くノ一の男 2   @BC DEF GHI JKL M




俺は木の葉の潜入員、海野イルカ。 ここは火の国は花街にある陰間茶屋 【沖屋】〈おきや〉だ。
この茶屋に潜るのに、ワザとらしく他里の忍びに斬りつけられるマネをしたんだけど、大丈夫だった。
元からあった顔の傷に、ちょこっと血の出る程度の演出が功を奏したのかも。 妙に気に入られたんだ。
有名な遊郭や茶屋は、そういう人情に厚い所がある。 イワクのありそうな生い立ちの者には特に。

・・・・まあ、そういうワケありの者を無償で助けたら、自主的にその店で働くだろうからね・・・・。
結果的に、危機一髪のところを助けてもらった者としては、恩を返すよな? それが礼儀というモノだ。
木の葉の潜入員はそういう風習を上手く利用させてもらう。 そうすればまるっきり忍びとは無縁だから。

潜入部隊は巣を作って活動拠点を置く場合もあるけど、それは何年もその町に滞在する場合だけだ。
俺の場合は潜るといっても最長で三か月ほどだから。 あえてその為だけに巣を用意する必要はない。
俺は忍びに見えないから、すぐに人の中に溶け込める・・・・ らしい。 これは三代目がそう言ってくれた。
だから周りが全部一般人・・・・ っていう環境が俺に一番適してるんだ。 今迄一度もバレた事ないし。



俺達 潜入部隊の任務は当然、情報収集。 潜った先で己が見聞きした事全てを、里に報告するんだ。
里では俺達 潜入員のその情報を元に、情報分析部があらゆる可能性を考慮して、火影様に提示する。
そして任務依頼に来た依頼人の依頼情報と照らし合わせたり、他国の情勢と照らし合わせたり。
血なまぐさい事だけじゃなく、どんな事でも報告しておけば、後は分析部が動いてくれる、って訳。

「なになに・・・・ 煌々の里の忍びが火の国に入った・・・・ か。 う〜ん、お見事、ドンピシャ!」

そう、俺がここに潜ったのは、ある任務依頼がキッカケだからだ。 情報部から任務協力の要請が来た。
木の葉の潜入員は、なにも火の国にだけ潜ってる者ばかりじゃない。 他国の町々に散らばっている。
それは他里から見たら“草”と呼ばれている潜入部隊の忍び。 今回は、その他国にいる潜入員の情報。
木の葉の里に依頼に来た依頼人が何かを企んでいるらしい、それは煌々の忍びを巻き込む何かだ、と。

産まれた子にチャクラ質があるようだ、どうか木の葉の里で育ててやってはくれないか、という依頼。
なにやら深い事情がありそうな話だと、取り合えず木の葉病院でその赤ん坊を預かる事になったらしい。
産んで二三カ月の赤ん坊を、それだけの理由で手放すだろうか。 すぐに忍術を扱える訳じゃないのに。

そしてここからが要点だ。 その母親が里に任務依頼に来る何日か前、煌々の里の忍びの情報が入った。
煌々の里の忍びが、ある女を制裁がてら殺したと。 その女は代理母を生業としている女だったらしい。
あの里は国に仕えない男ばかりの忍びの里。 子孫を残す為にだけ、代理母に子を産ませると聞く。
チャクラ質の宿った胎児なら出産を、普通の胎児なら堕胎をさせると。 全て前金での契約だそうだ。

「小珠〈こたま〉ちゃん、サプライズだよ? 誰だと思う?」
「・・・あ、珠紀〈たまき〉兄さん。 え? サプライズって・・・・・」
「「こぉ〜たぁ〜まぁ〜ちゃぁ〜〜〜んvv 元気そうだねvv」」
「・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・ こちらは?」

このノリ、忘れもしないよ。 軽いノリに騙されちゃ馬鹿をみる、暗殺戦術特殊部隊のトップツー。
今ヒマだからと、この沖屋に潜る為に火影室で協力を申し出てくれた、火影直属部隊の司令塔の二人。
三代目の懐刀のくせに、男を取り合って怪我をさせてしまうという、古臭い芝居を提案したエリート達だ。
なんでも影分身に他里の忍びを演じさせ、本体は木の葉に帰還する途中のツーマンセルになるという。

あれよあれよという間に花街の陰間、沖屋の売れっ子 珠紀兄さんの前で、暗部主導の猿芝居が始まった。
他里の忍びが日中堂々と痴情の縺れで殺傷沙汰など言語道断、木の葉の忍びを呼びますよと、兄さんが。
花街での遊び方の一つも心得ないなどとは、忍びが聞いて呆れる! とタンカを切って庇ってくれた。

そんな時偶然通りかかった任務帰りの上忍達が、他里の忍びを追い払い俺の顔の手当てをしてくれた・・・・
おかげですっかり珠紀兄さんは感激し、源氏名にもその名の一部を頂くほど俺は可愛がられる事に。
・・・・・あの時声を大にして言いたかった。 やり過ぎだから! 潜入員は目立っちゃ駄目だから! と。
男を取り合って殺傷沙汰だ? どんな設定なんだよ、それは! とは、今となっては虚しい心の叫びだ。

「なんと! あの時、小珠ちゃんを助けてくれた木の葉の忍びだよ?!」
「珠紀さんに、いつか二人で訪ねてやって下さいってv ネー?」
「ええ。 小珠ちゃんの顔の怪我の様子も気になってたからね。」
「・・・・・・・・・・・その節は、大変お世話になりました。」

「フフフ、花街での横暴は許さないヨ? 木の葉隠れの忍びはネ。」
「そうです、火の国に逃げ込んだ者は、ボク達の守る対象ですよ?」
「ほんと里の忍びは頼りになりますv これを機に小珠ちゃんを贔屓にしてあげて下さいね? じゃ!」
「「それはもちろんvv」」
「・・・・・・・・・・・・・・どうぞ御贔屓・・・ に。」

あの・・・・ いくら珠紀兄さんにそう言われたからって、本当に訪ねて来るなんて。 目立ち過ぎだから!
潜入員はいずれそこからいなくなる。 だからあまり目立った立場を築いてしまうとマズイんだよ・・・・。
・・・・・仕方ないか。 もう十分、目立っちゃったもんな、俺。 こうなりゃとことん協力してもらおう。