暗殺工作員の恋心 12
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『『イルカ、イルカ! 聞いて?』』
『・・・・なに。 ついに告白したとか言う?』
『馬鹿ね、もう! 違うわよ! 所属部隊が分かったのv』
『なんと火影様の両腕と称される部隊、戌班と猫班なのv』
『へー それはまた・・・・ 高根の花だな、まあ頑張れ?』
『なんでそんなにこだわるの?! 寝ちゃったら男なんて一緒じゃない!』
『これは特別な恋心なのよ? 心の中ではずっと色あせないんだから!』
『あー ・・・・忘れてない? 俺も男なんだけど・・・・』
『『あら、やってる事は同じじゃない、お仲間vv』』
『うん、それは否定しない。』
『『ふふ! イルカも綺麗な思い出の一つぐらいみつけなさいよ?』』
『だから。 俺はそんなのいらない、って。』
可哀想だと思うよ、本当に。 俺みたいなのに騙されちゃって。 でもそれとこれとは別物。
俺より格段に強い相手、俺の何倍もの力があるのに。 里を捨て、それまでの自分の業に背を向けた忍び。
暗殺部隊に身を置く忍び達は、どこの里でも至宝。 表に出せないような過酷な任務を強いられる。
辛いし、苦しいし、淋しい、そんなのは端から分かってた事だろ? だからこそ皆に信頼されるんだ。
そんな状況下でも、己の進むべき道を間違えない忍び達。 成りたいからって成れる訳じゃないのに。
俺は縁があって、暗殺部隊の忍びと個人的に知り合えた。 しかもその中にあって隊を纏める存在。
辛い現実から目を背けず、苦しくても耐え続けてる。 淋しいなんて感傷に浸ってる暇さえないんだよ。
そういう本当に強い忍びは、先入観を持たず、思考に柔軟性があり、そこに生まれるはずの隙がない。
俺はつくづく実感したよ。 俺があんた達の様な強い忍びを狩れるのは、敗者だからなんだと。
人の命や人生は物じゃない。 汚れたから新しいのに変えよう、なんて絶対に出来ないだろ?
殺し過ぎたから疲れた? 周りを信じられなくなった? 全部捨てて、新しい人生を生きようと思った?
それは虫が良すぎるだろ。 その手にかけた者達の人生が既に終わっている事を、忘れちゃ駄目だ。
己の実力を熟知してて、黙認される事を想定して抜けたも同然。 それは強かな逃げだと思うよ、俺。
中忍なんかに騙されて殺される様な、そんな無様な死に方を迎えるなんて。 本当にあなたは可哀想だ。
里を抜ける前のあなたに誓って、というのは本心。 全部を投げ出す前の立派な忍びの為に、夢の続きを。
「なあ。 ・・・・・・・・最後に一つだけ頼みがあるんだ。」
「元暗部だった忍びに免じて。 ・・・・・なんでしょう?」
「一度だけでいい。 その声で・・・・・ おれの名前を呼んでくれないか。」
「・・・・・分かりました。 里での呼び名がいいですか? それとも・・・・・」
“名前を呼んでくれ”この手の最後の要求もたまにある。 言葉を奪われてしまった青年だからね、俺。
言葉での会話が二人の間に存在しなかったから。 俺の喉から出る声といったら、あー とか うー とか。
ターゲットとの会話は筆談。 呼びかけるのは、手を握ったり抱きついたりのスキンシップだ。
ターゲットの最後の願いは、ここでペットの俺と暮らしていた時の名を呼んでくれ、というものだった。
喜んで。 そんな事であなたが狩られてくれるなら、いくらでも。 全部この時の為の工作でしたから。
この一ヶ月半、手紙に書いていただけのその名を口に乗せながら、クナイを右手の中で構え直した。
「“向こうで待っています。 探しに来て下さいね。 俺の愛おしいあなた?”」
「がっ!!! ・・・・・は ・・・サービス精神 ・・・・・旺盛だ ・・・・な ・・・・っっ・・・」
「お礼は結構。 ・・・・素晴らしい忍びだった者に対する礼儀ですから。」
「・・・・・・・・・・あり・・・・ が・・・・・・・と・・・・・ ぐっ!!」
首から止めどなく流れる血を押さえながらも、皆、最後には必ずお礼を言う。 “ありがとう”と。
それは俺の台詞だよ。 騙されてくれてありがとう。 でないと死んでいたのは俺の方だから。
感謝される様な事は何もしてない。 俺が与えたのは体だけだ。 要は肉の塊、細胞組織の集まり。
分裂を繰り返し、人の細胞は自己再生する。 実は何度も生まれ変わってるんだ、ミクロレベルでなら。
目には見えないかもしれないけど、生まれ変わるという意味では、ただ生き続けるだけでいいんだよ。
古い細胞が死んで新しい細胞が体を構成する。 そう考えれば、自分が生まれ変われた気がしないか?
