蒼〈あお〉の一族の呪い 3
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一族にかけられた呪いのせいで、人の欲に利用され争いの火種をうまぬよう、鉱の国を転々として来た。
誰かを看取ったあとは、誰かを産む。 そうして一族の数も、これ以上増やさず調節して来た。
大名夕霧様から庇護を受け、土地を与えられ、流浪の旅も終りを告げる。 ここが我らの定住の地だと。
あの方は、根無し草だった我らにさえ、慈悲深かった。 一族の誰もが尊敬し、敬服し、信用した。
だがピュアサファイヤが、一族のなれの果てだと知ってから、夕霧は欲に取りつかれ、変わってしまった。
「“呪いの解き方を石隠れの里に調べさせる”と夕霧は言いました。 でも実際は・・・・」
「どうやったらその血液が作れるのかを、調べさせておったのじゃろう?」
「・・・・・はい、その通りです。 火影殿にも予想がつくというのに、我らは夕霧を・・・・」
「仕方なかろう、お父上のような方まで騙されたていたのじゃ。 誰にも予想出来んかったじゃろう。」
鉱の国はその名の通り、無数の鉱山を保有する国。 もし宝石に赤色をつけられるとしたら?
誰も見た事がない宝石を作りだす事が出来る。 色の配合は無限、赤は主たる色だから。
白が赤になるだけでなく、黄はオレンジに、青は紫に、色の濃淡も調節可能。 それは、膨大な富を生む。
あの男は、一族の呪いの発端となった、少女の血を作ろうとした。 結晶と融合できる血液を。
一族に伝わる古い書物にそれらしいことが書かれていた、と古代文字を解読した石忍が言った。
他民族の子供が一族の者の血を飲めば、突然変異で体内に何かしらの変化が起こる、と。
領内の村や集落から子供達と、一族から年長者が数人、ある施設に集められた。 実験の為だ。
年長者は皆、老い先短い命が解呪の為に役立つならと、進んで鉱物研究所へ行き、帰ってはこなかった。
子供達の血液は変化しなかった。 実験は失敗だと、それぞれの村へ戻された子供達は、翌日死んだ。
突然腹が破け、内臓が飛び出して死んだ。 そのあまりの惨事に、夕霧の領地は大騒ぎとなった。
城に詰め寄った領民たちに、夕霧は涙ながらに詫びる。 そしてその涙の演説で、裏切られたと悟った。
『蒼の一族の血液には、不思議な力があると聞いた。 その為、一族皆が、驚くほど長生きだとも。
私はソレを信じ、子供らの無病息災を願った。 障害のある子も、あるいは完治するかもしれないと。
だから少しでも、子供達の為になるならと、蒼の一族の血液を使った薬を飲ませてみたのだ・・・・。
私だってあんな事になるとは思わなかった。 皆、私を慕ってくれていた子供達ばかりだ、そうだろ?
ここにいる者達の情報を、うのみにした私が悪いのだ・・・・ どう償えば、私の罪は消える?
いっそ、この場でハラワタを取り出して、のたうちまわれば、せめてもの余興になるだろうか・・・・』
その場にいたのは父上とわたし。 あまりの事に動けずにいたが、我に返り慌ててその場から逃げだした。
怒り狂った領民に処刑されるかもしれない、と皆に話していたところに、石隠れの忍びが現れた。 そして。
子供の仇討ちに来た親や領民たちを皆殺しにした。 夕霧に言われ助けに来たと。 何人もの血が流れた。
「あの男は言いました。 “お前達一族を守る為には、ああ言うより他はなかった”と。」
「しらじらしいの。 いくらなんでも、もう騙されんじゃろうて。」
「ええ。 表向きは騙されたふりをして、ある研究施設に忍び込んだんです。」
「勇気のある者がおったの? ・・・・・ひょっとしてそれは・・・・・ サキさん、お前さんか?」
わたしがまだ小さい時、鉱の国を転々としていた流浪民だった頃。 一族は旅芸人を装っていた。
意味もなくフラフラとしていたら、誰かがいつか不思議に思うだろう。 旅の一座だったら怪しむ者はいない。
わたしの担当は“綱渡り”だった。 長い棒を持って、行ったり来たり。 懐かしい・・・・・。
けれど長い流浪の生活に、嫌気がさしていたのも事実。 どこかに定住して、普通の生活を送りたかった。
「受付所に入って来た時、ほとんど足音がせなんだ。 訓練した者でなくては、ああ上手くは消せまいて。」
「・・・・おみそれしました。 わたしは軽業が得意なんです、もちろん、忍び程ではありませんが。」
「聞くまでもないが、帰って来なかった一族の年長者は・・・・・ どうなっていたのじゃ?」
「血液を抜き採られ、鉱物となり果てておりました。 一体は砕かれ研磨され、既にピュアサファイヤに。」
「・・・・あいわかった。 そなたの依頼、この火影直々に承った。 しばしワシの屋敷にて待機されよ。」
「火影殿・・・・・・。 信じていただけるのですか? わたしのような新参者の言う事を・・・・」
「まあ、それはホレ・・・・・ 怒らんでくれ? この者がお主の頭を覗いておったのじゃ。」
「解!! ご無礼をお許し下さい。 木の葉上忍、山中いのいちです、以後お見知りおきを。」
「いつの間に・・・ ふふふ、さすが大陸一の忍びの里。 覗かれてやましい事などひとつもありません。」
「すまんの、これでも忍びの長じゃ。 情報の信憑性を確かめねば、戦忍を就ける訳にはいかんからの。」
「もっともです。 でも返って安心しました。 木の葉の忍びは石忍など、ものともしないでしょう。」
まったく。 頭を覗こうがそんなことは言わなければ、いいだけだ。 なのに火影はわざわざ告げた。
新規の依頼人で、しかもこんな突拍子もない話を信じる方がどうかしている。 裏を取るのは当たり前。
木の葉隠れの里が、大陸一の忍びの里と呼ばれているのは、こういう人が治めているからなんだ。
この人柄に、皆が惚れこんでいるのだろう。 もちろんソレに見合った力も。 なんて力強い忍びの里なのか。