心にいつも太陽を 5
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なんだあの目。 誇りを持ち続けてるような目だ。 たかだか高額というだけの陰間ごときが。
遊女達もそうだが、体を売りモノにしてるヤツは独特の目をしてる。 無意識に媚びる目だ。
あの羽多宵にはソレがない。 むしろ自分に誇りを持ち、清楚な気まで纏ってる。 あり得ないヨ。
城を発つ前、不意にさっきの話が気にかかった。 国主を看取ってから出国するという羽多宵。
人に媚びず凛とした態度の高級娼夫、か。 残るは病弱な長男だけで、自分に意見する者はいないなら?
四男は・・・・・ 時期国主は羽多宵を気に入って、そのまま城に閉じ込めるかもしれない・・・・。
いくら緒方がついていようが、引きとめる理由はたくさんある。 兄達の為にとか、父を偲んでとか。
「・・・・・緒方、アレさ。 多分・・・・ 残しといたらマズイんじゃない?」
「は? 羽多宵の事か?」
「・・・・・ですね。 あの四男も。 時期国主がハマるかも知れませんよ?」
「ははは、その為に俺がいる。 おれは三代目直伝の忘却術使いだ、忘れたか?」
「あ、そうか! だったら心配ないですね。」
「チョット待った! オレ達にかけないでヨ?」
「暗部のトップツーが、かかるワケないだろっ!」
「「そりゃそうだ。」」
「嫌みか、この天才共! はははは!!」
そこらヘンのヤツに天才とか言われたら腹立つけど、笑い合える。 緒方はちゃんと知ってるから。
オレ達がここまで来るのに、どれだけの血路を切開いて来たかを。 冗談を言い合える数少ない仲間だ。
そうか。 四男と、多分、病弱の長男からも。 ふたりの記憶から、羽多宵の存在を消すんだネ。
一国の大事に関わったのに、その存在は消される・・・・。 本人も承諾してるんだろうな、きっと。
「安曇野の国の跡目争いの真相を知ってるのは、オレ達だけなんだ?」
「まあ、そう言う事になるな。 おれ達と、羽多宵だけだ。」
「口が堅そうですもんね。 墓場まで秘密を抱えていきそうです、あの人。」
「なんだ、おい。 お前らもやられたのか?! ロクなことないぞ、やめとけ。」
「ナニ言ってんだか。 男はお断り。」
「高級娼夫に、ですか? 冗談!」
商売者に入れあげたら、骨の髄までしゃぶりつくされる。 いくらなんでも、そんなバカじゃなーいヨ。
それにオレは女の体が好きなんだよネ。 フニフニと柔らかい胸を揉むのが好きなんだヨ。
一国の秘密を娼夫が知った、いつかバラせば殺しに行けるのに・・・・・なんてネ。 少し思ったダケ。
けどテンゾウの言う通り、どんなコトがあっても客の秘密は漏らさない、っていう妙な確信がある。
「なんだかナー 想像してたのと違うから・・・・ ま、深入りしたくない・・・・って感じ。」
「確かにそうですよね・・・・ 男を手玉に取るのが楽しい、みたいな想像してましたから。」
「・・・・・・じゃ、おれはもう少しコッチに残るから。 火影様によろしくな。」
「「わかった、お疲れ!!」」
あれから一週間。 昨日安曇野の国の国主が代わったと、伝え聞いた。 あの娼夫はもう国を出たかな。
・・・・・どうにも落ち着かない。 緒方の帰還情報に、耳をそばだててるオレ。 笑ってしまう。
でもなんて聞けばイイ? 国主を看取った羽多宵がどこに行ったか知ってる? なんて聞くの?
そんなこと聞いたら、オレが陰間を抱きたいみたいじゃない。 オレはただ、もう一度会って・・・・
「会って・・・・ どうするつもり? ナニがしたいの、オレっ!」
まいった。 緒方が帰って来たという情報だけで、こんなに頭が一杯だ。 オレどうしちゃったの?
あ、きっと溜まってるんだ、そうだ、最近ヌイてなかったし。 《イカせてあげる》に行こう・・・・
コマキちゃんにヌイてもらおう、上手いし。 割増で本番もOKだから。 久々にハメようかな。
スッキリしたら、きっと羽多宵のコトなんて思い出しもしない。 溜まってるからだ、うん。
緒方が火影室に向かう途中ですれ違った。 よ、オカエリ、と片手を挙げて挨拶して通り過ぎる。
羽多宵はどこの娼館に行って、誰に口利きをしてもらえば来てくれるのかな・・・・・ はっっ!!
まただ! 溜まってるからって、余計なコト考え過ぎ!! ん? ・・・・待てよ?
あの時確か、国主は三代目の紹介で、とかなんとか言ってなかったか?! まさか三代目が仲介役?!
「“よもやお主ともあろう者が、色に溺れてるのではあるまいな?”って言うよネ、三代目・・・・。」
とにかくこんなモヤモヤした状態じゃ、任務に支障がでるかもしれない。 イヤ、そんなコトないけど。
任務中は他のコトなんか一切頭からなくなるし、大丈夫。 完了後に、こう・・・・ 人に戻った時に。
刀を研ぎながらため息ついてるらしい。 部下に言われるまで、ため息ついてるなんて意識しなかったヨ。
・・・・・こんなに溜めるなんてどうかしてる。 さっさとヌキに行こう。 サッパリして来よう。