心にいつも太陽を 10   @AB CDE FGH JKL M




ちょっとした腹癒せにアスマさんをからかったら、捨て台詞をはいて火の寺に戻って行った。
あ、羽多宵の正体。 ・・・・・しまった。 でも手掛かりはある。 緒方さんなら何か知ってるはずだ。
それにチャクラを使ってないなら、変化じゃない。 長めの黒髪を持つ中忍。 顔の中央を横切る傷。
今さら三代目には聞けないけど。 慈しむような柔らかい微笑みと、正面から見つめる視線を持つ人物。

「中忍か。 木の葉の。 ・・・・・喜んでいいのかナ?」
「房術を会得してる潜入員ですからね。 どうでしょう?」
「里が保護するワケだよネ。 房術を使いこなす忍びなら。」
「さすが木の葉隠れの里です。 騙されましたね、ボク達。」

房術は体を使って敵を籠絡する術。 早い話がヤルんだ。 敵に弱点をさらすから、普通なら耐えられない。
幻術を使ったり、幻覚香を焚いたり、ターゲットを絡め取る方法はたくさんあるが、それにはリスクが伴う。
術や忍具を使うとなると、敵に気付かれる場合があるから、任務の失敗に繋がる。 下手を打ったら即死だ。
さっきの話じゃないけど、紅さんのように自分の忍術レベルに相当自信がないと、籠絡には使えない。

「なんかさ、羽多宵が木の葉の忍びだと聞いても、まだ抱きたいのって・・・・ おかしいかナ?」
「いえ全然。 何でですかね、女体大好きなボク達が、こんなに肩すかしくらってまで、なんて。」
「羽多宵なら仕事だから、お金出せば囲われてくれただろうケド。 里の忍び、か。」
「ですね。 ボクなんて、里で会えるからって、無条件で喜んじゃいましたよ。」

忍術・体術ともに人並みで、房術を身につけた忍びがいたなら、それはそうとうな精神力の持ち主だ。
自分の体ひとつで、多分、自分より強いだろう忍びを絡め取るんだ。 自分を食わせて相手を喰らう。
あの時血濡れのボクを映した瞳は、誇りを持っている者の目だった。 彼はその心で房術を手にしたのか。
ボクは思ったはずだ、羽多宵を陰間にしておくには惜しい、と。 当然だ、木の葉の忍びなのだから。

「先輩、もしも。 もしもですよ? 任務をこの目で見たら、気が変わるかもしれませんよ?」
「・・・・・・そうか? 逆に惚れ直して・・・・・・ ハッ!!!!!」
「惚れ?! ・・・・・・なんだ、そうか! そうだったんですね?! ふっ、あははは!」
「あははは、オレ達惚れてたのか! だからか。 ここまでコケにされても諦めないのって。」

彼の任務を現場で見たら、こんな貴重な人材はいないと確信するだろうと思った。 木の葉に必要だと。
彼を仕事仲間として認め、時には手を貸してもらおうと思うかもしれないと。 でも・・・・ そうか。
ただ木の葉の里の為に、火の国の為に。 ボク達は、いつかは土に還るモノだとばかり思っていた。
三代目、これが誰かを欲しいという気持ちなんですね? ボク達はその中忍に、恋焦がれていたんだ。

「これは何としても、羽多宵を、いえ。 その中忍君を探しましょう。」
「当然だろ? 王国ホテルのキングスイートのキープ代、一ヶ月分を請求してやる!」
「あはははは! 中忍の給料じゃ、10年のローンですよっ! くすくす!」
「体で払ってもらえばチャラにしてやらないコトもないヨ? ・・・でショ?」

ええ、その通りですよ。 いくら潜入員とは言え、最初から教えてくれてれば、こんな事にはならなかった。
火影様も・・・・ あ、でも三代目、先に潜ってるヤツがどうとか、って・・・・ 言ってたっけ。
てっきり緒方さんだけだと思ってたけど羽多宵も、だったなんて。 ・・・・ボク達暗部の面と同じ、か。
味方であっても素顔をさらさないのは、知る者を選別してるから。 潜入部隊の房術使いも同じなんだ。

「房術? 上等だーヨ。 オレ達の過去を読み取って、たっぷり世話してもらおうじゃない!」
「そうですよね、中忍君を抱いたとしたら、ボク達の今迄全部、見られてしまうんですよね!」
「あんな病気の老いぼれを看病するぐらいなら、オレ達の心を看病しろヨ、ネ?」
「あははは! そうですよ、ボク達めちゃめちゃ可哀想な生い立ちなんだから!」
「「ブッ!  はは、あはははは!!! 覚悟しろ、中忍め!!」」

三代目は、直轄部隊で女体好きのボクらなら、ただの陰間なんかに惑わされないと予想したんだろう。
一応予想外の事も考えて、火の国の要人を顧客に持っている、なんて偽情報も流した。 でも。
それって裏を返せば、魅入られると知っていたからだ。 羽多宵が里の忍びだと、ボク達が知ったなら。

どのお偉いさんも囲えなかったはずだ、木の葉隠れの里の忍びなら。 しつこい奴には忘却術だしね。
房術使いは、里の貴重な情報搾取道具。 私物化してはいけないと、里の忍びなら誰もが知っている。
でも手に入れるよ? ボク達にはその権限がある。 火影直属 暗殺戦術特殊部隊の部隊長と補佐だから。

暗部養成組織 根 の解体と共に、暗部自体を再編成し、カカシ先輩とボクが部隊長・補佐に任命された。
その時に火影様がこう言った。 心をさらけ出せる相手を見つけたら、お主達はさらに強くなる、と。

『いつか心から欲しい者が現れたら、ワシに請え。 上層部なんぞ関係なく、ワシが添わせてやる。
 それが、茨の道を裸足で歩き続けるだろう孤高の忍びに対する礼儀。 それまで死ぬ事は許さぬ。』って。