くノ一の男 5
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隙のない目をした男。 あれが刺客だな、間違いない。 よし・・・・・ いかにも、な感じで近付こう。
いかにもな感じ、っていうのは“なんか理由がありそうで忍びに近付いた陰間”っていう感じだ。
忍びかもしれない男へかける声に、少しだけ怯えをにじませる。 怖いくせになんでわざわざ? って。
そう相手が思ったらこっちのモノ。 ふふふ、暗部二人が考えた派手な設定も、少しは役に立つね。
「あの・・・・ 今夜の宿をお探しでしょうか。 忍びの・・・・ お方。」
「・・・・・・・ああ。 ・・・・お前はどこの売り者だ?」
「俺は小珠・・・・・・ そこの茶屋、沖屋の陰間です。 よかったら寄って行って・・・・ 下さい。」
「・・・・・・・・・・いいだろう。」
うん、滑り出しは上々。 この刺客が短慮で色中毒の男なら、部屋にあげた途端に俺はヤられちゃう。
でも煌々の里の忍びは、色事への関心まで合理的だと聞く。 性欲が高まったら吐き出す、それだけ。
彼らにとってセックスは、ただ出して体調を整えるだけの行為と、人が繁殖する為の一過程に過ぎない。
あまりにも合理的過ぎて、まるで人間味がないよね。 でもだからこそ、仲間意識は驚くほど強固。
一般人からすれば、彼らの逆鱗に触れなければいいだけ。 まさに理想を絵に描いた忍びの集団だろうな。
必要以上の干渉はしない、任務は確実にこなす、大国に仕える為に動かない、民衆にとって頼れる存在だ。
自里に対する裏切り行為だけは許さない、これが煌々の里の逆鱗だ。 まあ、隠れ里だから当然だけど。
やっぱり思った通りの忍びだった。 ビクつきながらも頑張って部屋に通しました、な俺をすぐに襲わない。
後ろ手に襖を閉めながら“お前の目的はなんだ”と聞いて来た。 ここからが俺にとっての戦闘になる。
昼間、暗部の二人が俺に使った“戦場”という言葉は、もの凄く暗部らしい発想だよね、気に入った。
「も・・・ 目的なんかありません。 俺はまだ新人でお客を・・・・」
「・・・・・ほう? こんなに怯えた目をしているのに、か。 ・・・・・誰に雇われてる?」
「ち、違いますっ! 俺は・・・・・・ っっ!!」
「下手な芝居は止めろ。 お前はおれが忍びだから声をかけて来たんだろう?」
「・・・・ぁ・・・・ っっつ!! い・・・痛いっ!! 放して下さいっっ!!」
こうやって威圧されて拘束されるのも想定済み。 だって不審に思ってるだろうからね、俺の事を。
勝手に誤解して確信した後、それが自分の憶測だった・・・ って知ったら、結構気が抜けるモノだろ?
そこが狙い目。 一度でも自分の恥・・・・ かどうかは別として、弱い部分を見られたら取り繕う必要はない。
その相手には、素のままの自分でいられる。 他国の花街の茶屋に、自分の寛ぐ場所が出来た、って事だ。
「小珠ちゃんっ!! どうした?! 何をされたんだ?!」
「?! 珠紀兄さん・・・・ あの・・・ これは・・・・」
「ちょと! ウチはそういうのはやってないんだ。 他の茶屋に行ってくれるかい?」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・違います!! あの・・・・ その・・・・ ぅ・・・・・。」
「ウチは老舗の沖屋。 売り者に手を上げるような無粋な客はお帰り頂きたい。」
「・・・・・・・ご・・・・ ごめんなさいっ!! すみませんっ!! 」
「小珠・・・・ ちゃん??」
「・・・・・・・・・・。」
はい、ここいらで種明かし。 周りが全部素人さんの現場は、本当に臨場感がでるからいいんだよね。
騙してごめんなさい、なんて思わないよ? 協力してくれてありがとう、だよ。 これが俺の任務だから。
ギブ&テイク、花街の沖屋の事は他国でPRしておくから。 あそこは信用出来る茶屋ですよ、ってね。
助けてくれた木の葉の上忍に、なにかしらの恩を返したかった。 見れば寡黙な忍び風の男が歩いている。
木の葉の忍びは額当てを体のどこかにつけているから、きっと他の忍びだ。 少しでも喜んでもらおう。
俺が他里の忍びを見つけて報告すれば、木の葉の二人は喜んでくれるんじゃないか、そう思ったんです。
ごめんなさい、あなたがどこの忍びでどういう人なのかを・・・・ 知ろうと思ったんです、俺。
「馬鹿だね小珠。 他里の忍びにあんな目に合わされたのに、自分から近付くなんて・・・・」
「だって俺は・・・ 沖屋に匿ってもらってるだけで・・・・ なんにも役に立ってないっ!」
「だからって、木の葉の忍びが陰間のこんな危険な真似を喜ぶはずがないじゃないか。」
「お二人に直接・・・・ なにか恩返しをしたかったんです・・・・・ 馬鹿みたいだけど・・・・」
「・・・・その顔の傷は新しいな。 そこの兄さんの言う“他里の忍び”につけられたのか?」
「・・・・・・・・・。」
「小珠は二人の他里の忍びに気に入られて・・・・・ 二人から逃げてきたんです。 それで・・・・・」
「察するところ、木の葉の上忍が助けたんだな? 斬りつけられたお前を。」
「?! どうして・・・・」
「・・・・お前達の会話から、そんな事はすぐに判断できる。 おれは煌々の里の忍びだ。」
煌々の里の忍び、それを聞いただけで珠紀兄さんは、早とちりして申し訳なかったと頭を下げた。
あの里の忍びなら大歓迎です、色事に長けていらっしゃる、どうぞ気の済むまで沖屋にご滞在を、と。
ここまではバッチリ! 珠紀兄さん、お膳立てをありがとう! あとは俺の欲しい言葉を待つだけだ。
「おれも手荒な真似をして悪かった。 こんなに分かり易い間者はいないだろうに。」
「間者・・・・・・?」
「小珠ちゃんがやろうとした事は、他里の忍びからしたらスパイ行為なんだよ。」
「・・・・・・・・ぁ。」
「・・・・ふふ。 お前、忍びが怖いのに、木の葉の間者になろうと思ったのか?」
「・・・・・・す・・・・すみませんでした・・・・・。」
「きっぷのいい珠紀兄さん、アンタも抱いてみたいが・・・・」
「小珠はまだ旦那が二人・・・・しかもあくまで予定、ですし? どうぞよろしくお願いします。」
「こういうところが大国の花街だな、無駄な会話をしなくて済む。 ・・・小珠の部屋に一週間だ。」
「はい、かしこまりました。 小珠ちゃん、可愛がってもらいなね?」
待ってました! これで煌々の里の刺客を、この部屋に留めておける。 暗部の二人に紹介出来るぞ!
後は取引、というか交渉。 ・・・・この忍びから二人に“話がある”と言わせる様に仕向ける事。
まずは小珠を気に入ってもらわなくちゃ話にならない。 なんと、一週間も部屋にいてくれるらしい。
「俺が・・・・・・? いえ、はい! どうぞ御贔屓に。」
「贔屓の旦那予定の二人とは・・・・ その木の葉の忍びの事か?」
「・・・・ぅ。 その通りです・・・・・。」
「お前本当に・・・・・ 分かり易いな。」