暗殺工作員の恋心 7
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本音を言うと、すぐにでも囲ってしまいたい。 馬鹿な奴らと同じように永遠にボク達だけのモノに。
でもそれじゃ、彼の標的である他里の元暗部達となんら変わらない。 そんなのは絶対に御免だ。
他里か自里か、元暗部か現暗部か、それしか変わらないよね。 まやかしのうみの中忍はいらない。
ボクもカカシ先輩も、一度だってこの手で人を殺めた事実を忘れないし、木の葉隠れの里を捨てない。
ちょっとでもそんな奴らと同類だと思われたくないんだ。 暗部ではないボク達自身を必要としてほしい。
そうなるには・・・・ そう思ってもらうにはどうすればいいか。 彼の心に恋心を芽生えさせるには。
人違いだったけど、あそこでボク達が出会ったのは、やっぱり彼女達が引き合わせたのかもしれないよ?
うみの中忍の思っているのとは違う理由でね。 彼は彼女達が思い人を紹介したかった、と思ってるけど。
でもボク達は、彼女達がうみの中忍に恋への関心を持って欲しかったんじゃないか、そんな気がする。
外側がいくら汚れようと、心が綺麗で強く保てたのはどうしてか、それを教えたいんじゃないかな・・・・
あいにくだけど。 ボク達は潜入員と違って心に留めておく、だなんて慎ましい事はしないんだ。
綺麗なままの思い出なんてクソくらえ。 実体のない不確かなモノより、血の通った生身の人間が欲しい。
うみの中忍はいつも三人一緒だったと言っていた。 二人がいたから自分は頑張ってこれたんだ、とも。
赤裸々な話も全部・・・・ それこそどんな事でも隠さずに話せた仲間だったんだろうね、彼女達は。
そんな二人が恋心を抱いていた相手、ボク達の存在は最初からうみの中忍の中で、好意的なものだった。
だから。 え、話しちゃっていいの? って事まで教えてくれる。 きっとボク達の中に二人を見てるんだ。
今だってそう。 企業秘密だと言いながら、やっぱり教えてくれる。 会う度に親密になって行くボク達。
いつ気付くのかな? ボク達二人に、こんなにも心をさらけ出してるって・・・・ いつ気付いてくれる?
「・・・・普通ですよ。 頸動脈をスパッと。 一度も反撃された事がありません。」
「「 うそぉ?! マジで?! 」」
「ぶっ!! そのハモり方・・・・ あははは!! アイツらとそっくり!!」
「ヤ、笑い事じゃなくて。 そんな正攻法で暗殺専門だったヤツとやり合うの??」
「だって、元とはいえ・・・・ 他里とはいえ・・・・ 仮にも暗部ですよ?! 手配中の!!」
「・・・・・・・・・実は一芝居打ちます。 それで自ら死んでもいいと思ってくれるんです。」
「「へ?!」」
忍びである事を捨てた者にさえ、心の中で謝っている・・・・・ というぐらい、実は優しいうみの中忍。
一体どうやって自分より強い相手を仕留めるのか、ボクもカカシ先輩も、もの凄く興味があったんだ。
で、今日は思いきって聞いてみた。 そしてこんな・・・・ 自分の切り札ともいえる話まで教えてくれた。
ボク達二人には秘密を持ちたくない、嘘をつきたくない。 ねえ、君はその気持ちがなんだか分かってる?
