くノ一の男 8
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暗部の二人も気付いたはずだ、こんなやり手の忍びの先回りを、ただの代理母が出来る訳がないと。
どこか不自然だ。 てっきり・・・・ 最初に殺された女が赤ん坊を産んだ者、だと思っていたから。
情報分析部は、その代理母から託された赤ん坊を助けようとした依頼ではないか、と仮定してたんだ。
協力しただけの替え玉が、まず先に殺されたのか・・・・。 だとしたら、大きく話が違ってくる。
・・・任務依頼に来た女は他里のクノイチ? 煌々の里を潰すのが狙いなのかも。 だってそうだろう?
もし木の葉が、赤ん坊を拉致もしくは女を使って産ませた、と煌々の里の忍びに思われたとしたら?
あの里は木の葉へ向けて、総力を上げて自里の玉を取り戻しに来る、当然、里の守りは手薄に・・・・
でも・・・・ それは既にウチの里が任務依頼を受けてたから気付いた事。 煌々の里はまだ知らない。
よかった・・・・・ もし槇さんが・・・・ 煌々の里の刺客が木の葉を訪ねて来ていたら・・・・
玉を逃がす事に協力した者が殺されるだけじゃ済まない、木の葉に疑惑の矛先が向けられていただろう。
最初から煌々の里の忍びの玉を狙っての、クノイチの投入だったのかと。 双方無傷とはいかない・・・・
これは木の葉にも、狙われた煌々の里にとっても、有意義な網だった・・・・ う〜ん、情報分析部ナイス!
・・・・ん? 俺? 狸寝入り。 一般人だと思ってごく緩めの睡眠の術をかけたみたい、効いてないから。
・・・・・いや、それはいいとして。 一般人って、どのタイミングで目を覚ませばいいんだ?!
「じゃぁ・・・・ 子供を探してくれとか、預かってくれとか、の依頼が来たら流すネ?」
「というか・・・・ 今から里に戻って調べてきますよ、もしかしたら今頃入れ違いで・・・・」
「そうしてくれると助かる。 果報は寝て待て・・・・ というのも悪くないな。」
「「どうだか。 小珠ちゃんを剥きたいだけ、の間違いじゃ?」」
「ははは、さすがは暫定的旦那の二人、だな。 おれが帰った後、旦那になってやれ。」
「・・・・・・・言われなくても。 ・・・・だから忍びに対する恐怖心の克服を?」
「知らなかったヨ。 小珠ちゃんは、あの出来事が・・・ トラウマになってたんだーネ・・・・」
「ああ。 だがここで生きていくには忍びを避けて通れない。 木の葉に繋いでくれた褒美だ。」
・・・・・・そろそろ目を覚ました方がいいかな? あんまりグッスリ寝ててもおかしいだろうから・・・・
いや、でも・・・・ 本当に吃驚して硬直した、あの殺気! けどいざとなったらウチの暗部がいる、って。
いくら煌々の里の暗部でも、ウチの暗部のトップツーだ、敵う訳がない。 そう思ったら腹が決まった。
知らない間に殺されてた潜入員、じゃなくて。 今死んでも里に連れて帰ってくれる、仇も、ってね。
「非情なんだか情に厚いんだか、よく分かりませんね。」
「ギブ&テイクだ。 里の得になるなら報酬を、裏切りには死を。」
「・・・・・・アンタの得に、でショ?」
「ははは! 違いない。」
・・・・しかし、槇さんはイイ男だ。 別にヘンな意味じゃない、色事として勉強になるって意味。
眠らせた俺の頭を、胡坐をかいた自分の膝の上にのせて、飼い猫かなんかの様にずっと撫でてる。
髪を流したり、鼻傷を撫でたり、頬や唇をなぞったり。 気持ちが良いんだ、俺も今度やってみよう。
ああ、目を覚まさないとマズイ。 このまま舌が使えない状況が続くと、好き勝手されてしまうよ。
「ぅ・・・ ぅ〜ん・・・・」
「目が覚めたな小珠。 急にウトウトしたのは極度の緊張からだ。 もう大丈夫だろ?」
「はい。 ・・・・・でも・・・・・ 本当に怖かった・・・・ もう! こうしてやるっ!!」
「痛たた・・・・ こら、噛むな。 ああ、おれが悪かった。 はははは!」
そういう雰囲気になったら、怯えたフリをしていた。 この忍びはそこいらの色狂いじゃないから、って。
思った通り、そんなに怯えた陰間を抱いてもつまらないと、一緒に布団にくるまって寝ただけだった。
忍びは、美味そうな敵を捕まえると輪姦する。 命乞いで媚びる顔、恐怖に怯える顔は見飽きている。
お前はそんな忍びのおれが、楽しい思いをしようと金を払って買った陰間だからな。 そう言ったんだ。
そして小珠に・・・・ 忍びを恐れたままでは陰間としてやっていけないと、恐怖を克服させた・・・・
遠回しに、お前を斬りつけた忍びは殺す気などなかった、忍びの本物の殺気はこうなんだと教える為に。
俺が本当の陰間だったら、最高の旦那だと思うだろうな。 珠紀兄さんがすぐに頭下をげた訳が分かった。
「チョット! イチャイチャすんのはオレ達が帰ってからにしてくれる?!」
「すぐに調べて戻って来ますからね?! 楽しいのはホンの一時ですからっ!」
「ははは、頼む。 ・・・・・少々時間がかかっても・・・・・・ いいからな?」
「「果報は寝て待ってろっ!!」」
陰間の小珠は、そんな旦那の粋な気持ちと思いやりが嬉しくて、思わず首に飛びついて泣いた。
贔屓の旦那に本気の殺気を向けられた淋しさも伝えなくちゃならない。 可愛い仕返し、ってヤツだ。
旦那の胡坐の上で目覚めた小珠は、悔しいからとその膝に噛みついてやった。 もちろん甘噛みで。
これにはさすがの槇さんもご満悦、喜んでくれた。 ・・・・暗部の二人は超不機嫌で帰っちゃったけど。
「ぷくくく・・・・ 小珠、アイツら・・・・ いや。 今はお前の旦那はおれ、か。」
「はい。 俺の贔屓の旦那さんは槇さんです。 色々教えて頂きありがとうございました。」
「・・・・・・・お前のそういう素直な心が、忍びの者を・・・・ 惹きつけるのかもな。」
「えっと・・・ その。 お、お褒めの言葉として受け取っておきます・・・・」
俺が気付いたぐらいだ。 暗部の司令塔の二人が、煌々の里が狙われていると気付かないはずがない。
三代目にあの依頼の裏を報告すれば、この計略を水面下で潰す為のやり取りが、両里の間でなされる。
情報分析部は、あらゆる情報網を駆使して女がどこの里のクノイチか、あっという間に突き止めるだろう。
・・・・・・もしかしたら、こんな事もあるかもしれないと・・・・ 三代目はお二人を就けたのかも。
本来、暗部の部隊長と補佐が、潜入員の潜入協力や繋ぎなど、とてもじゃないが考えられないから。