灯台下暗し 1   ABC DEF GHI JKL M




初代火影 千手柱間様はその昔、大自然を操れたとも言われている、森の千手一族の末裔。
言わずと知れた、木の葉隠れの里の創始者だ。 柱間様は自己再生能力があり、ある遺言を残した。
自分の亡き後、亡骸を木の葉の里の医療班に譲渡する、難病・奇病の研究に勤しむように、と。

二代目火影 千手扉間様は、兄でもある柱間様のその遺言通り、医療班に亡骸を研究させた。
兄の意を汲み、世の中の、ただ死を待つだけの人々を救えるような、そんな薬を作り出そうと。
死んだ細胞を甦らせる術。 穢土転生の術は、元はそういう発想から研究された術だった。

けれど第二次・第三次忍界大戦と、大陸で国を挙げての戦争が続き、研究は片隅に追いやられる。
だが一部の過激派は、密かに研究を続けさせていた。 忍術開発能力に長けた三代目の愛弟子 大蛇丸に。
ボクはその研究の一環。 ボクの発見で、その研究が悪用されていた事を三代目は知る。 そして。

大蛇丸は木の葉隠れの里を抜けた。 全ての実験室を破壊し、術の研究資料を持ち去って。

大蛇丸の実験室で、生体実験の材料として扱われていたボク。 コイツも失敗だと川に捨てられた。
やんちゃな子供が誤って足を滑らせた、そんな筋書きだったのかもしれない。 でもボクは助かった。
三代目火影 猿飛ヒルゼンが、川に浮かんでいた子の発見を知り、一晩中チャクラを与え続けたから。



尾獣最強の力を誇る九尾の人柱力 渦巻ナルト。 四代目火影 波風ミナトとクシナさんの実子。
火影様がボクの命を救ってくれたあの時から、人柱力 ナルトの監視役になる為、努力してきた。
三代目が言うように、ボクに初代様の細胞が埋め込まれているなら、いつか人柱力の為に役立つはずだと。

「・・・・・エ?! イルカ先生が捕まっている可能性があるんですか?!」
「連絡が途絶えた。 サスケが里を抜け、ただでさえ傷心している今、入院中のナルトには言えまい。」
「いくら初代様のペンダントがあっても、本格的に暴走したらボクでも止められるかどうか・・・・。」
「もしイルカが捕縛されているなら、利用される恐れがある。 速やかに保護して来い。」

なんでイルカ先生を里外任務なんかに。 まあ、人手不足の今は仕方ない、か。 それにしても・・・・。
海野イルカ先生、か。 確かに今、ナルトがそれを知ったら、自分が行くと言って聞かないだろうな。
援護に向かったはいいが、もし最悪の事態が起こっていたら? 恩師の死を目の当たりにしたら?
そうなれば、ナルトの中の不安定な尾獣チャクラは間違いなく暴走し、ナルトが九尾に乗っ取られる。

「サスケを連れ戻せず、下忍仲間に重症を負わせてしまったのも自分だ、と責めている。」
「それを言うなら任務で里を空けていた、オレにも責任がある、ってコトになるでショ。」
「本人の意志で抜けたのなら、誰が何を言おうと無駄だ。 それを認めたくないんだろうな。」
「そんな状態のナルトには、イルカ先生が安否不明なんて受け止められないですね・・・・。」


九尾襲来事件は戒厳令がしかれているが、里の人々はナルトの中にナニがいるのかを知っている。
だから人柱力に、里を襲った九尾に対して、憤りと不安を感じ、憎悪と悲しみをぶつけてしまう。
そんな不条理の中で育ったなんて、とても思えないぐらい真っ直ぐで、純粋な下忍になっていた。

海野イルカ先生は、そのナルトをアカデミーから卒業させた教師。 カカシ先輩は、心底驚いたらしい。
一点の曇りもない目を輝かせ、歴代の火影を超える火影になるんだ、と己の目標を掲げたナルト。
周りを拒絶した目を凍えさせ、復讐の為に一族を滅ぼした兄を殺す、と断言したサスケの対比に。

あの時点で、サスケの方が手がかかると悟ったカカシ先輩は、サスケを集中的に鍛えたのだが。
全ては無駄に終わった。 誰の助言も聞かなかったし、自分で調べようともしなかったサスケ。
イルカ先生は先輩に、アカデミーでは皆の良い手本でした、と寂しそうに言った事があるそうだ。

ボク達の様に暗部に所属していて、いろいろ事情を把握している忍びと違って、彼は正規の忍び。
うちは一族抹殺任務の裏事情も知らない。 もちろん九尾襲来が厄災でないことも知らない。
九尾襲来事件で両親を亡くした彼はただ、独りの淋しさを経験した者として、心から生徒達に接する。

ナルトにとってそんなイルカ先生は、自分を里の忍びだと認めてくれた、最初の人間となった。
例え無事でも、綱手様が言った通り、利用されるかもしれない。 イルカ先生を盾に九尾を狙って。
だから、精神的にまだ未熟なナルトにはイルカ先生が任務先から連絡を絶った、なんて言えないよね。