古今東西のセオリー 5
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カジキ隊長に報告しますから、と言った。 だから伝えたんだ。 “いつも通りでした”って。
隊長は一言、“そうか”と言っただけで・・・・ カジキ隊の皆はあからさまにガッカリしてた。
それではっきりと分かったんだ。 やっぱり皆、俺と一緒で黙って目を瞑っていただけだったんだと。
まるでお互いの傷を舐め合ってる様に、カジキ隊の皆が口々に言う。 イルカ、偵察お疲れさん、って。
“向こうの隊長と副隊長は知らずに逝けたんだ、せめてもの慰めだと・・・ 思っていような”
“いつか自分達も同じ目に合う、その時に因果応報だと思って・・・ 潔く敵の刀を受けようぜ”
暗部のやり方に反感を持ってたのは、俺だけじゃなかった。 本当に、思ってる事が同じだったんだ。
「でも死体は転がしっぱなしじゃなかったですよ。 綺麗に始末してくれたみたいです。」
「・・・・・そうか。 じゃぁ、オレ達が後始末する必用はないな。」
「・・・・・・少しは、マシになった・・・・ って事ですかね?」
「どうかしら。 後をつけて行って、あの里ごと潰してるかもしれないわよ?」
「「「・・・・・・・・。」」」
疑い出したらキリがない、それだけの非情な部隊だと皆が思っているから。 今迄、死体は放置されてた。
木の葉に刃を向けた愚かな隠れ里の者の末路だと・・・・ その死体を使って宣伝でもしている様に。
だから必ず隊の皆が燃やした。 騙し打ちの証拠が何も残らない様に。 そこにある死体を燃やすだけだ。
カジキ隊長をはじめ、大部隊を預かる隊長は、皆その決断を下した。 何もなかった事にするんだ、と。
何が、誰が一番正しい、なんて。 戦場の中ではそんなの存在しない。 ただ生き残るか死ぬか、だけ。
死んだ者は誰にも何も伝えられない、生き残った者が事実でも虚空でも、語る権利を得る。 それだけ。
暗部は強行だけど里の頼れる仲間、だからその仲間がした事を黙認するのも仲間意識からだと言い聞かせて。
「まあ、でも。 あんま一緒になりたくはないな。 応援に来てくれたのは嬉しいけど。」
「うん、せめて敵の戦意を喪失させるだけにしてくれたら・・・・ ね。」
「・・・・・・ふ。 オレ達が終結させられないのに・・・・ 勝手なもんだな。」
「そうね。 暗部は・・・・ 手っ取り早く任務を終わらせただけ・・・・ だものね・・・・」
「「・・・・・・・・・。」」
敵忍が一人も自里に戻らなければいい。 この光景を一般人が目にして人の噂が飛び交わなければいい。
隊長同士の約束などなかったんだ。 そうすればそこで何があったかは敵忍の里で誰も知らないのだから。
こうやって今迄、正規の忍びが黙って暗部の強硬なやり方の後始末をして来た。 今回もそうするモノだと。
でも今回は燃やす死体は一体もない。 敵忍の部隊のほとんどが、無事に自里に退却したんだ。
誰かが言った様に、後をつけて里ごと始末する、っていうのも考えられなくもないけど、俺は知ってる。
スケさんとカクさんが、いつも通り任務を遂行しようとした暗部隊員の二人を・・・・ 殺した。
俺に、たかが給仕だろ? という様な態度をとってた暗部の隊員達だった。 アイツらが死んでたんだ。
でも俺がそんな事を、隊長や皆に報告したら。 スケさんとカクさんは里のご意見番の審議にかけられる。
何も言わなければ良い。 ただ黙ってさえいれば。 俺さえ口を閉ざしてれば、そんな事にはならない。
あの暗部の二人は、油断して敵忍に殺られちゃったという事にするだろう。 あの二人ならきっと。
俺が沈黙を二人に誓ったから。 絶対同胞殺しを自白をしては駄目です、と念を押したから。
『 重い業を背負ってでも生きて欲しい。 里の忍びの誇りを守った暗部が、軽々しく死んでは駄目だ。
出来るなら正式に暗部の隊員になっても、その誇りを貫く強さを保ったままの隊員になって下さい。
俺個人の意見としては、そこに死んでいる暗部よりも、お二人の方が里の暗部らしいと思います。 』
・・・・・と、まあ。 自分勝手にも俺の理想を押し付けてしまったけど、全部本当の気持ちを言ったまでだ。
二人も・・・・ それは穏やかに、俺の身勝手な告白を聞いてくれた。 ・・・・泣いてたからな、俺。
男の癖に、更に忍びとして恥ずかしいけど、泣いちゃうんだよ、俺。 自称 抑えきれない感動屋さん。
でも三代目は、そういう忍びがいても面白い、って言ってくれる。 だから俺は昔から感動屋さんだ。