灯台下暗し 13
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明日になる前に、イルカ先生は村を抜け出してくるだろうから、それまでは待機してなくちゃ。
イルカ先生を連れて、なんですぐに村を出ないのか、その理由はなんとなくだけど想像がつく。
ボク達に触られたイルカ先生を消毒したいんだ。 もしかしたら、上書きもかねて抱くかもしれない。
そうなったらイルカ先生、絆されちゃいそうだなぁ。 あそこまで大切に思われて、しかも・・・
一緒に死んでくれ、とまで言われたんだから。 ボク達忍びが、死ぬ時に誰かと一緒に、なんて夢だ。
きっと今頃はアイツ、イルカ先生を抱いてるんだろうな、とか思うと、ムカムカして眠れやしない。
「・・・・ヤマト、まだツタから覗ける? ちょっと覗いてみてヨ。」
「やだなぁ、先輩、デバガメですか? 盛り上った二人がやる事と言ったらひと・・・・」
「イイから! ・・・・・・ナンかイヤーな感じがするんだよネ。」
「・・・・わかりました。 別の拷問みたいな気がしないでもないでもないですが。」
次の朝日が昇るまでは、あのツタはボクの支配下にあるから、まだ覗き見る事は可能だ。 でも。
カカシ先輩の“イヤな感じ”っていうのは、外れた事がない。 過去この勘に、何度も窮地を救われた。
ついいつもの癖で、というか、取り合えず村周辺の気配を探る事から始めたら、チャクラを感知した。
村に猛スピードで向かう、ひとつのチャクラ。 マシラと似ているから、これは間違いなく岩隠れだ。
「カカシ先輩っ! 急いで村に戻りましょうっ!!」
「・・・・・・・・了解。 やっぱりなんかあったんだネ?」
「別の岩隠れの上忍の気配が、あの村に向かっていますっ!」
「口寄せの術っ!! パッククン、イルカ先生のコトは知ってるネ? 皆を連れて先に行って!」
「・・・・うむ。 あの若造のピンチなんじゃな? 心得た。 皆、行くぞ、散っ!!」
マシラと同じく上忍の気でした。 イルカ先生とマシラはチラッと確認しただけですが、まだ無事です。
でも、もう一人の上忍があの村に着くのは時間の問題です。 多分、ボク達より速いと思われます。
パックン達が向かってくれたから、ボク達より足が速いので問題ないと思いますが、マズイです。
巻物に紛失センサーでもついていたのでしょうか? いくらなんでも早すぎますよね・・・・。
「マシラが里抜けをすると気付いたなら、イルカ先生も殺される・・・・・ クソッ!!」
「先輩、ボクの頭覗いていいですよ。 いちいちこうして中継しながら話すのは・・・・ ね?」
「悪いケド、そうさせてもらうヨ、写輪眼っっ!! ・・・・これは。 まだ村の手前だネ。」
「パックン達も速いですが、あの上忍の方が少し前に村に入りそうです。」
ふふふ、あのカカシ先輩が“悪いけど そうさせてもらう”だって! いつも勝手に覗く人が。
先輩も、イルカ先生とマシラの絡んでるシーンなんて、出来れば極力見たくないはずだ。
でも見なくちゃならない。 ツタの視界を借りるという事は、否が応でも目にする事になる。
・・・・・・ほら。 思った通りだ。 イルカ先生はマシラに最後の思い出をやろうとしていた。
「・・・・・他人とのキスを見ただけで、こんなにムカつくのって・・・・ マズイよネ?」
「始めも見ましたよね。 その時はなんとも思いませんでしたが。 ボクもムカつきます。」
「あーあ。 気持ち良さそーにしちゃって、まあ・・・・・。」
「ほんと、いい顔と反応をしますよね、イルカ先生・・・・。」
全身全霊をかけて相手に対峙する人。 気持ちいい時は、きっと素直に顔やしぐさに出るんだろう。
マシラの気持ちを感じとったら、それに応えられるだけ応えてやろうとするはずだ。 ほら、ね?
