お人好しの忍び 11
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シズネさん達の様に、直接彼女に何かしてあげられないけど、誠さんの気持ちを伝えてあげたい。
香苗さんの心の支えが喜美さんなら、喜美さんの心の支えの誠さんの思いを、彼女の元に返そう。
辛い痛みを隠し、笑顔を絶やさず頑張って来た彼女への、せめてもの慰めを。 これなら俺にも出来る。
俺が誠さんに変化して、喜美さんの最期を看取ってあげよう。 きっと香苗さんも分かってくれる。
「あの! そこの人! キミちゃんに伝言を頼まれたあなたっ!! 待って下さい!!」
「?! 誠さん?! どうして・・・・・・」
「ああ、よかった・・・・ あの、あなたにキミちゃんの話を聞いてから・・・ おれ・・・・」
「・・・・・・涙が・・・ 止まらないんですね?」
「拭いてもまたしばらくすると・・・・ こんな事今までなかったんですよ・・・・」
「誠さん・・・・ 今から言う俺の話を信じてくれますか?」
「どうしてだか、あなたを呼び止めなきゃならない気がして・・・・ 聞かせて下さい!」
「・・・・・誠さんは一番大切なモノを・・・・ 奪われてしまったんです。」
聞いたらあなたを苦しめると知っていて、話す俺を許して下さい。 そう前置きして、全てを話した。
誠さんは幼馴染の喜美さんが大好きだった事、将来お嫁さんになってと、泣いて頼んだ事。
両親を亡くし、遊郭に買われた喜美さんが村を発つ日、必ず迎えに行くとやっぱり泣いて約束した事。
指切りして約束した幼い誓い、それを実現する為に一生懸命お金を貯めていた、病弱な母を支えながら。
たった一人の母を看取り、あなたは今度こそあの日の約束を叶える為に動きだそうとした、その矢先。
あなたが妻と呼んでいる御店のお譲さんに、誠さんは・・・・ 霧隠れの忍びの忘却忍術なんです。
誠さんから喜美さんへの愛情を根こそぎ奪い去った。 残されたのは、唯の幼馴染としての記憶だけ。
「それからは・・・・ 誠さん、あなた本人が一番ご存じのはずだ。」
「・・・・ぁ・・・・ぁ・・ぁぁっぁうあああ、そんな!!! 妻が・・・・ おれの妻は・・・」
「本当はあなたに知らせるつもりはありませんでした。 もう愛情は取り戻せないから。」
「どうして・・・・・ おれは妻より、会ったばかりのあなたの話を信じようとしている・・・・・」
でもあなたの止まらない涙を見た時・・・・ 俺は自分の勘に賭けてみようと思ったんです。
実は喜美さんは重い肺病で・・・ もしよかったらフリだけでもいい、会ってあげてくれませんか?
喜美さんへの思いを消されるまでのあなたがそうだった様に、彼女もそれだけが心の支えだったんです。
泣き虫の誠ちゃんが来た時、心配でまた泣いちゃうかもしれないから、自分はいつも笑っていよう、って。
「あぁ・・・・ おれは・・・・・ 行きます! キミちゃんに・・・・ 会わせて下さいっ!」
「あなたならそう言ってくれると思いました。 俺が変化するより、やっぱり実物の方がいい。」
「変化・・・・ ではあなたも・・・・ 忍び、なのですか?」
「はい。 俺は喜美さんの友人、香苗さんから依頼を受けて、あなたを探しに来ました。」
始めは木の葉隠れの医療忍者に喜美さんの肺病を治して欲しい、という依頼だったのですが・・・・。
我が里の一流の医療忍者に診せたら肺病は手遅れどころか、まだ生きているのが不思議なほどだったと。
それを聞いた香苗さんが、最後に喜美さんの夢をかなえたい、人を探して欲しいと、頭を下げました。
香苗さんも昔は泣き虫で、よく誠さんみたいだと言われたそうですよ。 そんな彼女達の為に、どうか。
「まだお名前を聞いていませんでしたね・・・・ あの・・・・」
「これはすみません、火の国は木の葉隠れの里からまいりました、中忍 海野イルカと申します。」
「木の葉の忍び・・・・ ここは水の国ですから・・・・ 公に出来なかったのですね・・・・」
「お察しの通りです。 今後この事は一切口外なさらないで下さい。」
カカシさん、ヤマトさん、おふたりならきっと、喜美さんに幸せな幻術をかけて逝かせてあげたでしょう。
もしかしたらあの両替商の父と娘を狩ったかもしれませんね。 お仕置き、とか言って。 くすくす。
“まためんどくさい事して! 先生は温情型の忍びの代名詞だよ”なんて声が、今にも聞こえてきそうだ。
でもね、馬鹿でもお人好しでも、俺はこれでいいんです。 誠さんが思った通りの人で・・・ よかった。
誠さん本人が喜美さんに会えば、何かを思い出すかもしれない。 そんな気がするんですよ、俺。