「三代目の前で偽の記憶入れてもらってる、って話したでしょう?」
「ウン、そう言ってたネ。 だから頭を覗かれても平気、って。」
「俺に対して先入観を持ってもらう為でもあります。 言葉を奪われた青年として。」
「?? 言葉を奪われた青年?? 喋れないんですか?? えっと・・・・ ??」
「くすっ! 実際には声は出ます、言葉を話せないだけで。」
「「・・・・それでどうして死んでもいい、なんて・・・・??」」
「素の俺に戻って話すんですよ、そうすれば相手は自分のペットじゃないと気付く。」
「「えっ!! 気付かれちゃったら殺されちゃうじゃないっ!!」」
「ええ、普通なら。 だから“死んでもいい”と相手に思ってもらうんです。」
「「もうっ! 全然分かんないっっ!!」」
うみの中忍は“ほんと反応まで同じだ”と、お腹を抱えてひとしきり笑った後、全部教えてくれた。
囲っていたペットが殺された、こいつはペットに変化した別人、自分を追ってきた忍び・・・・ と思わせる。
それまでは話せなかったのに、急に喋り出したら? 誰だって不審に思うだろう。 こいつは違う、と。
そろそろ自分に依存してきたな、と思ったら狩りの時間だそうだ。 うみの中忍に戻って言葉を話すだけ。
病的なほど固執する忍び“お前の口から嘘が吐かれるのを聞きたくはない”とその青年から言葉を奪った。
そしてそのままその忍びは帰らぬ人となる。 言葉を奪われ極端な性癖になってしまった青年は路頭に迷う。
自分が生きて行くにはこういう店で働くしかない、でも言葉が話せない、どうしよう・・・・ とウロウロ。
・・・なるほど。 これ、うみの中忍が三代目に入れてもらっている、暗殺工作員としての偽の記憶。
そこに全部の要素があった訳だね? 話せないと先入観を持たせる。 心潜術を扱えない忍びでも同じだ。
その手の店の前で悩んでいる青年、話せないとジェスチャーで伝えれば、それだけでワケアリだと思う。
なんて理想のペット。 それ自分で考えたの? って聞いてみたら、大先輩からヒントを得ました、って。
うみの中忍とクノイチ二人、伝令部だった三人に多大な衝撃を与えた中忍のベテラン潜入員だそうだ。
そこで、自分より弱い者という立場、それはないという先入観が、最大の油断を生むと知ったそうだ。
それだけでこのスタイルを確立した? ・・・・・・やっぱりうみの中忍は暗部の天敵かもしれない。
『 お帰りなさい、淋しかった・・・・・ 』
『?! お前・・・・ 誰だっ!! 賞金稼ぎか? それとも・・・・ ウチの里の追忍か?』
『・・・・どうして分かったんです? 俺は対象そっくりに変化出来るのに・・・ チャクラも写して・・・・』
『・・・・・・・・・・。 そんな事はお前に話す必要はない。』
『もう逃げも隠れもしない、抵抗も。 なあ、一つ教えてくれ。 あいつは・・・・ 苦しまずに逝ったか?』
『ああ、この彼の事? あなたに変化して殺したからか、首を絞められてるのに微笑んでましたよ?』
『そうか。 おれだと信じたまま・・・・ そのまま逝ったんだな・・・・・。』
『まさか情を移してたんですか? ・・・・里に引き渡さずに殺してあげましょうか、今ここで一緒に。』
『・・・・・それは・・・・ 本当か?』
『私はあなたの首があればどっちでもいいんです。 胴体は一緒に燃やしてさしあげましょうか?』
『願ってもない申し出だが。 何をもってその約束が果たされると?』
『里の暗部だったあなたご自身の功績に敬意を表して。 言葉は違えぬと、お約束します。』
『・・・・・・頼む。 これでずっと、あいつの側にいてやれるな・・・・』
『必ず。 あなたに誓って。 ・・・・・御免っ!!!』
『っつっ!!! ・・・・・あり・・・・ が・・・・と・・・・・・・ っ・・・・・。』
・・・・・・・・と、こういう結果になるそうだよ? わー 暗部だったくせに穏やかな死を迎えるなんて!
カカシ先輩、己の業から逃げた忍びの最期がそんな幸せに満ちたモノで・・・・ 良いんでしょうか?
なんとなく納得がいきませんが、最後の約束が嘘だった、という所は少し同情する・・・・ かな?