ヤツだって感じてる。 そのイルカ先生の情を。 温かくて優しくて、忍びらしくない愛情。
マズイな。 岩の上忍が村へ入った。 パックン達は・・・・・ あと少しだ、急いでくれ!
マシラもそれに気付いた。 イルカ先生との情事は中断、先生にここから出るな、と言っている。
イルカ先生の頬に小さくキス、麻のシーツを掛けて自分の背中に隠した。 岩の上忍を迎える為に。
「・・・・岩の情報部? 交代って・・・・・ マシラは他の任務の放棄を・・・?」
「もうずっと前に任を解かれてたんだネ。 先生と一緒にいる為に留まっていたんだヨ。」
「明日・・・・・ イルカ先生を残して、自分は岩に戻るつもりだったのか・・・・。」
「抜け忍として一緒に命を狙われて生きるより、イルカ先生の確実な生を選んだんだヨ。」
・・・・さすがにイルカ先生も気付いた。 先生と同じく、相手から身を引くつもりだったと。
ボク達の事も知ってたんだ? まったく惜しいな。 マシラは開き直ったのか、巻物の事を報告した。
・・・違うな。 ここでこの男を殺るつもりだ、先生を逃がす為に。 あいつ、これで戻れば死罪だぞ!
相手の上忍に冷たい殺気を向けるマシラ。 ところがそいつの標的は、なんとイルカ先生だった。
マシラは、自分に刃が向けられるモノとばかり思っていたらしく、半歩出遅れた。 まずいっっ!!
速過ぎて一体何が起こったのか、イルカ先生には判らなかったかもしれない。 男にも悟らせなかった。
男の刀は庇ったマシラを無視し、標的に定めたイルカ先生だけを的確に貫いた。 唖然とするマシラ。
巻物の事はオレがかばってやる、それより今はコイツの方が邪魔だ、一時の気の迷いで道を誤るな、
敵に巻物をくれてやる決断をさせるほど影響を与える男など、今お前には必要ない、と男は言ったが。
胸から刀を引き抜かれた先生が布団に倒れ込む寸前で、その変化が解ける。 先生に変化したマシラだ。
ボク達にはハッキリと見えていた。 入れ替わりに気付かずにマシラを貫いた馬鹿な上忍の事も。
マシラがイルカ先生を庇った時、瞬時に先生に変化した事も。 もちろん、先生には自分の姿を写して。
唖然としていたマシラの変化が解ける。 そこには唖然とした本物のイルカ先生の姿があった。
やっとマシラの変化だと気付いた上忍の呟きと、耳を覆いたくなるような悲痛な先生の叫びが交差する。
その時、なだれ込んだ先輩の忍犬達が、岩隠れの男に一斉に飛びかかり、八か所の急所を押さえ捕縛した。
イルカ先生がマシラの傷口に当てたシーツが、止めどなく流れる血で赤く染まっていく。
必死で呼びかけるイルカ先生。 その声が聞こえたのか、ゆっくりと・・・・ マシラは目を開けた。
けど彼はもう、虫の息だ。 イルカ先生の胸に抱かれながら、今にも命の火が消えようとしている。
先生に抱きしめられているマシラを見て、死ぬほど羨ましかった。 そこはボクの居場所だと。
ボクは、ナルトの精神の安定を図る為だけに、イルカ先生が必要だと思っていた。 でも今は違う。
忍びとしてのイルカ先生は、そういう意味で木の葉になくてはならない人だ。 ナルトにとっても。
ボク自身がイルカ先生自身を欲しいんだ。 こんなに何かを、誰かを欲しい、と思った事はなかった。
この人が知らない誰かを抱きしめながら泣き喚く姿なんか見たくない、こんな感情は知らないよ。
ナルト、もういいよね? 次は自来也様がみてくれるらしいよ? イルカ先生の手を離れたよね?
約束する、自来也様に修業をつけてもらって帰ってきたら、ボクが必ず君の力になる。 だから。
今度はボク達がその手を取っても、許してくれる? ボクは君が前に居た、あの温かい場所が欲しいんだ。