ペットとして過ごした一ヶ月半の俺の細胞も、やがて新しく生まれ変わる。 俺はそう思っているんだよ。
繋ぎをとった。 間もなく一番近くの巣から連絡係が派遣されてくるだろう。 昔の俺達の様な下忍が。
封印の巻き物と封印札を持って。 で、チャクラを封印してて忍術を使えない俺の代わりに封印する。
“その忍び、高額賞金首だから失敗するなよ?”そう言うと、とたんにシャキンと背筋が伸びるんだ。
大事に懐にしまい、里まで無事に届ける使命感に燃える。 一丁前にキリリとしまった顔つきになって。
そうなんだよな、俺達もそうだった。 里と里の忍びを繋ぐという使命感に燃えて、伝令部にいたはずだ。
でもたった一晩、あの出来事が俺達を変えた。 人生の転機って、もの凄く不思議なもんだよ。
お、巣から連絡係の到着だ。 お疲れ、早速だけどこの忍び、封印してくれる? 札も忘れずにな?
「じゃあ、ちゃんと里まで届けてくれよ? 俺は身辺整理がまだ色々あるから・・・・・」
「「「・・・・・あのっ!!」」」
「ん? 何??」
「どうしてそんな忍びを・・・・・ いや、こう言ったら失礼ですけど・・・・・・・」
「うみのさんは中忍ですよね、確か。 実は上忍・・・・ とか言います??」
「それにその・・・・ か弱そうというか・・・・ いや、今のその格好が、ですよ?」
「くすくす! だからだよ。 下忍の目から見てもそう思うだろ? ・・・・・・だから、だ。」
「「「どういう・・・・?」」」
「うわー 俺もついに同じセリフ吐くまでになったか・・・ ふふふ!」
「「「?????」」」
いや、ごめん、ごめん、こっちの話。 ・・・・・せっかくだから良い事を教えてやるよ。
俺の様な抜きんでた才能がない中忍でも、自分より遥かに強い相手を倒す方法はいくらでもあるんだ。
凄い忍術を扱える様になれば、強くなったと思いがちだけど。 残念ながら心を鍛える忍術はないよな?
心を鍛えるには生き残り続けるしかない。 どうやったら自分が生き残れるかを考えれば大丈夫。
忍びはこの大陸に星の数ほどいて、それぞれ千差万別の戦い方があるんだよ。 それを恥じない事だ。
上忍を真似ても仕方がない。 俺は中忍で潜入員だから、俺は俺のやり方で生き残る方法をみつけた。
・・・・まあ、時間がかかるけどな? ガチで殺り合ったらどうなるか、そんなの言わなくても分かるだろ?
コイツは敵じゃない、忍びなんかじゃない、と認識させる。 先入観を持たせるんだよ、相手に。
なんて、偉そうに言ってるけど。 潜入員に昔、お前らと同じ質問をした事があるんだぞ、俺もな? くす!