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あれからちゃんと本当の事を伝えた。 だって剣の国の人に、それが木の葉の挨拶だって思われたら?
抱きつかれて目元にキス、の挨拶をされるかもしれない。 考えただけで寒気がするので、勘弁だ。
ボク達は木の葉の里公認の恋人なんです、って言った。 響様は、?? って、感じだったけど。
でも本当の事だもん。 それに先に告知しておけば、好きなだけイチャイチャできるしね!

「客人として招いたのは、色々動き易いと思ったのと、殿下の誕生祭が近かったので、な。」
「専門のチームなら他国の者が城の中をウロウロしても、なんら不思議はないですからね。」
「フフフ、響様は剣の国にあって、珍しく柔軟な発想をお持ちですネ、策略がお得意とは。」
「国の為を思えばこそ、です。 例え騎士道に背く事になろうとも、今動かねば・・・・」

「あはは! 響様って、ほんと真面目ですよね。 カカシさんは褒めてるんですよ? くすくす。」
「そ、そうなのか、てっきり・・・・。」
「亡き王が、響様をなぜ残したのか。 分かる気がします。」
「民は二の次、って要人が多すぎるしネ、どこの国も。」
「皆さまにそう言って頂けるとは・・・・ 恐縮致す。」

そう、確かに動くなら今しかない。 側近の響様が知ったぐらいだ、もう少し経てば誰かが気付く。
そうなってからでは遅い。 昴殿下は排除、血で血を争う王座の奪い合いで、国は内乱へ一直線だ。
そうなるとその間外交がストップし、結果飢えるのは民。 響様の決断は、立派な事だと思う。

剣の国の若き獅子王 昴殿下。 その一の側近の響様は、殿下の母君の暗殺をウチに依頼に来た。
並大抵の葛藤ではなかったはず。 依頼人の望み通り、誰にも真実を知られる事なく任務を遂行しよう。
元皇后の尊厳を守り暗殺しよう、殿下も事の真相を知らず、民の流す涙が故人を偲ぶモノであるように。
それは木の葉の忍びにしか出来ない事だから。 響様、あなたの決断は決して間違ってはいませんよ。


「城に入ってからは、オレ達の好きなように動いていいんですネ?」
「はい。 自由に行動できるお膳立てはしたつもりです。」
「ボク達はイベント会社 “火の企画”の売れっ子チーム、ですか。」
「誠に恐れ入りますが、今しばらく私に護衛されて下さい。」

「・・・・ぷ! あははは! 了解です、しっかり守って下さいね?」
「「ね?」」
「ははは、どう考えても反対ですが、ね。」

暗殺対象は亡き王の后、昴王の母君 碧〈みどり〉様と、その元皇后が庇護している偽医療チーム。
奇病解明研究とは名ばかりの地下研究室を破壊する事。 そしてそこにある全ての研究内容を抹消する。
なぜ碧様が道を踏み外したか。 それは誰にも分からない。 けど言える事はただ一つ、歪んだ愛だ。
王への愛が、いつの間にか恐ろしい研究へと手を染める様になった。 我が子への愛も忘れるほど。

碧様は亡き王のクローンを作りだそうとした。 死んでしまった人間と、同じ人間を世に出そうと。
響様がそれを発見したのはホンの偶然から。 穀物を荒らす鼠を駆除しようと、町の業者に依頼した。
固形の毒団子を、鼠の通り道に仕掛けていた業者の一人が、足を滑らせて下水に落ちてしまったんだ。

たまたまその日、見回りに出てた響様が、下水へ探索に向かった。 そしてある地下通路を発見する。
城にある地下通路は全て覚えている、これはいつ、誰が、何の為に作った通路なのか、と。
そこを通って着いた先の部屋では、碧様のお抱えの医療チームが何やら研究に没頭していた。
王を奇病で亡くした為、その奇病の研究に権威ある医療チームを庇護している、そうだったはず。

どう見てもそこは地下、ひっそりと人知れず、一体何を? そう疑問を持ち、後日、単身で侵入した。
そこで見たモノは、ガラスの筒に入ったたくさんの王。 それも昴王ではなく、先代の幼少の頃の。
皆、どこか一部が抜け落ちていた。 鼻がなかったり、目がなかったり、口がなかったり。

けれど見れば見るほど先代そのもの。 例え幼少の姿とはいえ、自分が王を見間違えるはずがない。
確かに始めは普通の医者だったらしい。 いつの間にか数人ずつ、入れ替わっていたんだ、学者と。
碧様がこのチームならと選抜した医師は、調べ直してみれば、皆権威あるクローン研究の遺伝子学者。
ならばこの研究は。 王を死に至らしめた病の研究でなく、王のクローンを育成していたのか、と。