お人好しの忍び 12   @AB CDE FGH IJL M




遊郭中の病原体を全て死滅させた。 後は喜美さんの体から漏れるそれらを消滅させればいいだけ。
彼女の呼吸と共に少しずつ漏れだしてくる病原体を、吸い取っては死滅させる、この繰り返し。
サクラもイノも、ずっとチャクラを使い続けているのに、泣き事一つ言わない。 二人とも頼もしいわ。
綱手様、この二人は・・・・ いずれ木の葉を代表する医療忍者になるかもしれないですよ?

「あの手紙が来てから二時間・・・・・ きっともうすぐよ、喜美さん、頑張って?」

少し前、イルカ先生からの手紙が届いた。 野鳥の鳩に暗示をかけて、この遊郭まで運ばせたらしい。
チャクラを感知されると厄介だから、式は使えなかったのね。 臨機応変に対処出来るのは、さすがだわ。
ふふ。 “俺、一応中忍でアカデミー教師ですが・・・・”水の国への道中、何度もそう言われたっけ。
その鳩が届けた手紙には【誠さんを発見、一緒に廓へ向かっている】と書かれてあった。

香苗さんに知らせたら、ボロボロと泣き出してしまって。 また喜美さんに、泣き虫って言われてた。
喜美さんは痛みを感じないから分からないみたいだけど、さっきから心臓の鼓動が微弱なの。
それは側にいる香苗さんも感じているらしく、無理に笑おうとしては、何度も失敗してる・・・・。

「喜美ちゃん、もうすぐ誠さんが来てくれるのよ?」
「・・・・・・喜美さんの・・・ 鼓動が・・・・ シズネさんっ!」
「シズネさん・・・ イルカ先生は・・・・・ 間に合いますよね?」
「大丈夫よ・・・・ いざとなったら変化でもしてきっと・・・・・」

!!! この気配は・・・・・ イルカ先生、間に合ったのね?! 早く! 早く来てあげてっっ!!!
イルカ先生が巻物ホルダーから巻物を出した。 ああ、誠さんを・・・・ そこに入れて連れてきたのね?
そうよね、一般人を背負って駆けたら、目立つものね・・・・ って感心してる場合じゃないわ!
イルカ先生が巻物を広げ印を組むと、ボフンと巻物の中から男性が姿を現した。 彼が・・・ 誠さん?

「喜美ちゃんっっ!! おれだよ、泣き虫の誠だ! 迎えに来たよ、遅くなって・・・ ごめん!!」
「ぁ・・・・ ぁぁっぁぁぁぁああああ、誠ちゃんっ!! 信じてたっ! 私・・・・・」
「喜美ちゃん、約束通り・・・・ おれのお嫁さんになってくれる?」
「うん・・・・ うん! ごめん、笑顔で迎えたいのに、私が泣いちゃっ・・・・ た・・・・・」

嘘、さっきまであんなに微弱だった心音が・・・・・ 今、凄い速さで脈打ってる、こんな事って!
・・・・・・そうか、これは・・・・・。 サクラ、イノ。 このハッキリとした心音が分かる?
私の視線を感じた二人が、まるで奇跡を見るような目で私を見た。 そうよ、感じ取ったのね?
ここにあなた達を連れて来られて本当によかった。 よく見ていなさい、この奇跡と死の瞬間を。

「喜美ちゃんっっ!! ・・・どうして・・・ 今・・・・・ うわぁあぁっぁうあああああ!!」
「喜美ちゃんっ! しっかり! 嫌よ、まだお別れをしていないわ、嫌っ、喜美ちゃんっっ!!!」

「・・・・・そんな・・・・ 心音が・・・・ 聞こえない・・・・・」
「うそ・・・・・ だって今・・・・ シズネさん!
「「・・・・・・・・。」」

喜美さんは、瞳を輝かせたまま、幸せそうな微笑みで逝った。 最期にこぼれた涙が頬を滑り落ちる。
私は強い輝きを放つ瞳を見つめながら、それでももう自分で閉じる事のないマブタをそっと閉じた。
最後にこれだけ綺麗に笑う人って、早々いるものじゃないわ。 とても・・・・ とても強い人よね。

サクラ、イノ。 命の火っていうのはね、消える前に一瞬だけ、もの凄く燃え上がる時があるの。
それは私達忍びのチャクラにも似ているわ。 体内から沸き上がって溢れてくる力の源、気力よ。
すごくね、頑張って生きた人だけがその輝きを増すと言われているの。 私も数回しか見た事がない。
私達医療忍者は、その輝きを肌で感じる事が出来る。 わかる? 命の源を感知できるのよ?

「彼女は・・・・ 凄く頑張って生きた人ですね。 だから最後に願いが叶ったんだ。」
「うん、うん、そうよ、その通り。 喜美ちゃんがいてくれたから私・・・ 今まで、ありがとう。」
「香苗さん、これで・・・ 今回の木の葉隠れへの任務依頼は完了です。」
「皆さん・・・ 本当にありが、とう・・・ ございました・・・・・ 今、報酬をお持ちしますね。」

そう言って香苗さんは隔離部屋から出て行った。 おそらくずっと我慢していた声を・・・・
声をあげて泣くのだろう。 私達の手前、一生懸命抑えていた感情を、一人になって解き放つんだ。
そして落ち着いたら戻ってくる。 その時は本当の笑顔になっているはずだわ、彼女も強い人だから。
ここまで立派に親友の最期を看取ったんだもの。 親友の死化粧は自分が施す、きっとそう申し出る。

「イルカさん・・・・ おれの頼みを・・・・ 覚えていますか?」
「もちろんです、誠さん。 里の受付係は、直接任務依頼を受け付ける事が出来ますから。」
「では、お願いします。 依頼料はあれで本当に足りるのですか?」
「十分すぎる額です。 香苗さんも、これで晴れて自由の身ですよ。」

「「?? イルカ・・・・ 先生??」」
「・・・・・・・。 (依頼・・・・?) 」

まさか。 あ、っと思った時にはもう、イルカ先生が誠さんの心臓をクナイで一突きしていた。

あの突きなら、瞬時にあの世へ逝けただろう。 おそらくそういう依頼を本人から受けたんだわ。
お手本でも見ている様な心臓への見事な突き。 誠さんは喜美さんに手を伸ばしたまま倒れ込んだ。
その顔には、やっぱり喜美さんと同じく、涙と・・・・ 凄く幸せそうな頬笑みがあった。

サクラとイノは絶句してる。 それは仕方のない事だわ。 こんなイルカ先生を初めて見たのね?
目を見開いている二人を無視して、イルカ先生と私は、喜美さんと誠さんの遺体を並べてあげた。
指切りをさせてあげて下さいとイルカ先生が言うので、その通りに。 きっと依頼人の希望なのね。

一人前の医療忍者になる為には、まず、中忍試験を突破しなくちゃいけないの。 第一関門よ?
サクラ、イノ。 いい勉強になったわね? イルカ先生はアカデミーの先生でも受付忍でもある。
とてもお人好しの忍び。 でもね、暗殺任務を含むAランクをこなす、木の葉隠れの里の中忍なのよ?
これからあなた達が目指す中忍はね、小隊を任される隊長という立場なの。 それを忘れないでね?

・・・・・・・あと、この人、暗部の・・・・ 新旧部隊長の恋人だから。 それも忘れないで?