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この国を統べる立派な王へ

お別れです、愛おしい我が子。 わたくしは先代と同じ病にかかっていました。
あなたの父君を死に至らしめた奇病は、潜伏期間の長いウイルスだったのです。

長時間の接触で感染するらしく、わたくしは既に感染しておりました。
自覚症状が全くなく、病の兆しが見えた時はもう手遅れなのです。
残念ながら奇病の解明には至りませんでしたが、病の元を絶つ事は出来ます。

昨夜わたくしに、症状が出ました。 これからわたくしは病の元を絶ちます。
わたくしと、研究中に感染した恐れのある、わたくしの医療チーム全員です。

これは医療チームとわたくしとで決めました。 皆で城の地下室に入ります。
誰も近付けない迷路になっている地下水路の、その先にある一室へと。
このウイルスを城から根絶出来るのです。 喜んで祖国の土となりましょう。

もしも止めるなら、あなたは王ではありませんよ、状況を把握するのです。
火の国の客人を招いている今、感染の恐れがある病等、知られてはなりません。

内側から鍵をかけ火を放ちます。 全てが灰になってから扉を開けるのですよ。
悲しんではなりません、あなたには響がついています。 いいですね?
陛下と同じ病で逝けるなんて、わたくしはなんて幸せなのでしょう。

いつまでも見守っています、あなたはこの国の民を立派に導くと信じています。  碧
 




「これは何の騒ぎだ、泣き出している者がおるではないか! 客人もいると言うのに・・・・」
「殿下! 今朝碧様のお部屋に、侍女が水差しを持って行きましたらコレが・・・・。」
「・・・・・・・これは・・・・・・・・?!」
「既に碧様は・・・・ 地下室に閉じこもってしまわれたと・・・・ 思われます。」
「・・・・響っ! ワタシと来いっ! 他の者は城内の異変を悟られるな、よいか!」

おお、遺書が発見されて騒ぎが起こってる。 ボク達は室内でまだ知らないフリをしていなきゃね。
昨日ジャンケンに負けたボク。 この為に影分身に変化をさせて、碧様になり自室へ戻るフリをした。
碧様の筆跡を真似て先生が作成した遺書を置いて来たんだ。 筆真似もイルカ先生の得意技らしい。
響様に言って、碧様本人が記入したモノを、あらかじめ用意してもらってたんだって。 さすが先生!

そして今また、現在進行形で影達を地下に行かせてある。 数人が地下室へ向かってもいいように。
ボクとカカシ先輩で三人づつ影を出し、それぞれを医療チームと碧様に変化して待機させてある。
もし、城の誰かが説得に向かったら、影達は感動のフィナーレを演じる手筈になっているんだ。

観客は昴様と響様だけみたい。 せっかくの大掛かりな芝居なのに、残念! でもまあ、そろそろ開演だ。
もう少ししたら解除の印を組むから、その成果は後からのお楽しみ、って事で。 ところでボク達は?
ワザと人目につくように、セレモニーの準備をしてればいいんですか? わ、イチャイチャ、OK?!
当然だよね、ボク達扮するチームは、ラブ&ピースが売り! 思いっきりイチャイチャしましょうねv








「母上! 母上、開けて下さいっ!! 母上っ!!」
「碧様! 早まった事をなさらないで下さい、引き続き研究を・・・・」
「お黙りなさい、響!!!」
「「!!!!」」

「状況を把握しろと言ったはずです。 この城に招いた客人は、あの火の国の者なのですよ?」
「・・・・・母上・・・・。」
「あの国の者が、もし感染でもしたら? あの国を守る忍びの里がどこか、わかっていますか?」
「・・・・・碧様・・・・。」

「幸いこの地下室には誰も近付かなかったおかげで、広まる事はありませんでした。」
「母上、なら、少しでもそこで、まだ研究を続けて・・・・」
「ウイルスは進化します。 研究中に長時間接触感染のモノから普通の接触感染に進化していたら?」
「・・・・・・客人どころか・・・ 国の民をも・・・・ 危険にさらす恐れがあります。」

「そうです、さすがは響。 昴の事を・・・・ 頼みましたよ?」
「碧様・・・・・。」
「あなたの成人の儀を思い浮かべながら逝きます。 昴、いえ、昴王。 ・・・民を導く立派な王に。」
「 は・・・ は、う・・・え・・・・

「・・・・わたくしと共に逝く勇気ある者達に祝福を! ・・・・・・・くっ! 火を放ちなさいっ!!」
「はい、碧様!」
「「我らは喜んでお供します!  ・・・・がぁっ!!」」
「「剣の国に・・・・・ 昴王に、栄光あれ! ・・・ぐふぅ!!」」

母上っ!!!  母上ーーーーーっっ!!! 」
「碧様、そして我が国の勇気ある医師達よ。 皆の遺志を・・・・ 生涯忘れないと誓います。」








「・・・・・響。 ワタシは泣き晴らした顔をしているか?」
「・・・・そうですね、少し。」
「では・・・・ 氷水に・・・ 浸けてこよう。」
「殿下・・・・・。 強く・・・・強くなられました。 私は誇りに思います・・・・。」

「殿下、この場所に慰霊碑を作る事を・・・・ お許しください。」
「・・・・頼む。 母と、医師達の名を刻んでやってほしい。」
「碧様と研究チームの死は・・・・ 今しばらく伏せておきましょう、客人を帰すまで。」
「それまでには、良い送り名も思いつくだろう。 ・・・・戻るぞ、響。」
「はい・・・・ 殿下。」