暗殺工作員の恋心 8
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幸せな夢か。 ・・・・・・でも全部が嘘じゃないよネ? “首だけがあればいい”というのは現実だヨ。
実際にその首を、ウチは取引材料として使うんだし。 ソイツのいた里との取引はそれだけで優位に。
忍び同士が最後に交した約束が嘘だった、なんてコト本人は知らない。 望んだ死を迎えただけだもん。
なんとまあ。 お見事、と言うしかない。 だって普通にヤリ合ったら、うみの中忍は瞬殺だよネ。
生活を共にすると言っていた。 一年で4人の計算。 最低でも1〜2ヶ月は一緒に暮らすコトになる。
言葉を話せないのに縛られるのが好きな男か・・・ これは・・・・ のめり込むヨ、どう考えても!
自分を追ってくるのは凄腕の忍び、それぐらい自負してるだろう。 三下じゃ相手にならないと。
そこでもう先入観をもってるよネ。 まさか中忍がチャクラを封印してわざわざ殺しに来るなんて思う?
これがもし女なら、真っ先にクノイチの策略を疑う。 男でも媚を売ってくるヤツはかえって怪しい。
どちらにしても共通するのは話術。 なんだかんだと上手いコトを言ってスリ寄ってこようとする。
忍びの頭の中でも完璧に覗ける山中一族の心潜術とまではいかないケド、やっぱり調べるよネ?
相手が一般人なら、誘導的な質問や軽い暗示、気になるなら少量の自白剤でもあれば十分だし。
なのにその相手は話せない。 ならどうするか。 選択肢は一個だけ、苦手でも頭を覗くしかないヨ。
性的欲求を晴らしに出かけた先で、店の前にいた青年。 興味本位で話しかけたら言葉を失っていた。
どれどれと頭を覗いてみると、記憶の断片が浮かび上がる。 愛玩動物の様な生活を送っていたコト。
いつも紐で縛られていたコト、固執からか言葉を奪われたコト、その飼い主はどやら死んだらしいコトも。
こんな理想のペットがいる? そりゃ、すぐに家で飼いたくなるでショ、自炊も出来るペットだヨ?
・・・と。 こう思ってもらう様に記憶を覗かせるワケかワザと。 ワー タチ悪っ!! 最悪!!
「「この・・・・ 人でなしっ!! くすくす!」」
「あははは! ほんと、自分でもそう思いますよ。」
「で、単なるペットではなく・・・・ だんだんと・・・・ 依存させていくんですね?」
「ええ。 言葉に出さなくてもこの人は俺の事全部分かってくれる、っていう感じで。」
「筆談とかをするんでしょう? 好きとか・・・・ 早く帰って来て・・・・ とか書いてたの?」
「・・・・そういうのは書きません。 誘惑する訳じゃないですから。」
「「どう違うの? 依存させるんでしょう??」」
本当ならあの店で体を売っているトコロだった、感謝してもしきれない、ありがとうございます。
俺の命はあなたのモノです、もしあなたが帰ってこなくなったら、俺も後から逝きます。
こんなに俺の事をわかってくれる人が、この世に存在するとは思いません。 死後もみつけて下さい。
そして俺を飼って下さい。 あなた以外の人に触れられたくない。 あなただけに永遠に縛られたい。
チョット。 そんなこんなをお手紙に? 強烈な告白と一緒じゃない! ソレ依存するヨ、間違いなく。
読み取る感情は筆談といつも同じモノ。 その言葉に嘘は全くない。 嬉しい、幸せ、という感情。
この上なく慰められただろうネ、その存在に。 自分がいなければこいつは死んでしまうのか、と。
里を捨て、忍びであるコトを捨てた男に残されている道は、こ汚い血生臭い仕事ばかりだ。
自分と同じようにビンゴブックに載っている首を狩る賞金稼ぎか、切り捨てられるコトを前提の仕事か。
国の為、里の為と、少しばかりの大義名分も捨ててしまった男。 抜けたはイイが生きる意味を持たない。
