蒼〈あお〉の一族の呪い 11
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生まれ育った鉱の国 三島列島。 けれど、もうアソコには戻れない。 わたし達は大陸亡命を決意した。
旅の一座としては少な過ぎる人数。 自由人の語りべとして、各地を転々とするのも悪くない。
忍びを題材にした物語をたくさん作って、子供たちに聞かせる流浪の民。 いいかもしれない。
「サキさん、治療の必要な方はいらっしゃいますか? 応急処置をしておきます。」
「あ・・・・ はい、父が。 ・・・・・・あと・・・・ アサツユも・・・・ お願いします。」
「わかりました。 では医務室に巻物を持って来て下さい。 先に行って準備してますから。」
「イルカ先生は、少しなら医療忍術を扱えるんだヨ。 学校の先生だからネ。」
「里の学校は忍者学校ですからね、皆、生傷が絶えません。 子供達の行動は予測不可能ですから。」
「・・・・・わざわざそんなイルカ自慢を聞かせなくてもいいんじゃないか?」
「ちょっと、カオル! 誰の何を自慢してるって?! 普段の職業を言ったダケじゃないっ!!」
「ボクはただ、里の教師の治療は医者じゃないけど信頼できる、と言いたかっただけですっ!!」
「はい、そうですね、そんなムキにならなくても・・・・」
「・・・・面白いだろ?」
「ぷ。 くすくす!」
「「だから!!」」
アサツユを巻物から出した。 彼はバスタブ一杯にお湯をはり、洗ってあげてと、わたしにスポンジを渡す。
本人が望むなら、と塗り薬を渡された。 人体に影響はないが、軽い毒で、精子レベルなら殺せるそうだ。
体の隅々まで綺麗に洗った後、その薬を膣内に塗ってやる。 そうしてやっと、アサツユは静かに泣いた。
血でコビコビだった父は、拭いてもらって小ざっぱりした様子だった。 目も足も、元には戻らないが。
延命の為だけに処置されていただろう切断面の焼き痕やむしり痕。 丁寧に消毒をして綺麗にしてくれた。
応急処置が終わり、巻物に戻す。 木の葉の医療班に見てもらうまでは、現状維持が望ましい、という事だ。
「イルカさん。 カカシさんとテンゾウさんって、どう思います?」
「あのふたりですか? そうですね・・・・ カオルさんもそうなんですが・・・・ 腹立ちます。」
「腹が立つんですか?!」
「だって、めちゃくちゃ強くて、カッコいいじゃないですか。 羨まし過ぎます、男として。」
「・・・・・・・。 もし、自分が女だったら、どう思います?」
「女でも同じです。 同じ忍びとして、あんな素晴らしい人達に追いつきたいと思いますよ。」
「・・・・・天然の口説き魔・・・・・ ほんと、前途多難だわ。」
「? あ! カオルさんは駄目ですよ? 依頼人落としの噂がありますから。 馬に人参は駄目です!」
「ぷは! あはははは、もう! イルカさんって、和みますよね、クスクス・・・・。」
イルカさんからしかけたら面白いかな、って思ったんだけど・・・・ 恋愛対象外なのね?
これ恋愛対象になったら、一気にゴールインね。 だってあのふたりが自覚したら、もう最強でしょ。
イルカさんは、もしどちらかを選べと言われたら、どちらも諦めそう。 一流の忍びふたりに気を使って。
そうなればふたりは、一緒に協力してイルカさんを手に入れそう。 なにげに三人とも、仲良さげだし。
カオルさんも、この予想に行きついたのね? ・・・・・依頼人落とし・・・・ 噂じゃない気がする。
「・・・・じゃ、馬に人参上げてこようかしら。 お礼に。」
「?! サキさん駄目ですって!! あのヒト、来る者拒まずなんですからっ!!」
「ふふふ、そんな感じがする。 だからいいのよ。 呪いを背負えるくらいの、強い種が欲しい。」
「サキさん・・・・。」
「・・・・覗かないでネ? 見物料とるわよ?」
「だ、誰もそんなヤボな事しませんよ、もうっ!! 知りませんからね、後で淋しくなっても。」
「うふふふ。 後で淋しくなるのは、あっちかもよ? わたし軽業得意だから。」
「・・・・あなたが忍びだったら、最高のくのいちになれますよ、きっと。」
「それ、最高の褒め言葉よ? ありがとう。」
さすが天然の口説き魔。 木の葉の里に生まれていたら、と少しだけ思ったわたしの心を、言い当てた。
でもわたしは、蒼の一族の新しい長。 古い呪いを受け続ける一族の者。 わたし達は生きつづける。
わたしの代が駄目でも、次の世代には。 幼い少女の為に命の巡礼を続ける、いつか来る許される日まで。
新しい長の役目は、新しい命をこの身に宿す事。 この運命を受け入れる、皆のような強い子を育てよう。