灯台下暗し 6
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あれからマシラは、町に行く度にお土産を買ってくるようになった。 いくら鈍感な俺でも気付く。
マシラは・・・・ 岩隠れのこの若い上忍は、どこをどう気に入ったのか、俺に惚れてるらしい。
安かったから、と手渡される品物は、どれも値の張る高価なものばかり。 まいったな・・・・。
後ろでひとまとめに髪を縛っているからか、髪紐が多い。 さすがに着物はまだないが。
あと、茶碗や湯飲み、箸なんかも。 俺とお揃いにしたと言っては、家に置いて行くんだ。
安全で確実に家に入れる方法なら、これが一番いいのかもしれない。 報告するか・・・・。
「なんて書けばいい? 俺がクノイチばりの色仕掛けで、巻物を奪還します、とかか?」
なんだかなぁ。 ・・・・・やめだ、やめ! 別に詳細は知らせなくいていいんじゃないか?
巻物奪還に向けて、そろそろマシラの家へ招いてもらえそうだ、それだけでいいな、そうだよ。
まあ、多分、近々・・・・ の予定だけど。 そうなったらいくらでも出入りできるからな。
一回や二回、ホられても・・・・ 大丈夫だろう、うん。 まさかこんな方法で奪還とはなぁ。
もっと色気があるクノイチなら納得できるけど、俺? みたいな。 信じてもらえないだろうし。
あんまり遅れそうなら、もう少しかかりそうだと報告すればいいか。 10日以内なら問題ない。
「きっと今、動いている最中なんだな、とか思ってもらえると思うしな。」
おーーーい、鷹丸! んじゃ、これいつものヤツ、頼むな? ・・・・鷹丸、可愛いなぁ。 ん?
お前、また血がついてるぞ? ちょっと待て拭いてやるから。 よーし、男前! さあ、行って来い!
鷹丸の黄色いくちばしは、ナルトを思い出す。 サスケと病院の屋上で喧嘩した、ってしょげてた。
・・・・・サスケは自慢の生徒だった。 ・・・・・あんな目をするような子では、なかったのに。
俺なんかじゃ、サスケの力にはなれないと思うけど。 里に帰ったら、様子を見に行ってみるか。
「また、カカシさんに、過保護だって、叱られそうだけどな。 くすくす・・・・。」
「え・・・・ 俺の家族が・・・・ 事故で?! 俺の目の前で死んだんですか?!」
「うん。 その時のショックで記憶がなくなったんじゃないかな、と思うよ。」
「そんな・・・・ もう帰る場所がないなんて・・・・ 思い出す人もいないなんて・・・・。」
「辛い過去なんて思い出さなくてイイよ。 帰る場所もここにあるじゃないか。」
町に行って、刃物の行商をするついでに、俺の事を調べてくれると言ったマシラ。
俺は記憶喪失でもなければ、土の国出身でもない。 偽の記憶を覗いたマシラがそう言っただけ。
そしてこの報告。 ・・・・これはいよいよ覚悟を決めなければ、だ。 こんな嘘をついてまで。
この上忍は、俺が欲しいのか。 もういっそ、俺の口を割らせる為の罠だと、誰か言ってくれ。
「うぅ・・・・・・。 うっく・・・・・ ふっ、うぅうううう。」
「イ、イルカさん、泣かないで。 おれが側にいるから。 一人じゃないから。」
「ぅ・・・ すみません、せっかくマシラさんが調べて来てくれたのに、俺、は・・・ うぅ・・・。」
「・・・・この村にずっといればいいよ。 村の子供もイルカさんが大好きだ。」
「っぅ・・・・ うっく、子供、も? うぅ・・・ 他のみんなも?」
「うん。 ・・・・おれも。 おれもイルカさんが好き。 大好き。」
「マ、マシラさん・・・・・ 有難うございます、 ううう・・・わぁぁああ、マシラさんっっ!!」
「うん、そう。 おれの腕の中でなら、いっぱい泣いていいよ? おれがいるから、ずっと。」
なんか、本気で泣けて来た。 こんな見目の良い上忍が。 しかも俺の二つ下。 もっと選べよ。
アンタなら、ちょっと優しくすれば、どんな女の子だって落ちそうなもんなのに。 同情してしまう。
誰の為の涙かなんて。 この岩隠れの上忍の、切ない悲恋の為の涙だ。 嘘の恋の為の・・・・。
ええい、どうにでもなれっ! そう思って胸に飛び込んでみる。 マシラはしっかりと受け止めた。
俺より年下の、でも俺より遥かに強い上忍。 実力じゃかなわない。 背の高さも、少し負けてる。
若いのに包容力のある、力強い腕だ。 どう考えても、抱かれる方だよな・・・・ 俺・・・・。
「・・・・おれ、イルカさんの家に通うから。 朝から晩まで一緒にいる。」
「ふふふ、お仕事はどうするんですか? 腕利きの鍛冶屋のマシラさん?」
「もう! 現実に戻さないでよ。 ・・・・やっと笑ったね、イルカさん。」
「マシラさんがいてくれたおかげです。 ほんとうに・・・ありがとうございます。」
そこは“おれの家に引っ越しておいでよ”だろ。 まあいいか。 これからチャンスはいくらでもある。
できるだけ綺麗に終わらせてあげなきゃな。 最後まで騙しきる、それが相手を騙す時の礼儀だから。