でも自分の生きる意味を見出せた。 おれがいなければ死んでしまうなら、その為に生きようと。
「依存している様に見せかけて・・・・ 依存させるんだネ?」
「時に言葉よりも雄弁に物語るモノは・・・・ 行動ですからね。」
「ふふふ! そうです。 いくらきつく縛っても・・・・ 喜んじゃいますから、俺。」
「ワー うみの中忍 問題発言〜」
「エロエロフェロモンが・・・・」
「くすっ! ・・・・・・・・・・・・・ホントはそういうの、結構好きな癖に?」
「「・・・・・バレたか。」」
この目。 忍びなら皆そうでしょう? と言わんばかりのこの挑発的な目。 ・・・・くそ、その通りだヨ。
ただ漠然と、火の国の民の為に、里に住む民や仲間の為に。 でもそれは忍びとして存在する為の意義。
オレ自身が生きる意味を肯定してもらいたい、忍びではない生身の人間としての生の意義を。
ソレは心で思うだけでイイ、なんて可愛いもんじゃない。 もっと生々しく、荒々しい感情で実感する。
紐で縛るという行為は、視覚から伝える。 この命は自分のモノ、それを喜んで受け入れている、ってネ。
オレ達もアンタの一挙一動を縛りたい、どこもかしこも征服したい。 生きる意味を具現化したいヨ。
「自分に変化して殺した時、喜んでいたと聞かされて・・・・ 嬉しかったでしょうね。」
「まやかしだケド、会話するコトも出来た。 アイツが話したらこうなんだな、ってネ。」
「・・・・・・それに。 自分をみつけて欲しいと待ってるんですよ俺が。 死後の世界で。」
「「うん・・・・ 死を選ぶしか残された道はない・・・・」」
「でしょう? ふふふ!」
自分自身がみつけた生きる意味を失った。 あっちで独りで待たせるワケにはいかないと、死を甘受する。
しかも自分を殺しに来た奴は、自分の過去の栄光に誓って約束を違ぬと言う。 本望だっただろうな。
そうやって幸せに満ちた時間と、夢を最後まで持たせたまま殺す。 なんて穏やかな死を与えるのか。
でもそうしなければうみの中忍は瞬殺だ、最後の最後まで気が抜けない。 標的の首を落とすまでは。
・・・・こうやって話すというコトは、オレ達に聞いて欲しかったんだネ。 最低だと罵って欲しいんだ。
自分にはその方法でしか殺せないと知っているからネ。 殺しの質は違うケド、オレ達は忍び、同じだヨ。
はっきり言って、誰を何人殺したかなんて覚えちゃいない。 オレ達 忍びは皆、人でナシなんだよネ。
自分の為の幸せは求めちゃいけないモノだと思ってた。 誰かを殺したら誰かの生の助けになればいい。
いつも誰かの為に。 それは当然だ、人の命を奪う者に科せられた責務だヨ。 でも望めるなら・・・・
一つでいい、もし望めるなら。 この目の前の男が欲しい。 ターゲットに心で謝るような優しい男が。
他里も敬遠するほどの首を得る為の、最大限の安全策だヨ。 失敗しても木の葉と結びつく証拠は無い。
三代目をもってしても“こ奴なら安心じゃ”と言わしめたほど、人の心の中に入り込む力を持ってる。
任務だと割り切る強さも、自身を客観的に見る強さも、賞金首にさえ与えてしまう情も、全部欲しい。
冗談交じりに教えてくれる、こんな懺悔めいたコトも・・・・ チームだった二人に話してたんだネ。
お互い懺悔し合って次の任務への切り替えをしてた。 いつも慰霊碑に寄るのはそういうコトでショ?
ねぇ、気付いてる? ターゲットに依存させると言ってたケド。 オレ達が今まさに、ソレを実行中だから。
死んじゃった二人は話してくれない、秘密を話せるのはもうオレ達しかいない。 はやく音を上げてヨ。
あり得ないけどサ、オレ達が里を抜けたとして。 こういう刺客に殺されるのなら・・・ 本望だよネ。
でも絶対あり得ないケド! こうやって色んなコトを話して生を実感したいヨ。 できれば肉欲も込みで!