古今東西のセオリー 12
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首を差出せば他の忍びの退却を黙認する、敵部隊の隊長と副隊長がカジキ隊長の投降交渉に応じた。
暗部に応援を要請する前に既に纏まっていた交渉。 敵忍の首と引替えに停戦、双方撤退だったらしい。
だがカジキ隊長は三代目より指示を受けていた。 訴えと似たような現場に遭遇したら見極めを、と。
そこで敵の隊長と副隊長に、更に協力交渉をした。 木の葉に協力してくれたら二人の首も取らない。
木の葉の暗部内で処刑が行われるかも知れない。 ついては見極めの為、ぜひ一役かってもらいたい。
二人の首を任務報酬としてお返しする、これをもって自分個人からの任務依頼とさせて頂けないかと。
死を覚悟して投降してきた敵部隊の隊長と副長は、願ってもない事だと即決で交渉が成立した。
カジキ上忍はまず、山中にいる動物を敵の忍びの数だけ集めさせた。 更に敵の額当てを着けさせる。
その動物達が身代わりになってくれると説明した。 後で凄い忍びが来るから、それで十分だと。
そして敵部隊の隊長と副長以外の忍びを、全て撤収させた。 敵陣営に人間は二人だけだったんだ。
カジキ上忍と交した別れの盃は・・・・・ お互いの部下の死を最小限に留めた、その計略の成功を祝って。
二人は自分達の身代わりの動物を木の葉の陣営に置いて、盃を交わしたその日の夜に自里に戻ったらしい。
次の日見た二つの首は、身代わりの動物のモノ。 投降してきたんじゃなく最初からカジキ陣営にあった。
「“テンゾウさん、全部木遁で人型にして下さい、ここにいる動物達を核に”・・・・ですもん。」
「“カカシさん、動物入りの木遁人形が敵忍に見えるように瞳術をよろしく”・・・・だもんネ?」
「「ああ、こりゃなんか企んでるな、って思った。」」
「ははは! いや、お二人なら余裕で出来るかな、と。 チャクラは使いますがね。」
「簡単に言ってくれるよネー? オレなんてサ、戦いの最中ずっと写輪眼回しっぱなしだったヨ?」
「ボクも木遁のチャクラコントロールでフラフラ。 動物から血を吸い上げて血しぶき出すのに。」
「まあまあ。 ばっちり体力ついたでしょう? なんせプチ料理忍の給仕でしたから。」
「「うん、バッチリvv」」
・・・・・・あの、しがない中忍の俺には、あまりのハイレベルな会話でついていけないんですけど。
えー つまりはこうか? スケさんとカクさんからやけに血臭がしたのは、木遁人形の動物の血の臭い?
部下達が敵忍だと思って斬り捨てた木遁人形の中の動物達を・・・・ 取り出してたから、とか? ・・・ん?
「まさか。 やたら血抜きした野豚や小鹿を差し入れしてくれてたのは・・・・・」
「ウン、だってそのまま捨て置いちゃ可哀想でショ? 食べてあげないと。 ネ?」
「ええ。 おかげでカジキ隊皆が、スタミナモリモリだったでしょう? ふふふ。」
「・・・・・・・カジキ上忍?」
「一石二鳥。 ・・・・だろ?」
ははは・・・・・。 全部が最初から予定通りだったんだ。 スケさんとカクさんに・・・・ じゃなくて。
カカシさんとテンゾウさんにフルに働いてもらうから、後方支援隊に給仕を組み込んだんだ・・・・。
カジキ上忍の計算外は二つ。 一つ目は、暗部の長達に惚れてしまったとぬかした、イタイ中忍男の存在。
そして二つ目が、その暗部の長達。 二人とも顔を見せてるんだ、自己紹介ぐらいしてるだろうと。
きっとカジキ上忍の中では、暗部の部隊長と補佐、この二人に惚れてしまった海野中忍と映っただろう。
で、俺はそうとは知らないから、この理想の見習い暗部の二人を守らなくちゃ! って、一人で空回り。
でもお二人も・・・・ 最初から給仕担当の俺には教えてくれればよかったのに! なんて思ったけど。
あの暗部二人に突っかかった所を、どこかで見てたから? 部隊長と補佐だと教えたらマズイとでも?
・・・・・でもまあ。 そう思われても仕方がない。 あの場でもし二人の存在を俺が知ってしまったら。
あの二人の暗部の見極めだとも知らず、お二人を罵ったかも。 それでも部隊を纏める存在なのか、と。
あの時の俺は。 暗部は殺しを好む者達で、正規の忍びの事を考えない嫌な奴らだと・・・・ 思ってたから。
きっと二人の存在を、見極め対象でもある部下達に知られていたかもしれない。 違うな、かも、じゃない。
確実に知られてた。 そしてカジキ隊長の計略も何もかもをブチ壊してた。 更には・・・・ 処刑も。
見極めが中止となったらあの堕ちてしまった暗部達は・・・ 無意味な殺しを続けていただろう・・・。
古今東西のセオリーだ、敵を騙すには味方から。 今回はそれにプラスα、敵も使って味方を騙した。
皆、現実とはこういうものだと思い込もうとしてた。 所詮木の葉も他里と同様、火の意志とは建前。
三代目直属部隊がそうならば、これが本来の木の葉の戦い方だったのか、と。 信念を失いかけてた。
たった二人の隊員が行っていた殺戮の為に。 それほどに影響力を及ぼすんだ、火影の勅命で動く忍びは。
でも堕ちた事も処刑された事も正規の忍びは誰も知らない。 殉職した暗部は慰霊碑に名が刻まれるだけ。
「・・・・・俺に後を追わせたのは、敵忍が無事に退却したと言わせる為、だったんですね?」
「ああ。 暗部も変わった、って事を印象付けたかったんだ。 実際には変わってないが。」
「ウン。 変わっちゃってたのはオレ達の部下。 ・・・・知らないうちに堕ちてたんだーヨ。」
「現場を知る人間が声を上げない限り、そこで何があったかなんて、誰にも分からないんだ。」
カジキ上忍の目的は、敵忍の退却を確認した誰かが皆に報告して、暗部も変わったんだと思わせる事。
皆の思考を本来の思考に戻す事にあった。 すぐにとはいかないけど、ここから変わる布石になるように。
敵忍の退却を確認! と誰かが嬉しそうに報告するだろう、そして出来事は皆の口々に上る様になると。
本当に。 本来なら俺が知らなくていい様な事。 任務での出来事は自然に浸透するように仕組まれてた。
「・・・・・・なのに俺が、微妙な言い回しをしたから・・・・」
「“いつも通り、でも死体はなかった”だろ? あれで暗部を誤解してるな、と思ったんだ。」
「だから話がある、って・・・・・ 呼び止めたんですか。 俺を。」
「暗部も変わったと、皆に少しは印象付けられたけど、お前のは根が深そうだったから。」
その通りです。 自分の理想と違ったと勝手に思い込んで失望してましたから。 現実をつきつけられて。
それが現実だと自分に言い聞かせて、実際の暗部の姿を見ようとしなかったんだ。 もっと、もっと。
俺が大好きなドラマの火の漫遊記よりも、もっとずっと・・・・ 現実の暗部はカッコよかったのに。
カジキ上忍と三代目に報告を、と。 確かに二人は言ったのに。 身勝手な俺がそうしなかっただけだ。