くノ一の男 10   @AB CDE FGH JKL M




大胆にもクノイチは里内にいた。 木の葉に赤子を押しつけた女は、素知らぬ顔をして里の宿にいたんだ。
曰く、預けた子と離れ難く、どなたに引取られるのか、だけでも自分の目で確認したかった・・・・ と。
凄いよね? 正体がバレて吐き出した本音と、ここまで違うんだもん。 まあ、クノイチは忍びだし。
本当にすぐ近くに落とし穴が穴を開けてたんだよ。 槇の到着を、里内で待ち構えていたんだ。

自分はあなた達の様な素晴らしい里の忍びの子をどうしても欲しかった、と泣いて詫びただろう。
ひっそりと育てようとしたがチャクラ質に目をつけた木の葉に奪われてしまった、と訴えただろう。
煌々の里には子供を産んだ事実を話せない事を知っているぞ、と脅されたゴメンナサイ・・・・ とかね。
そして自ら死んで詫びようとしたかもしれない、子供だけはあなたの里に、と。 いくらでも考えられる。

赤ん坊やクノイチの命を道具として綿密に計画されたモノ・・・・ きっと衝突は避けられなかった。
でも木の葉の網が。 たった少しの情報から張られた網が、功を奏した。 手の内を読まれたら終わりだ。
どんな戦いでもそれとなるキッカケがある。 そのキッカケの芽さえ摘んでしまえば、戦いは防げる。

木の葉隠れは、無意味に大陸一の火の国に隠れ里として抱えられているのではないんだよね。
情報は全てを制する。 確実な情報の迅速な収集こそが、木の葉の忍びの足場を固めてるんだよ。
ウチの里には煌々の里にはない、優秀な忍び達が所属する情報分析部がある。 それが大陸一の所以。
そしてそういう情報を最大限に活かすのは、火影を筆頭に中忍以上の忍服組。 そしてボク達暗部もね。



煌々の里から間違いなく、沖屋の槇に詳細の連絡が行ってるはずだ。 木の葉から玉が返されると。
そして槇は、その使者がボク達であると予想してる。 だってボク達は槇にとって正規の上忍、だから。
実は木の葉は刺客から情報を得るため網を張ってました、小珠は潜入員でボク達は暗部、とは言えない。

騙した海野中忍が殺されちゃうとかじゃなくて、槇なら騙されたな、と楽しそうに言いそうだから、だ。
そうなったらこれは超ピンチだよ? 海野中忍は潜入員で男、あの里が禁じているクノイチじゃない。
ボク達が剥く前に確実に剥かれちゃうから!! いや、もう半分は剥かれちゃってるんだけどね・・・・

海野中忍、睡眠針使ってるよね? 半分ぐらい剥かれていようと、本当に抱かれてはいないよね?
最初情報を横流しするフリして、沖屋に戻った時だ。 悔しくて悲しくてチクチクと胸が痛かった。
槇がこの赤子を連れて煌々の里に戻ってくれるまで、この痛みは続く。 海野中忍が攫われるよりマシ!
そう思わなきゃ、この痛みには耐えられない。 まだボク達は、海野中忍に何も伝えてはいないから。

「いらっしゃいませ。 槇さんがお待ちかねですよ? ・・・・あと、俺もお待ちしていました。」
「フフフ、アリガト。 小珠ちゃんは忍びに対して、すっかり恐怖心がなくなったみたいだネ。」
「里から連絡を受けてる。 まさかそんな裏があったとは驚いた。 ・・・・・・迷惑をかけたな。」
「いえ。 木の葉にとっても、いらぬ疑惑を払拭できましたから。 槇さんの茶屋遊びのおかげで。」

「くくく! そうだな? 小珠さまさまだが・・・・ それは全部、お前達の存在があったからだ。」
「・・・・・・とっても複雑ですが。 まあ、喜んでおきます一応。」
「そこまで信用してもらえると、嬉しいヨ。 はい、コレ。」
「お、この巻物の中か? どれどれ・・・・  封印、解っ! ん・・・・ 二三カ月、ってとこだな。」

・・・・自里の忍びのチャクラを判別する呪文か何かだろう、赤ん坊にかざされた槇の手がポウッと光る。
母親の胎内にいる時の様に、指を咥え丸くなって眠っている赤ん坊を、槇はウチの里の玉だ、と断言した。
封印の巻物に入れて持って来た赤ん坊、確かに煌々の里に返したよ。 これで槇の任務は完了のはずだ。
この後すぐ里に帰り、謀を企てた里の粛清に行くつもりだろう。 ボク達 木の葉も参加する殲滅任務。

多分ね、ボク達が面をつけてチャクラ質を変えても、両里の合同任務に参加したら、必ず槇にバレるよ。
だから今回の、煌々の里・木の葉隠れの里 両暗部合同殲滅任務には、ボク達の部下を行かせるつもり。
アイツらなら大はしゃぎで暴れて来るよ。 木の葉をハメようとしから、って大義名分があるからね。

「すまんな小珠。 お前との契約はあと三日残っているが、発つ。」
「・・・・槇さん?! どうして・・・・ 俺、何か気に障る事を・・・・・」
「いや、急ぎの任務が入っただけだ。 後の三日は・・・・ 今回の褒美にお前らにやる、奢りだ。」
「「「?!」」」

お前も殲滅任務に参加するつもりなんだろ? さっさと里に戻れよ! って思ってたよ、そりゃーもう。
そうしたら・・・・・“驕り”だって! 沖屋の小珠の部屋、海野中忍のいる部屋の宿泊費を、だ。
ここまでサバサバした遊び方を見せられたら、さすがのボク達も認めるしかない、コイツはイイ男だ。

「・・・・・あとな。 ・・・・小珠、ちょっとこっちに来い。」
「? はい、槇さん。 ご用は・・・・・ ぅ・・・・ んん・・・・・・ ゃ・・・ぁ、ぁ・・・・」
「見ろ、この顔。 イイ顔するだろ? 小珠は素直に反応するからな。 めちゃくちゃ楽しめる。」
「はっ・・・・・ っっ・・・・ ん・・・・ まき・・・・ 行かないで・・・・ んん・・・・」
「ん・・・・・。  ・・・・・嬉しい言葉もくれるしな。 ・・・・クセになるぞ? じゃあな。」
「「・・・・・・・・・・ご馳走になるよ、ありがとう。」」

前言撤回っ!! そんなの実演してみせなくていいからっ! 煌々の里の忍びは全員去勢だ、この野郎っ!
海野中忍を売り者の様に扱いやがって・・・・・・ って。 そうか、そうだよ。 沖屋の陰間、だもん。
槇は事の真相を暴いたボク達木の葉の上忍二人に、望み通り“贔屓の旦那への道”を用意してくれただけ。

ギブ&テイクなんだね、これも。 他里の暗部に協力した木の葉の上忍達が、小珠を褒美にもらったんだ。
・・・・・・・・本当に、情に厚いんだか非情なんだかわかりゃしない。 槇は小珠を残し、瞬身で消えた。