お人好しの忍び 6   @AB CDF GHI JKL M




「でね? こう・・・・ 細胞の中にある異質なものだけを感知して・・・・・」
「そうなんですよ、どの細胞のどこを刺激して活性化させるかの判断を・・・・・」
「「とにかく、すっごい繊細なチャクラコントロールなんですよ!!」」
「うん、うん、そうかそうか。 お前達の悪戦苦闘してる姿が目に浮かぶよ、頑張れ!!」

変わらないな、イルカ先生。 医療忍者を目指したのは、人に頼るだけの自分に嫌気がさしたから。
“サスケ君を助けて!”サスケ君が里を抜けた時、自分では説得できなかったのにナルトを頼った。
サスケ君は自分の意思で木の葉を抜けたのに、大蛇丸に攫われたかのようにナルトを説得して。

私の事が好きなナルトなら私の願いを叶えてくれる、心のどこかでそういう甘えた考えがあった。
その結果どうなったか。 同期の仲間が皆重傷を負った。 だからあんな事、軽々しく言えたんだ。
同期で一人だけ中忍試験に合格したシカマルが奪還班を編制して、シカマル一人に責任を負わせた。
サスケ君一人を無理やり連れて帰ってくる、たったそれだけの為に、皆が生死の境をさまよってまで。

いつもめんどくさそうにしていたシカマルが、自分の拳を壁に打ち付けて泣いているのを見たイノ。
仲間の命を預かる小隊長という立場のシカマルに、何も言ってやれなかったと悔しそうに泣き崩れた。
仲間の為に自分に何が出来るのか、真剣に考え綱手様に弟子入りを申し出た。 私とは全然違う。

あの時私がサスケ君に言った事・・・・・ イノには言えない。 ナルトやカカシ先生にも、誰にも。
『私もサスケ君と一緒に里を抜ける!』なんて。 忍びになったのは何の為?! 馬鹿にも程がある。
里を、仲間を捨てるなんて・・・・ あんな言葉、何があっても口に出してはならない言葉だった。
一度口に出してしまった言葉はもう取り消せない。 あの自分勝手な言葉が今でも私を苦しめる。

「二人ともスジが良いから、教えがいがあるんですよ?」
「わ、シズネさんに始めて褒められた!! やったネ、サクラ!」
「凄いなぁ、お前達!! 俺も鼻が高いよ! よしよし! 〈ナデナデ〉 」
「ちょっとイルカ先生! またアカデミー生扱いですか?!」
「お、すまんすまん! つい癖でな! はははは!!」
「くすくす! イルカ先生って・・・ あははは!」

違うんですイルカ先生、私は・・・ そんな自慢できるような卒業生じゃないの! そう叫びたかった。
シズネさん、私がクノイチになったのは、サスケ君と一緒にいたかったからなの、人を救う為じゃない!
思い出す度に苦しい。 シカマル達の為に自分を変えようとしたイノ。 私は・・・・ 何をした?
自分の為にナルトを変えさせはしなかったか? これのどこが忍び? 木の葉の下忍なの?!

カカシ先生が最初に言った、仲間を見捨てるヤツはクズだって。 私は仲間を捨てようとした。
自分勝手な理由で、たくさんの同期を巻き込んで、あげくその命の重みからも目を反らして。
綱手様やシズネさんの医療忍術を直で見て、この力は生き物の命をその手に預かるモノだと実感した。

だから思い出すと胸が痛い。 何であんな事を口に出せたのか、この痛みに耐え続けるのは私の責任だ。
そしてこれからの私に出来る事は、シズネさんや綱手様を見習って、一流の医療忍術を身につける事。
もう昔の私じゃない、これからは里の仲間の為に戦う忍びを、その忍び達を助ける忍びになる。
ナルトやカカシ先生の力になる。 第七班、カカシ班の一員として胸を張って任務に同行したい。



「辛そうですね・・・・・ 頑張って・・・・・」
「・・・・・!!!! これは・・・・・・ もう肺が・・・・・」
「そんな!! シズネさんでも治せないんですか?!」
「・・・・・サクラ、イノ。 分かる? ここまで細胞が侵されていたら分離は出来ない。」
「「・・・・・・。」」

木の葉の医療忍者の派遣を希望、肺病の末期患者を診て欲しいという、水の国の花街からの任務依頼。
普通は医療忍者一人と付き添いの忍びのチームを派遣する。 でも末期という事もあってシズネさんが。
シズネさんは上忍、本来なら中忍のイルカ先生とツーマンセルでいい。 でもあえて私達も同行させた。
その目で人の生死の重みを感じろと、そういう事なのかなと思ったけど、出会ったのは救えない命。

着いた先の遊郭で隔離されていた遊女を診たら、もう手遅れだという事が私達にもハッキリと分かった。
細胞の隅々まで毒素が行き渡り、気力で持っているだけで、まだ生きているのが不思議なほどだった。
バタバタと足音が聞こえる。 女将さんじゃなさそう、誰かがこの隔離部屋に向かって来たみたい。

「木の葉の里の医療忍者が来てくれたって・・・・ 本当?!」
「あ・・・・ あの・・・ 私達、木の葉隠れからまいりました医療・・・・・」
「喜美ちゃんは助かるわよね?! そうなんでしょ?! 神の手を持つ医療忍者ですもの!!」
「「・・・・・・それは・・・・」」

「俺が説明します、シズネさんは彼女の痛みを、なんとか・・・・。」
「分かりました、手は尽くします。 サクラ、イノ、集中して。」
「「・・・・はい!」」

凄く綺麗な遊女があわただしく入って来たかと思ったら、悲壮な顔をして開口一番に訪ねてきた。
私達ならなんとかできる、とそう思っているらしく、助かるのかと。 目には一抹の希望を覗かせて。
神の手を持つと言われている医療忍者はこの世に一人だけ。 木の葉隠れの里の五代目火影 綱手様。
いくら綱手様でも、ここまで毒素と同化している細胞から、有毒成分だけを分離する事は不可能だ。

普通の医者に診せたら、即安楽死を勧められるだろう。 細胞から病原だけを取り出すのは忍者だけ。
だからあらゆる病気の、末期患者でもすぐ諦める必要はない。 ただ、進行の度合いにもよるけど・・・・
言われて意識を患者に集中させた。 ああ、細胞そのものと毒素が・・・・ これではもう取り出せない。

耳にイルカ先生の落ち着いた声が入って来た。 彼女にもう希望は無いのだと伝える、静かな声が。