下さいお願いだから。 例えイルカ先生自身でも、ボク達から先生を取り上げるような事しないで。
本来一緒に行くはずだった木の葉の仲間を疑っちゃいないけど、ボク達の目の届く所にいて、頼むから。
やっぱり先生はボク達を泣かせる天才のサドだ。 ボク達は先生の前で泣いてばっかりいる。

「うぅ・・・・ 先生、いなく・・・・ ならないで・・・・ お願い。」
「なんで先生は・・・・・ ぐすっ! 約束して・・・ お願い。」
「・・・・・こんな泣き虫のふたりを・・・ 俺が残して逝く訳ないじゃありませんか。」

「「わぁ〜〜〜ん!! 先生〜〜〜っ! ごめんなさいっっ!!」」
「俺の方こそ・・・・・ 泣かせてばっかり・・・・ ごめんなさい。」
「「バカ! 馬鹿っ!! 先生のサドっっ!!」」
「わ・・・・ 泣く子も黙る・・・・ 暗部を虐めちゃった・・・・ふふふ。」

イルカ先生はそう言って、泣き痕だらけの顔で笑った。 縛られてやっと解放されてヨレヨレだった先生。
持ち上げるのがやっとの手、震える指でボク達の涙を拭ってくれる。 ごめん、ごめんね、イルカ先生。
カカシ先輩もボクも、先生に抱きついたまま眠った。 この潤滑油がなかったら、歯車は止まってしまう。






やっぱりここでもデコちゅーでスタート。 コレがあるのとないのでは、気合の入り方が違うんだ。
ふふふ、おはよう、イルカ先生。 じゃぁ、本来の作戦を教えてもらえます? 小隊が予定してたヤツ。
イルカ先生が、あの地下室は誰にも発見されていないから、先に殺しておいても問題ないと言った。
だから何か策があるんだろうな、とは思ってたんだ。 元々来るはずだった上忍達の役割が。

昨日影分身で地下室へ侵入し、室内の研究チームを瞬殺。 元皇后の碧様も拉致して殺しておいた。
先生が響様に、生花を購入したいとお願いしていた時、ボク達の影分身は地下室で6体の遺体を処理。
もちろん研究室の全てを灰にした。 今、あの地下室はきれいさっぱり何もない、ただの空洞だ。

“永遠の幸福”の意味を持つ、スターダストというブルーカーネーションは、この国にないらしい。
イルカ先生がそれを花の国に特注している間に、暗殺任務そのものは完了させてたんですよ。
元皇后の威厳を保ったままの死、民の流す涙が故人を偲ぶ為のモノ。 そうなるにはどうするの?
・・・・・なるほど。 正規の上忍達は、こんなめんどくさい事をするんですか、ふむふむ。

「どうするイルカ先生。 響様には・・・・ これ、話さない方がいいよネ?」
「ええ。 そんなことは知る必要のない事だと、俺は思います。」
「・・・・ あの真面目な剣士を苦しめるだけ・・・・・ ですもんね。」
「木の葉を頼ってくれたんです。 予定通り、感動のフィナーレを演出しましょう。」
「「大賛成!」」





碧様は母としての情は失くしていない、王を愛したが故の己の為の研究だったという事にしておく。
・・・・権力を持つ者の精神の安定は、国の安定そのものかも。 せっかく残した命もあれじゃ・・・
亡き先代の王も報われない。 皇后を息子と国の為に残したのに、新王を支えるはずの彼女がああでは。

昨日ボク達が忍び込んだ時。 実はもう、先代の王のクローンは完成していた。 昴王と同じ位の年で。
遠目には亡き王にソックリだという昴王。 民衆は近寄れないし、重臣も遠ざける予定だったんだろう。
彼女はあのクローンと、昴王を入れ代えようとしていた。 我が子を・・・ 殺すつもりだったんだ。
亡き王の名前を呼び、我が子と同じ年頃のクローンと交わる姿は、さすがのボク達も寒気がした。

響様は言った。 公表して碧様を諌めても、自分の言を信じる者はいないと。 もし強行して・・・
自分が元皇后を殺害して、自分の言を周りが信じてくれたとしても、内乱が起こると。 その通りだ。
彼女が研究させていたのは“クローン”という事実。 昴王もクローンでないと証明できるだろうか。

それは昴殿下を王座から下ろす為の正当な理由に、殿下の存在そのものが恰好の的になるという事。
玉座を狙うハイエナ共に、つけ込む情報を与えるだけ。 研究前の事だと言っても、誰が信じる?
民や重臣の多くは、おそらく疑いの目を向けるだろう。 なぜ研究前だと、そう言い切れるのか、と。
救いは先代が響様を残した事。 彼を一緒に連れて逝ったなら、この国は今頃内乱で荒れていただろうね。