蒼〈あお〉の一族の呪い 2
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わたしは門番の忍びに教えられ、緊張の面持ちで、里中央にある任務受付所に行った。
【みなさんガンバ】なんともアットホームな感じの垂れ幕がかかっている。 ここが・・・・ 受付所?
少々、肩に入っていた力が抜けた。 【子守りから暗殺まで】という張り紙で、やはり忍びの里だと知る。
入って真っ直ぐ正面に【火】という文字の入った笠をかぶった老人が、パイプを吹かしていた。
落ち着いた雰囲気を漂わせているところを見ると、この受付所の監督的な存在なのかもしれない。
「ようこそ木の葉隠れの里へ。 初めての方ですね? お名前とお住まいをお聞かせ下さい。」
「蒼の一族、長の娘サキ、鉱の国 大名夕霧様の領地にいます。 火影殿に面会を申し入れたいのですが。」
「はい、もう面会していらっしゃいますよ? この方が我が里の影、三代目火影その人です。」
「!!! そ、そうですか、失礼しました。 どうぞ、この父からの書状を読んで下さい。」
驚いた、まさか影と呼ばれるほどの人物が、こんなところに座っているとは思わなかった。
父から預かった書状を“鉱の国か、どれどれ”と何のためらいもなく開く。 全くの無警戒だ。
あまりのスムーズさに、唖然としたわたしと目があった男は“ニッコリ”と音がしそうな笑顔を見せた。
顔の真ん中を横切る傷があるというのに、この男は親しみやすい感じがする。 忍び、なのだろうに。
「ソコに書いてある通りです。 コレで、鉱の国 石隠れの忍びと戦える忍びを、雇えるだけ雇いたい。」
「・・・・・・・サキさん、戦忍を雇う必要はありません。 あなたの任務依頼は無効ですじゃ。」
「?! 三代目?」
「なっ!! 情に厚いと聞いた火影もやはり・・・・・。 人の噂は当てにはならないモノですね。」
「サキさん、この書状を読んでみましたか? お父上は、そうは書かれておられませんぞ?」
「?? それはどういう・・・・ !!!! これは・・・・ そんな、父上・・・・。」
火影にそう言われて、慌てて読んでみる。 そこにはわたしの亡命の手助けを、と書かれていた。
まさか・・・・ わたしひとり逃げ延びろと・・・? 呪われた運命を、一人で背負えというの?!
では夕霧の領地に残った者たちはどうなる?! 父上は?! あの男の欲は計り知れないっ!!
父上は始めから、わたしを逃がす事だけを考えていたのか? 皆を見捨てて生きろと・・・・・。
「なぜ・・・・ 父上・・・・・ わたしひとり生きて、なんになりましょう・・・・・。」
「任務依頼は、変更も可能です。 木の葉の里は臨機応変に対応致します。 ね、火影様?」
「ほほほ、そうじゃよ? 新たに依頼をすることも可能じゃ。 ここは受付所じゃからの?」
「・・・・・火影殿・・・・。 ではその父の依頼は取り下げます、なかった事にして下さい。」
「はい、キャンセルですね? 承りました。 失礼します、ではこれはこちらで・・・・」
火影の横にいた忍びは、父の書状をわたしから奪い取り、ポンとハンコを押し、またニコリと笑った。
【無】という赤いインクの印が押された書状は、彼の足元【書き損じ箱】と書かれた箱へと消えた。
あの箱に入った書類は、処分される類のモノなのだろうと想像できる。 なかなか気のきいた男だ。
チラリと火影を見て、その男が言った。 “ご新規様を火影室へご案内してはどうですか?”と。
「ついでにアチラの書類を、かたずけておいて下さると嬉しいのですが。」
「それは・・・・ ほれ、あれじゃ、お主の得意な書類整理じゃろ?」
「・・・・ため込んでばかりいるから、俺が手伝うはめになるんです!! 少しは・・・・」
「ぷっ! くすくすっ! 本当に忍びの隠れ里なのかと思う微笑ましさですね。 ふふふふ。」
この男はかなり火影に信頼されているらしい。 夫婦漫才ような掛け合いに、思わず笑ってしまった。
火の国のお抱えの忍びの里は、木の葉隠れの里。 人情に厚い火影が治める、大陸一の忍びの里。
鉱の国でもその噂は流れていた。 まさか本当にここまで・・・・。 こんな忍びの里があるのか。
「とっととご自室へ戻って頂けると、ありがたいです。 ・・・・サキさん、どうぞごゆっくり。」
「ではサキさん、火影室へ参ろうか。 ここにいると邪魔らしいからの?」
「くすくす・・・・ はい、喜んで。 ・・・・・お心遣い、感謝いたします。」
ありがたい。 人に聞かせたくない切羽詰まった話だと、なにも言わなくても感じ取ってくれたらしい。
わたしが知っている、鉱の国 石隠れの忍びとは大違いだ。 この里なら信用出来る、そう確信した。