くノ一の男 1   ABC DEF GHI JKL M




おれはどの国にも属さない忍びの里、煌々〈こうこう〉の里の忍びだ。 頼まれればどの国にでもつく。
一国に仕えるのは馬鹿のする事だ。 その国が勝手に広げた領土のせいで、保護する対象が増えるだけ。
他力本願なくせして、虚勢を張りたがる国主や大名ばかりの権力者どもに、利用されるのがオチ。

喧嘩を売る相手の国の隠れ里の事情を把握していないから、結果的に損をするのは現場のおれ達忍び。
大規模な戦いになると頼るくせに、いざ戦いに失敗して領土を取れなかったらおれ達 忍びの力不足だ、と。
そんな馬鹿な奴らに仕える気はない。 煌々の里は、そういうしがらみを一切持たない忍びの隠れ里だ。
一国に仕えない隠れ里だからこそ、動ける事もある。 ただし、おれの里ならではの独特の規律はあるが。

それは当然だろう。 国に己の力を利用されるのが嫌な忍び達が作った里だ。 里の規律を乱す事は厳禁。
忍びの三禁と言われている酒・女・賭博の三つ全部を、規律として禁じるのは、あまりにも短慮だ。
だから煌々の里では、酒と賭博はおおいに容認されている。 そう、女に関してのみ特別の規制がある。

女というのは、実に計算高い生き物だ。 おれ達 男より力が弱くても、その分言葉で男を巧みに操る。
煌々の里を興した忍び達は、そういう女の怖さを十分知っていたから、クノイチを追放したんだろう。
どこかの里を抜けた忍びだという、この隠れ里の創設者達は、そのての罠にハマったのかもしれない。
女は何かとトラブルの原因になるから、子を産むだけで十分。 子を産むだけの者は忍びの里に必要ない。

だからと言って女を抱かない訳じゃない、気に入ればもちろん抱く。 性欲と人の本能には逆らえない。
各国の花街で遊ぶし、素人の女でもそれは同じだ。 だが、クノイチは抱かない。 これが里の掟だ。
いくら優秀な畑だからと言って、他里の様にクノイチの腹を欲しがらない事。 アイツらは凶器だから。

たまに掟に背き身を滅ぼす同胞も出るが、そういう馬鹿が出る度に、里の掟の重要性を再認識する。
女はあくまで性欲を満たす為の生き物であって、クノイチは性別が女というだけの同じ忍びなのだと。



「長、お呼びでしょうか。」
「おお、来たな。 他でもない、里の子の奪還に向かってくれ。」
「・・・・里の子の奪還とは? 恐れながら二か月前、里に引取ったばかりで・・・・」
「その前の子なのだ。 チャクラ質が無いと判明し、堕胎させたはずだったが。」

残念ながら産むのは一般人の女。 仮腹に種付けをしても、チャクラ質の宿る胎児を儲ける確率は低い。
畑がクノイチならば、確率はもっとあがるのだろうが、わざわざそんな危険なリスクを犯す必要はない。
他里のクノイチを自里に拉致して産ますのは容易い事。 が、その里をも敵に回す事になるからだ。
たかが女一人の為に、里の仲間を危険にさらすのか? 冗談じゃない、それこそ馬鹿のする事だ。

「チャクラ質の宿っていなかった・・・・・ あの胎児が、ですか?」
「ああ、そうだ。 医者の所に来てた女は、最初から別の妊婦だと判明した。」
「・・・・・・・・・・なるほど。 虚偽の診断、でしたか。」
「我が里の忍びの血を受け継ぐ命。 契約通り、私が後見人となり里に引取る事にする。」

これだ。 必ずバレるのに、どうして女というのはこう浅はかな生き物なのか。 ほとほと理解に苦しむ。
このおれも、その理解に苦しむ女から産まれた命だという事は、百も承知だが。 あまりにも浅はかだ。
確率は低いが、忍びの気質を持っている赤子は里に寄与すると契約がある以上、当然なのにも関わらず。
おれ達の里では、仮腹を使う前に必ず契約を交す。 胎児にチャクラ質が宿っていない場合は堕胎すると。

まれにこういう事も起こる。 仮腹として了承していながら、いざ孕んだら自分の子だと主張する女。
契約金を受け取っているのに、堕胎する段になると“わたしの赤ちゃんを奪わないで”などと言う。
おれ達忍びの世界では、契約違反は裏切りと同じ行為。 裏切り者に与えられるのは死、だけだ。

何もそんな事で、と言う輩がいるかもしれない。 だが里がそういった前例を作ってしまえば自滅する。
契約なんてないのと同じだ、もしそんな事を感じさせる忍びの隠れ里があったなら、衰退するだけ。
裏切り者を黙って見逃す忍びの里? それでは他里や他国のいい笑いモノだ。 そうなってからでは遅い。
煌々の里は男しかいない小さな里だが、忍び五大国の隠れ里にも引けをとらぬ、人としての固い絆がある。

謀り事の報いは死。 本当に女というのは・・・・ 契約通りに子を渡してさえいれば死なずにすむものを。