お人好しの忍び 7
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あんなシカマルを見た事がなかった。 そして差し入れのポテチにも見向きもしないチョウジも。
もっと早く医療忍術を使えていたら、一緒に行けたのに。 あそこまで皆が重傷を負う事もなかった。
あの回復力の固まりみたいなナルトが、カカシ先生に背負われて帰ってきたなんて、今でも信じられない。
私は山中一族の娘。 心潜術が使いこなせればそれでいいと・・・・ どこかで甘えていた。
人よりも特殊な術を受け継いだからって何? 父さんの足元にも及ばない、たかが下忍の小娘なのに。
猪鹿蝶トリオは三人一組のフォーメーション。 二人がボロボロになっていた時、里で何をしてたの?
アスマ先生が言ったじゃない。 “お前達は必ず親を超える日が来る、自信を持つんだ”って。
心潜術を使う時は、私はどうしても無防備になるから、シカマル達の外傷は避けられないでいた。
戦いの中での負傷を気にしないで戦場に立ち続ける事が出来るなら、それは何よりも二人の為になる事。
私が医療忍術を身につければ、それだけでプラマイゼロになる。 自分のやるべき事が分かった。
そして私は綱手様に弟子入りを志願した。 サクラと同じく、医療忍術を扱えるようになりたくて。
サクラのいる七班は、サスケ君が里を抜け、ナルトが自来也様と修行の旅に。 一時解散するらしい。
怪我をしたけど、シカマルもチョウジも里にいる。 私達同期のメンバーは皆、今も里にいる。
色々喧嘩もしたけど・・・・ 一人で頑張っているサクラに、仲間が側にいる私達は何も言えない。
いつかまた、しゃーんなろー このイノブタ! なんて・・・・ つっかかってきなさいよね。
調子狂うわ、元気で生意気じゃないサクラは・・・・ 私の知ってるデコリンじゃないもん。
あんたの仲間はナルトやサスケ君だけじゃないでしょう? だから・・・・ 一緒に頑張ろうね、デコリン。
シズネさんに言われてサクラと手をかざして確認してみた。 その遊女の肺は、甦らせる事は出来ない。
完全に毒素に侵されていて、手の施しようがなかった。 これが・・・・ 死。 まだ息をしている。
この人はまだ生きているのに、避けようのないそこにある死。 胸を開かないでも判断できる忍び。
顔に出しちゃいけない、でも誰よりも先に生死を判断できる、それが・・・・ 医療忍者なんだ。
苦しそうな痛みを和らげる事は出来る。 助命とはほど遠いけど、普通のお医者様には不可能な事。
シズネさんの合図で、忍びだからこそ出来る処置を施す。 体中の痛感神経を探し出し、全て切断する。
イルカ先生の落ち着いた声と、徐々に楽そうになっていく呼吸に勇気づけられて、丁寧に切断していく。
イルカ先生の説明を聞き終えた遊女が、その場に泣き崩れるのと同時に、患者はゆっくりと目を開けた。
「香苗ちゃん・・・・ どうしたの、泣いてるの? 昔に戻ったみたい。 誠ちゃんと一緒、ふふ。」
「喜美ちゃんっ!! 気が付いたの?! うぅ・・・ うん、うん、ごめんね、また泣いちゃった。」
「・・・・凄くね、気分がいいの。 ひょっとして、お医者様を呼んでくれたの? ありがとう。」
「うん。 女将さんが・・・・・ 女将さんが、わざわざ火の国から名医を呼んでくれたのよ?」
「ふふ、ならまた頑張って稼がなくっちゃ、お店の為にも。 ね?」
「香苗ちゃん、それなんだけど。 女将さんがもう少し休んでろって。」
「いいのかなぁ・・・・ 本当に凄く呼吸が楽なのに・・・・」
「こんなチャンスないかもよ? これ幸いにゆっくりしてれば?」
「くすくす! うん、そうする・・・・ 実は目が重いの、もう少し寝るね?」
「任せて! 喜美ちゃんのいない座敷は私が取り仕切るから! えへへ!」
「やっと笑った。 ふふ、香苗ちゃん、お休み。」
「うん、お休み、喜美ちゃん。」
この遊女二人は・・・・ 親友なのね? サクラと私のような、ヘンなライバル意識は全くない。
こんな関係もあるのね、お客を取り合う様な仕事をしてるっていうのに、不思議なぐらい仲がいい。
喜美ちゃんと呼ばれた患者は、本格的な深い眠りへと入る。 あれだけの苦痛に耐えていたんだもの。
寝ている間も神経が刺激され、熟睡できなかったに違いないわ。 よかった、穏やかな寝息が聞こえる。
「あの・・・・ こんな事頼んでいいか・・・ 折り入ってお願いしたい事があるのですが・・・・」
「「「???」」」
「なんでしょう? 俺は里では受付もしています、この場で依頼を受け付けますよ、言って下さい。」
「必ずお金はお支払いします、だから・・・・ 人を探して欲しいんです!!」
「・・・・患者を救えませんでした。 だから任務報酬は頂けません。 そうですよね、イルカ先生?」
「シズネさん・・・・ ええ。 そうですよ、任務変更という形で引き続きお受けいたします。」
「ああ・・・・ 霧隠れと違って・・・ なんて・・・ うぅ・・・ ありがとうございます・・・・」
「「・・・・・・・・。」」
そういえばここは水の国。 本来なら霧隠れに任務依頼するはずだわ。 どうしてなんだろう?
後で先生達に聞いてみよう。 こうやって他国の土地を踏むと、火の国との温度差を肌で感じる。
外の世界を見て、視野を広げる事。 これも私達の修行の一環、そうなんですね? 先生、シズネさん。