古今東西のセオリー 1   ABC DEF GHI JKL M




古今東西、どんな小さな忍びの隠れ里にも、重い業を背負う暗殺専門に訓練された忍びの部隊がある。
木の葉隠れの里も火影様が自ら選抜し、個人的に動かす部隊、暗殺戦術特殊部隊 通称暗部が存在してる。
俺はひょんなことから、暗部の隊員見習いと顔見知りとなった。 はっきり言って暗部はムカつく奴らだ。
正規の忍びの事なんてこれっぽっちも考えない。 何と言うか・・・・ とにかく身勝手で嫌な奴ら。

まあ、知り合った二人の暗部見習いは違う。 だから全員がムカつく、なんて言えないけど、それでも。
でも実際の暗部は・・・。 直轄部隊だもん、三代目もああいうやり方を黙認してる、って事だよな。
あの優しい二人も・・・・ 将来はあんな奴らみたいになっちゃうかも、と思うと・・・ 凄く悲しい。

九尾襲来で死んじゃったけど、俺の両親は忍び。 暗部の存在は小さい頃から聞かされて知っていた。
火影様に一番近い存在で、その肩の荷を半分位にしてあげる忍び達・・・・ そう教えられて来たんだ。
逝ってしまった両親に、もう確かな答えを聞く事は出来ないけど。 その意味が今ならはっきりと分かる。
火影様の考えを誰よりも理解して里の為に働く忍び達、三代目の手足となり動く存在の事だ、って。

なのに・・・ 実際におれの目で見た暗部達は違った。 結果だけを考えれば良い事かもしれないけど。
一番最初に暗部と現場で一緒になった時、それを痛感した。 俺だってそのぐらいは理解できるよ。
敵を一人でも残しておいたら、いずれ憎しみを育てる芽を残すだけだと。 そんな事、分かってるけど。

俺は・・・・ 暗部の戦い方は好きになれない。 人を殺すのに好きも嫌いもない、それでも道理は必要。
“木の葉の忍びは対面で口にした約束を守る者達”その信用があるからこそ、開けた終戦の道なのに。
投降して来た忍びとの約束まで反故にする必要が? それなら最初から敵忍殲滅でいいじゃないか、と。
俺の両親が誇らしげに語ってくれた暗部の姿はどこにもなく、ただ嫌な感情が心に残っただけだった。








俺が始めて暗部の戦い方を目にしたのは、長期戦の支援の為、補給物資を届けに行った先の現場で。
忍びを雇って火の国の町を襲わせた他国の大名は、そんな奴らは知らない、とその忍び達を切り捨てた。
木の葉の忍びに追いつめられ包囲されてもなお、交戦を続けている。 全くの無駄な戦場での事。
相手の忍び達は、せめて木の葉に一太刀でも浴びせたいと、意味のない抵抗をしているに過ぎなかった。

その現場に暗部が一部隊投入された。 敵は完全に戦意を喪失、たった一個隊 スリーマンセルの投入で。
何度となく隊長が停戦を呼びかけたのに、その度に情けは無用だと返答して来た向こう側の隊長が。
自分達では一太刀どころか、傷すらも負わせられないと悟ったのだろう、ついに投降してきたんだ。

木の葉の忍びは対面での約束は必ず守ってくれると信じるぞ? と、やっと意を決して投降して来た。
相手の部隊の隊長が要求してきたのは、包囲されてる自里の忍びの解放。 自分以外は見逃してくれと。
それはずっと、ウチのカジキ隊長が言っていた事だ。 だから投降しろ、と何度も繰り返し呼びかけてた。
そして約束通り隊長の首と引替えに、戦いに終止符が打たれた。 包囲を解除、敵忍の退却を黙認。

なのに。 俺達が部隊を引き揚げた道々で、退却したはずの敵忍がことごとく斬り殺されていた。
先に里に戻ったはずの暗部が手を下したんだ。 カジキ隊長が “悔しいよ”・・・・ と小さく言った。
俺と違って隊長は、現場で何度も暗部と一緒になった事があるらしい。 だから分かった、と。

長期に渡って説得を続けていたカジキ隊長の立場は? 隊の命を預かる隊長同士、交した約束は?
木の葉を信用するぞ・・・ と投降して、他の忍びの命を救ったはずの・・・・ 潔い忍びの魂の重みは?
そんなモノどこにも存在しなかった。 俺達の目前に映ったのは、首と胴体が切り離された死体だけ。
木の葉の暗部の使う忍刀は、特殊な術式が組み込まれていて、斬れば切り口が火で焼けるそうだ。

分かってる、だからカジキ隊長も何も言わなかった。 生かしておいても、いずれ木の葉を恨むかもと。
けれど木の葉を恨むより前に、自分達の為に命を投げ出した隊長を称えてしかるべき、そうだろ?
生きて戻らないなら・・・・ 自里に戻った時、その隊長がとった行動と交渉を語り継ぐ事さえ出来ない。

これが本当の姿なのか・・・ 俺が里の誉だと聞かされていた木の葉の暗部の、戦い方なのかと失望した。
その後何度か、断面が焦げた死体を目にする様になる。 必ずその前後には暗部の影がチラついてた。
里の為を思っての行動、そんな事は頭では理解できる。 でもやっぱり偉そうで、好きにはなれない。
戦意のない刃を持たぬ敗者、そんな者達を斬って偉そうにふんぞり返ってる奴らを。 綺麗事・・・ かな。

「「イルカ! どこ行くの?」」
「!! あ・・・・・・。」

丁度悲しいな、って思ってた所だった。 あの暗部二人が、いつかあんな忍びになったら・・・・ って。
この前の任務で一緒になった、優しい暗部達・・・・ いや、まだ見習い中だっけ・・・ その二人がいた。
俺が忍びになったのは、里を守る為。 結果的にそれが里の為だとしても、そんなのはやっぱりおかしい。

ああ、分かってるよ。 血の一滴も流れない平和なんか、ある訳がない。 俺も中忍なんだ、分かってる。
こんなのは俺の勝手なエゴで、綺麗ごとでは国や里の民を本当の意味で守る事なんて出来ないと知ってる。
この二人にはあんな風になって欲しくないと思うのは、俺の理想をおしつけてるだけだって十分承知してる。
大丈夫、俺さえボロを出さなきゃ、二人は木の葉を背負って立つ里の暗部になると・・・・ 信じてるんだ、俺。