くノ一の男 12   @AB CDE FGH IJL M




バレちゃったヨ・・・・・・。 そんなに目に出てたの? オレ達の海野中忍を渇望する思いが。
他里の暗部に対しての必要以上の嫉妬心や、沖屋の陰間に対してのあからさまな執着心も、全部。
おまけに、自業自得と言われればそれまでの・・・・ オレ達の泣きたくなる様な後悔もバレた。

網の任務だからナニ? 起こるかもしれないけど起こらないかもしれないトラブルの為の防衛線。
ソレって、普通の戦場で言うなら、あらかじめ仕掛けるトラップや結界と同じなんだヨ。 なのに・・・・
目の前で弄りまわされてるのが悔しかった。 槇のキスを求める唇に、悲しさがこみ上げてきた。
だってそうでショ? オレ達が余計な設定を考えて潜らせたせいで、あんなものを目にするコトになった。

小珠ちゃんなら旦那との別れを悲しんで、最後にキスの一つもしてもらうだろうと、頭では理解してる。
忍びの顔じゃないオレの中の本来の自分が、悲鳴を上げてた。 触るな、海野中忍に触るな!! って。
全部自業自得。 でもそれを・・・ オレ達の目の奥にある思いを・・・・ 感じてくれてたんだネ・・・・




ウン、海野中忍の任務は終了、これで沖屋の陰間の小珠は必要なくなる。 スゴク喜ぶトコだヨ。
槇にもらった小珠ちゃんの三日間を、オレ達の都合のいい様に思う存分利用させてもらえるんだし。
なのに・・・・・ なんでそんなコト言うの? “他人の手垢がついた男”だなんて自分のコトをっ!!

確かにムカついたヨ? ベタベタ触らせてんじゃない、さっさと自慢の舌技を披露しなさいヨ! って。
そうするまでには必ず通る道なのに。 海野中忍の武器は、あの小さな見えないほどの針だけなのに。
それしか身を守るすべを持たない潜入員を、どうして責められる? オレ達 暗部とは戦場が違うのに。
海野中忍についた手垢の数は、海野中忍が戦場で生き残って来た証。 全部アンタの勲章でショ?!

「そんなの・・・・・ オレ達の体についてる無数の傷と一緒だヨ。」
「ボク達 忍びは泥水をすすってでも生き残る。 同じだよ、皆。」
「「今、海野中忍が生きてここにいる証。」」

「・・・・へ・・・・・ へへ・・・・ 俺ね・・・・・ぅっく。  今、泣き・・・・ たいっ・・・・」
「「・・・・もう・・・ 泣いてるよ?」」

海野中忍はオレ達に飛びついて来た。 小珠ちゃんじゃなく、木の葉の潜入員 海野イルカ中忍として。
まったくズルイよネ、海野中忍は。 先に泣かれちゃったら・・・・ オレ達、もう泣けないじゃない。
オレ達はさ、この感情がナンなのか最初、全然分かんなかった。 ほぼ素人童貞さんだったしネ。
でも一緒の任務に就いて実際話してみたら、この感情だけじゃなく、分かったコトがたくさんある。

「ごめーんネ? 俗物的な言い方しか出来ないケド・・・・ 外側にある全部のモノを剥きたい。」
「今すぐ。 どうしても肌を合わせたい。 心臓の音が聞こえるほど近づきたいんだ。」
「グス・・・ そんな目で求められて・・・ 堕ちないヤツは馬鹿だ。 ・・・俺の全部を暴いて下さい。」
「「うん、暴きたい・・・・」」

こうやって相手の意思を確かめるのもその一つ。 こんな行為はただの生理的現象で、処理の一環だった。
遊郭で寝そべって女に乗ってもらうだけの、時間の無駄な使い方。 体調管理の為には仕方ないコトだと。
槇の様に・・・ 売り者の意思を尊重したり、あんな風に大切に扱ったコトなんて一度もなかった。

煌々の里の忍びは、女を玉を作る為の生き物としてしか見てないけど、その行為には情を与えてた。
女を自慰の道具扱いしてるオレ達の方が、煌々の里の忍びよりよっぽど非情だと思い知らされたヨ。
どっちの方が人としてマシかと言われたら、どっちも人として失格。 でもオレ達は忍びだから。
人である必要はないんだけど、忍びでない顔も確かに自分の中に存在する。 その心の声は聞くべきだ。

この男を剥きたいと思った心の声。 それはテンゾウも全く同じで・・・・ 二人して色々悩んだよネ。
手に触れた薄手の着物の生地を・・・・ こうやって撫でるだけでもドキドキする。 信じられないヨ。
自分が心から求めた相手に応えてもらうコト、その上で肌を合わせる行為がこんなにも・・・・・。

ねぇ、海野中忍、見て・・・・・ オレ達の手、震えてる・・・・・・ 以外に臆病だったんだネ、オレ達。
・・・・?? 嬉しくて?? そうなの?? 強い敵に対峙する時とかじゃなくて、嬉しくても震えるの?
テンゾウ、オレ達 暗部の長なのに・・・・ 中忍に教えられちゃったヨ・・・・・ フフ、情けないネ?

“情けなくていいんです 俺の前では暗部の長である必要はないんですから”って海野中忍は言った。
そう言いながら、肩にかかっていたオレ達の小さく震えてた手に・・・・ 自分の手を重ねたんだヨ。
襟を一緒になってずらしてくれた。 その手をとり・・・・ そっと自分の首へ。 急所でもある喉仏の上に。
ウン、覚えてる。 だって・・・・ あんなにみっともなく怒鳴った事なんて一度もなかったからネ。

あの時、槇がここに親指を当てた。 海野中忍はオレ達がいるからと、死を覚悟して小珠であり続けた。
自分の最期を見届けて下さいと、オレ達に命を委ねて。 ただひたすら怖かった、暗部のオレ達が、だヨ?
例えこの先、失う恐怖が何度襲ってこようと、これから手に入れる命の温かさを思い出せば乗り越えられる。