くノ一の男 7
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心臓が止まりそう、ってこの事なんだね。 ムカムカする思いもこれに比べたら可愛いモノだった。
海野中忍の喉仏に親指が宛がわれた瞬間、カカシ先輩もボクも、あまりの恐怖に素で怒鳴ってしまった。
目の前で海野中忍が殺される、その恐怖感がボク達を暗部としてでなく、一人の男に戻して怒鳴らせた。
本当に・・・・ 怖かった。 まだ手に入れてもいないのに、忍びならいつかは死ぬと分かってるのに。
この前、海野中忍が“交渉するのはお二人です”と言った。 それは、こういう事だったのか?
自分を囮にして獲物を釣るの? 潜入員は忍びなのに、ろくに抵抗もせず戦わずして死を受け入れるの?
ボク達の戦場では、だいたいが隊を組んで行動する。 単独もあるけど、速やかな暗殺の時だけだ。
武器は自分の体だけ・・・・ 仲間も誰もいない場所で・・・・ 一人でひっそり死ぬかもしれない。
これが潜入部隊の戦場で、潜入員の戦い方なんだね・・・・。 この前よりもっとはっきりと分かったよ。
海野中忍はボク達の心が欲している相手、そして、共にずっと生きて行きたい相手でもあるんだ・・・・。
誰かを必要とする思いが、こんなにたくさんの感情を伴うものだったなんて、本当に驚きの連続だよ。
本物の殺気だった。 何を考えているのか分からない忍びだと思った。 きっとカカシ先輩もそうだ。
任務外の事でも動く木の葉の上忍達を、ボク達を信用して交渉を持ちかけてきたモノだとばかり。
ボク達を試したと言った煌々の里の忍び 槇は、海野中忍の首からやっと手を放した。 そして・・・・
硬直して動けないでいる小珠・・・・・ のフリをしている海野中忍を呼ぶ。 何度も、何度もその名を。
自分から、飛び込んで来させるために、だ。 小珠がここにいるいきさつを聞かされているだろうから。
これはボク達を試したんじゃない、小珠の為に、だった。 他里の忍びに対する恐怖心を克服させようと。
・・・・・・まだ、抱いていないのかもしれない。 海野中忍が忍びに怯えるフリをしていたのなら。
「小珠、来い。 ほら・・・・」
「・・・っ! ・・・・・ま・・・ き・・・・ さん・・・・ ぅ・・・っっ!!」
「・・・・そうだ、それでいい。 忍びが本気で相手を殺そうと思ったら、こんな感じになる。」
「・・・っっうっ!!」
「「・・・・・・・・なるほどね。」」
小珠は槇の首に飛びつく。 まさに意を決した、そういう感じで。 ギュウギュウと抱きついて離れない。
ボク達にはその背中しか見えないけど、泣いてる。 海野中忍は、小珠は嬉しくて泣いてるんだろうね。
小さく肩が震えてるから。 小珠の体を抱えながら、何度も頭を撫でる槇。 その手は優しく髪をすく。
煌々の里の忍びは色事も合理的、どこの花街でも上手に遊ぶ。 ・・・それをこの目で見て分かった。
他里の忍びなのに。 木の葉の忍び以外で大歓迎されるのは、こういう忍びが多いからなんだろう。
ここは小珠自身を大切に扱っている旦那として、ボク達は安心して話を聞くべきなんでしょうけども。
本当に海野中忍を盗られた様で悔しいです、先輩。 ・・・・・でも全部が、潜入員の手のひらの上なんだ。
「・・・・そうやって他国の一陰間を、大事に扱う忍び。 アンタは、どこの里の者?」
「おれは煌々の里の忍び、暗部の槇だ。 我が里の玉を産みながら逃亡した女を追っている。」
「煌々の里の・・・ 玉が?! え、チャクラ質を選別をしてから出産、のはずでは?」
「ぅ・・・・ 槇さん・・・・・ 俺・・・・・ ん・・・・・」
「「?! 小珠ちゃん?!」」
「大丈夫だ。 少しの間眠らせた。 ・・・・・・・・少し込み入った話になるからな、聞いて欲しい。」
「「・・・・・・承知。」」
小珠が眠らされた。 もし眠ったままオイタをされたら、唯一の武器、睡眠針が使えないじゃないか!
頼む、海野中忍! ボク達がここにいる間に目を覚ましてね・・・・ お願いだから安心させてっ!!
そんな心の動揺をピクリとも表には出さない。 潜入員ほどじゃないけど、ボク達も仮面なら得意だ。
・・・・・煌々の里の暗部。 やっぱりね、通りで隙がない訳だよ。 一般人の暗殺だから単独だったのか。
仮腹として里に通って来ていた女の胎児は、チャクラ診断で陰性と判断され、契約通り堕胎させた。
だが、その堕胎させた女そのものが偽物、自分達の里の医療忍者は、別人を診ていたという事が判明。
女は自分の子を手放すのが嫌で、胎児のチャクラ診断の為に、最初から替え玉を用意していたらしい。
診断に来ていた替え玉と、その女の関係者を始末したが、里の赤子を産んだ女は逃亡した後だった。
すでにその町を出発してはいたが、大陸の真ん中に位置する火の国を通らずに、他の地へは行けまい。
だから自分は火の国でその女の情報を集めようとした、木の葉に行って協力を仰ぐつもりだった、と。
「ところが木の葉に行く前に、この売り者に声をかけられた。 木の葉と繋がる陰間に。」
「・・・・ソレは・・・ 渡りに船、そういうコト?」
「どうせなら、沖屋で寝て待っていよう、って?」
「ご名答。 おれが嗅ぎまわって民を殺して歩き、木の葉の信用を落としてもいいなら別だが。」
「アンタを放置すれば、里のイメージは悪くなる。 木の葉にとってはマイナスだーネ。」
「・・・・・でもそもそもの元凶であるあなたを、今ここで、この場で。 殺す事も出来ますが?」
「おれを殺っても、玉を取り戻すまで刺客は送りこまれる。 おれの足取りは報告済みだぞ?」
「「・・・・・・・・・・交渉成立だ。」」
「そう言ってくれると思ったよ。」
どうも腑に落ちない。 この里がこと、玉に対して過敏に反応する事は、大陸で知らない者がいない。
煌々の里の暗部が足取りを追って火の国に入るより前、既に木の葉に赤子を預かってほしいと女が来た。
これだけの忍びの先回りを、果たしてただの女が出来るものなのか・・・・ カカシ先輩も複雑な表情だ。
ひょっとしたら・・・・ 槇が木の葉に協力を求める事を前提で、ウチに赤子を預けたのかも。
・・・・・チャクラ質を持つ赤ん坊を産んだ女が、煌々の里と木の葉を争わせようとしているという事か?
暗部の先回りをし、自分の赤子をも道具に出来る様な女がいるとしたら・・・・ 間違いなく他里のクノイチ。
女は槇に懺悔し、涙ながらに訴えるかもしれない。 木の葉に煌々の里の玉を奪われてしまったと・・・・
これは・・・・ ここで槇を足止め出来た事は・・・・・ 本当に情報分析部の大手柄ですよね、カカシ先輩。