古今東西のセオリー 4
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暗部投入後、たった二日・・・・ 傍若無人に暗部達が戦場で暴れ回ったおかげで、今さっき使者が来た。
資金を提供していた国から援助金が打ち切られた、自里の忍びをこれ以上犠牲にしたくはない、と。
戦意は先に喪失した方が負け。 雇っていたどこかの偉いさんが、暗部投入の知らせを受けたんだろう。
そして交渉は成立、敵陣から代表者二名の首と引替えに半日動かない事。 つまりその間に撤退するんだ。
こういう場面は何度見ても胸が熱くなる。 カジキ上忍はいつも敵の隊長と別れの盃を交わすんだ。
お互い、隊を預かる隊長としてその決断に敬意を示す。 明日は我が身、自分も同じ事をすると。
そして次の日、自軍に戻って撤退の命令を下した敵部隊の隊長と副隊長が、木の葉の陣営に投降してきた。
・・・・・けれどこれが。 形だけのモノだという事を、最近知ったばかりだ。 まだ全然慣れない。
敵とはいえ、仲間を助けられたと思って投降してきた誇りある忍びの魂を・・・・ 踏みにじる行為を。
自分もそういう場面に遭遇したらきっと同じ選択をすると、敬意を表するカジキ隊長の思いも、全部。
どうせまた、あの光景を目にするんだ。 撤退した敵忍を、一人残らず殺すつもりだろう、暗部は。
スケさんと・・・・ カクさんも・・・・ 狩りを楽しむのかな・・・・ 戦意を喪失してる忍び達の・・・・
三代目、火の意志とは何ですか? 里が違う、国が違うからと・・・ 忍びの命に差があるんでしょうか。
互いの利害が一致して動く、それが忍び。 ただ単に殺しを好む者を、俺は忍びと呼びたくありません。
結局、暗部投入後三日という早さで、双方戦場から撤退。 片方の部隊は帰還、もう片方は・・・・・・
それはいつもと違う光景だった。 いつもならこの帰還ルートに、退却したはずの敵忍の死体がある。
でも今日は普通の道。 暗部が投入されなかった時と同じで、普通の帰還ルート。 なんの変哲もない道。
暗部が投入されなかった時・・・・ 交渉が成立して敵忍が・・・・ ちゃんと退却した時と同じだった。
「・・・・・・・・カジキ隊長。 今回、他里の忍びは・・・・ 無事に帰還出来たんでしょうか?」
「暗部の投入時は、覚悟してるんだが。 ・・・・・そう願いたいな。」
「・・・・・隊長、ちょっとだけ個人行動してきていいですか? どうしても気になるんです。」
「何言ってる、ちゃんと申告してるなら、個人行動じゃないぞ? ははは。 ・・・・行って来い。」
「はい! 確かめて来ます、この目で! カジキ隊長にも・・・・ 報告しますから!」
いてもたってもいられなかった。 確たる証拠が欲しい。 あの忍び達が死んでないという事実が。
隊長のカジキ上忍も、カジキ隊の皆も。 思ってる事は俺と一緒だ。 事の顛末を確かめたい、それだけ。
まだ何度かしか暗部投入の戦場に居た事はないけど。 でもその度に思い知らされて来た、辛い現実。
三日間、スケさんとカクさんと一緒に過ごした。 いつも皆に気を遣わせちゃうからと、一番乗りで。
隊の誰かの気配を感じたら、すぐに消えた暗部見習いの二人。 そんな二人と過ごす時間が楽しかった。
皆の為に食材を差し入れてくれたり。 血臭がしてた・・・・ 戦場で先輩達と暴れて来たんだと知る。
でも“控えおろう! 木の葉の暗部なるぞ!”ってやって来たよ? ・・・・・そう言って笑わせてくれた。
俺のこの三日間は、あの二人のおかげで癒されていた。 まだ隊員の見習いだから、かもしれないけど。
木の葉の暗部はこうであって欲しいと・・・ 勝手に思い描いていた姿を投影してるからかもしれないけど。
今迄の事は、何か止むない事情があったんじゃないかと・・・・ もの凄く期待をしている自分がいる。
早く! 早く駆けろ、俺の足!! あの里の方角はこっちだ、皆が安全に撤退するとしたら・・・・・
敵忍の足跡を追い、分かれ道まで来た。 今迄の道のりで死体とは遭遇してない、まだ一体も!
・・・・・?? これは・・・・・ 足跡が・・・・・ 林に続いて・・・・ 退却ルートから外れてる??
なんだろう、嫌な予感がする。 別にわざわざ確かめなくてもいいじゃないか、ともう一人の俺が言う。
「・・・・・スケさん? カク・・さん??」
「アララ。 やっぱりイルカだったのネ。」
「意外に上手に追尾するね、吃驚したよ。」
「・・・・・それは・・・・ その二人は・・・・・」
「・・・・・そう、見習いだと思って油断してた・・・ おバカな先輩達ですよ。」
「でも・・・・ だからって・・・・ これじゃ二人は同胞殺しじゃないですかっ!!」
「・・・・ウン。 イルカ、カジキ上忍や三代目に・・・・ 報告していいヨ?」
そんな事、言える訳がない! 私情で同胞を殺したなんて。 しかも見習いが・・・ 暗部の隊員を!
それよりなにより、今この事実に歓喜してる俺を・・・・ 仲間の死を喜んでる自分なんて認めたくない。
なぜ敵忍の足跡がここで途切れていたか。 ここまで暗部に追われていたからだ。 そして・・・・
二人の暗部が死んでいる向こう側に・・・・ いくつもの足跡が続いているのは・・・・ 撤退したから。
「うぅ・・・ っく! っっつ・・・・ 両部隊の忍び・・・誇りを・・・・ 守った・・ ですね?」
「「・・・・・・・そういう風にとってくれると嬉しい。」」
「何言ってるんです?! それ以外に考えられないでしょう?! うぅぅうううう!!」
「「・・・・・イルカって・・・ 泣き虫だね? くすくす!」」
そんな笑ってる場合じゃないだろ?! もしこの事がバレたら・・・・ 里の忍び同士の私闘は重罪。
里を追放されるだけじゃなく、その場で処刑される事もある。 そんな危険を犯してまで・・・・
誰も出来なかった事をこの二人がした。 これも行く行くは里の為だと、皆目を瞑っていた事を。
本当なら上に報告するべきだ。 そんな事、アカデミー年少組でも分かる。 でも・・・・ でもっ!!
「俺は・・・・ 何も見てません。 グスッ! いつも通り、何も見てませんっっ!! うっ、うっ!」
「「・・・・・・・イル・・・カ?!」」
「この手が・・・ 木の葉の忍びの誇りを守ったんですね・・・・・ この手が・・・・ くっ!」
「「ほんと、泣き虫・・・・・。」」
誰にも言うもんか! この二人はその手を同胞の血で染めた、けど俺にはその血で染まった手が・・・・
何よりも尊く感じたんだ、悪いかっ! 二人の手をとって、みっともないぐらいボロボロ泣いた。
これから二人が背負っていく同胞殺しという業。 俺も一緒に背負います、と沈黙を誓って泣いた。