灯台下暗し 3
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『これでよし。 この寺子屋の先生には可哀想だが命まで奪わないんだ、感謝してもらおう。』
『たまたま暗殺現場に居合わせただけですからね。 でも木の葉は、無駄な殺しはしません。』
『火の国以外の・・・・ どこか知らない土地で、また新たにやり直せますね。』
『ああそうだ。 それまでの記憶が無くなるだけだ、人格が壊れる訳じゃない。』
『この辺りでいいだろう。 もう少し行けば小さな村があるらしい。』
『地図にないような、名もない村・・・・ おあつらえ向きですね。』
『じゃぁな、先生。 間違っても火の国に帰ってくるなよ?』
『お元気で。 あなたは事故死した事にしておきますよ。』
俺の頭を覗いた上忍が偽の記憶を信じ、自分の知り合いだからと、言ってこの村に置いてくれた。
彼は岩隠れの上忍。 木の葉から奪った巻物をこの村に隠し、村人のフリをして潜伏をしている。
村人達に暗示でもかけているんだろう。 鍛冶屋のマシラとして、すっかり村に溶け込んでいた。
俺は火の国に関する記憶だけを抜かれた、という事になっているから、名前も職業も覚えている。
イルカという寺子屋の教師、どこで教えていたかは覚えていない、そんな不幸な記憶喪失の青年だ。
岩の上忍 マシラは『土の国の寺子屋で教えていたんだろう、町に行った時、見た事がある』と言った。
「イルカ先生、見て見て! “ま行”上手に書けるようになったよ?」
「ん? どれどれ・・・ おー! でも“め” が“ぬ”になってるぞ?」
「あっ! ほんとだー!!」
「あはは。 もう一回おちついて書いてごらん?」
「うん!」
今俺は、そのマシラのくれる情報を頼りにしている青年として、村でミニ寺子屋を営んでいる。
与えられた家屋を子供達に開放しているだけなんだが。 記憶のない不幸な青年に、皆は親切だ。
変に名前を偽ったり、職業を偽ったりして、岩隠れの上忍に不信感を与える訳にはいかない。
少しでも怪しまれたら、村の人達の様に暗示をかけられてしまう。 だから自然体でいるほうがいい。
「イルカさん、今日も食べに来てイイですか?」
「あ、マシラさん! もちろんですよ。 昨日採って来て下さったキノコを使いますね。」
「じゃ、夕方には戻ります。 町でイルカさんの事も聞いてきますよ。」
「ありがとうございます。 たくさん売れるといいですね。」
時折マシラは、町に出かけると言って半日ほどいなくなる。 岩隠れの忍びと接触しているんだろう。
その期を逃すまいとして、一度マシラの住む家に忍びこもうとした。 でも結界が張ってあって無理。
巻物は間違いなくここだ、と確信したんだけど。 思案していたら帰って来たマシラと鉢合わせして。
で、夕飯を一緒にどうですかと誘いに来たけど、お留守の様だったので・・・・ とごまかした。
「マシラ兄ちゃん! 僕ね、お土産は黒砂糖がいいな!」
「こら、マシラさんは遊びに行くんじゃないんだぞ? お仕事だ。」
「わかった、黒砂糖だね? ・・・・・イルカさんは何が良い?」
「え?! 俺は・・・・ 俺の事を調べて来て下さるだけで十分です。」
「・・・・まったく欲がないよね、イルカさん。 わかった、テキトーに買ってくるよ。」
「あ、いえ、俺は別に、ほんとに・・・・。」
「いつも御馳走になってるから、お返し。 ね?」
「そ、そういうことなら・・・・ お言葉に甘えます。」
「ふふふ、そうして下さい。 行ってきます。」
「行ってらっしゃい、お気をつけて。」
「いってらっしゃ〜〜い!」
あれからマシラは、夕飯を食べに家に来るようになった。 時には材料を持ってきてリクエストする。
怪しまれるよりはマシだが、それにしても驚きだ。 何がって、上忍が他人の手料理を食べるなんて。
けど迂闊に薬は盛れない。 相手は上忍、薬の耐性はつけているだろう、結界の種類も判らないし。
今は下手に動くより、あの家に招いてもらうほどに信用させる方が得策だ。 なんとか中に入りたい。
中に入ったら、巻物の隠し場所を調べて、すぐに盗れるようにしておかなければ。 結界は問題ない。
中から結界の仕組みを調べれば、どんな種類のものか判明する。 鬼の居ぬ間に結界を破って退却だ。
マシラが村からいなくなるこの間に、俺は木の葉へ近況報告をする。 順調に信用を築いている事を。
だいたい3〜4日に一度、マシラはいなくなる。 安全に、定期的に里への報告が出来るという訳。
上忍がいる村で忍術を使おうものなら、スグに俺が忍びである事がばれてしまう為、伝書鷹を呼ぶ。
木の葉の伝書鷹は、俺が餌をやる必要はない。 付近の森の中で適当に獲物を狩って過ごしている。
“鷹丸”〈たかまる〉と呼ぶと、どこからともなく飛んで来て肩に止まる可愛いヤツだ。
・・・・・・お、やって来た。 ははは、鷹丸、クチバシに血がついてるぞ、お前。 ランチの後だな?