お人好しの忍び 2
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私は木の葉隠れの里を知らずに育った。 故里とはどんなところなのだろう、と想像しながら。
始めてこの目で医療忍術を見たのは私が三歳の時。 とれかけた兎の足が、見る見る元に戻っていった。
田畑を荒らす狼用の罠にかかった小さい兎の、鋼糸が喰い込んで半分取れかかっていたその足が。
魔法だと思った。 この人は・・・・ いつも側にいるこの女の人は、ひょっとして魔法使い? って。
木の葉の三忍の一人、今は五代目火影で初代火影 柱間様の孫の綱手様は、私の叔父の恋人だったと聞く。
たったそれだけの繋がりで戦火の中、赤ん坊の私を育ててくれた、言わば育ての母。 私の師匠。
いつも淋しそうに、けれど誇らしげに語る里の話。 私はそんな綱手様に医療忍術を直伝されたクノイチ。
いつか私も綱手様と一緒にそこへ帰りたい、それが私の夢。 そして木の葉崩しの知らせが耳に入る。
風の噂に伝え聞いた三代目火影の死。 綱手様は荒れた。 荒れて荒れて、手がつけられなかった。
その場にいなかったご自分を責め、私だけでも木の葉へ行けと言われた。 そんな事出来るはずがない。
あんな状態の綱手様を残してなんて。 それに一人で里に帰っても、誰が私の言う事を信じるのか。
“ただいま、加藤ダンの姪です”そう言えば身の証になる? よく帰って来たなと歓迎される?
里は木の葉崩しの大ダメージを受けて混乱のさなか、他里の間者だと思われ拘束されるのがオチだ。
それに木の葉では、私の産みの母の加藤ダンの妹は戦死と報告されている。 私の居場所は里にない。
そこに現れたのが、渦巻ナルトを連れた自来也様だった。 ナルトは凍りついた綱手様の心を動かした。
私でも自来也様でも出来なかった事を、まだ荒削りの下忍が。 そして綱手様は自分自身に打ち勝つ。
血液恐怖症を克服し、晴れて踏んだ木の葉の里の地。 どんなに帰りたかった場所か、想像もつかない。
今、私の夢は叶った。 綱手様と一緒に故里に戻ってくる事。 そしてこれからはただ、里の為に。
「はいどうぞ、イルカ先生。 お願いされてた調合剤です。」
「ありがとうございます、あの・・・・ シズネさんにまでそう呼ばれると、なんだか・・・・」
「だって弟子のサクラもイノもそう呼ぶから、つい・・・・ すみません、クスクス!」
「ははは、別になんでもいいんですけど、やっぱり上忍の方にそう呼ばれると・・・・ ね?」
この人はうみのイルカさん。 アカデミー教員兼受付忍の中忍。 そして弟子たちの恩師でもある。
春野サクラと山中イノが綱手様に弟子入りを申し出た。 医療忍者を目指す為、修行をつけてくれと。
そう、二人は私の妹弟子。 アカデミー時代の話をすると決まって出るのが“イルカ先生”の話。
綱手様が五代目火影を就任するに当たり、顔合わせは済んでいる。 でも直接話をした事はなかった。
「そんな細かい事は気にしない方に見えますが。 面白いですね、イルカ先・・・・ うみの中忍?」
「あーーー やっぱりイルカ先生で。 もっとくすぐったいです、ははは!」
「よかった! 私もイルカ先生の方が言い易くて。」
「「あはははは!」」
何日か前、そのイルカ先生からお願いされた。 任務に支障が出ない程度の精力抑制剤はないか、と。
個人差があるので、対象の情報を聞きたいと言ったら、面白い事が分かった。 暗部の恋人に使うそうだ。
妹弟子達の話から想像したイルカ先生は、どちらかと言うとお人好しで融通が利かなさそう、って感じ。
でもこんな裏工作もするのか、ってちょっと意外で。 ただ優しいだけの忍びじゃなく、強かだった。
「恋人が暗部の隊員か・・・・ それは求められて大変ですよね・・・ ぷっ! くすくす・・・・」
「いや、あの・・・・・・・ はあ、そ、そうなんですよ・・・・・ 俺、ついていけなくて。」
「これは間違っても正規の忍びに飲ませちゃ駄目ですよ? 無気力になってしまいますから。」
「ゴクリ・・・・・・ そ、そんなに? だ・・・・大丈夫ですよね、その・・・・」
「相手が暗部なら、これぐらいでなくては駄目です。 1〜2回で満足する感じの仕上がりですv」
「・・・・はははは・・・ あーーーーー 助かります。 命の危機を感じてたんで、ほんと。」
「ご馳走様です! でもイルカ先生、彼女の気持ちも分かってあげて下さいね?」
「は? 彼女って??」
「え? ・・・・・・・・・・。 あひぃ〜〜〜〜〜っっ!!! 」
お、驚いた・・・・ 彼女じゃなかった。 イルカ先生の暗部の恋人って・・・・ 男?! しかも二人!
そ、そりゃ死活問題よね? ・・・・・・と言う事は。 入れられちゃってるのはイルカ先生って事?!
暗殺戦術特殊部隊の面々は、闘争本能むき出しの忍び達。 だから精力も並大抵のモノじゃない・・・・。
わーーーーー 強かっていうか、それって・・・・ もの凄く正当性のある理由な気がして来たわ。
そんな者達に使うのに、心配そうにしていたなんて。 ふふ、やっぱりにじみ出る優しさは本物なのね。
あのナルトやサクラ、イノの恩師。 イルカ先生は、こんな中忍いるの? ってほどお人好しの忍びだった。