蒼〈あお〉の一族の呪い 8   @AB CDE FHI JKL M




「報告のあったその少年を連れてきたか。 塩見〈しおみ〉。」
「はい。 少年、入って来い。 夕霧様にご挨拶するんだ。」
「・・・・失礼します。 わぁ、本物の夕霧様! 鉱の国の名将、夕霧 敏哉様だっ!!」

「コラ、無礼だぞ、頭を下げぬかっ!」
「ははは、よいのだ、塩見。 少年。 今日は、ここがお前の家だ、よいな?」

俺は、夕霧が今一番欲しい者に変化した。 “鉱物の結晶と色素融合する血液を持つ少年”に。

門番に“鉱物研究所から預かって来た”と言い、言霊入りの封筒を渡す。 夕霧に宛てた空の封筒だ。
【一体のみ血液実験に成功、生きたサンプルを送る。 明日引き取りに行くまで、大切に扱われたし】
封筒を開くと、この言霊が夕霧を支配する。 暗示にかかった夕霧は俺を城の中に入れるしかないだろ?


「わーいっっ!! 夕霧様と一緒っ!! 好きなお部屋、ボクのにしてイイ?」
「よいぞ? どの部屋がいいか、塩見と見に行ってくるといい。」
「やったー!! 塩見さん、見に行こ? 早く、早く!! いざ、冒険に出発ーーーーっっ!!」
「こ、こら、走るなっ !  では殿、失礼します。   少年! 走るなと言っているっ!!」



「ふふふ、これで鉱の国、いや、この財力を持ってすれば、いかな国でも手に入る! はははっ!」

本音がポロリか。 そりゃそうだろう、念願の血を持つ少年の登場だからな。 せいぜい喜んでくれ。
失敗したと思っていたはずの血液実験が一体だけ成功していたとにおわせれば。 こうなるだろう。

“鉱物研究所から預かって来た”と言えば、必ず夕霧が確認するはずだ。 案の定、お呼びがかかった。
無警戒で封筒を開ければ、その言霊はそのまま夕霧の頭へ。 真実だと思い込む暗示にかかるんだよ。
欲に支配された者は従来の慎重さを失う。 差出人の名がない封筒など普段なら簡単に開けはしない。

小さな子供でも城主本人が入城させたのなら、城の者は誰も疑わないよ。 側近の塩見という男でさえ。


まず、側近の塩見を隔離しないとな。 部屋を見たいと言って、夕霧から塩見を引き離した。
城主に招待された子供は、ただ今城内を冒険中。 微笑みかけられる事はあっても、怪しまれる事はない。
邪魔な側近には少し寝ていてもらう。 目撃者としての役目があるので、それまでは眠らせておく。

「ここがいい! 塩見さん待ってて、夕霧様にお知らせしてくるっ! 戻ってきたら、遊んでね?」

・・・・このあたりでいいな。 死角に当たる部屋に塩見を連れ込み、睡眠の術をかけて眠らせた。
周りに聞こえる様に大きな声でパタパタと夕霧の部屋へ戻る小さな招待客。 城の皆を和ませながら。



サキさん、俺ね、三代目から話を聞いた時、がっかりしたよ。 鉱の国の名将の噂は知っていたから。
カオルさんが俺に暗殺を任せてくれた時から、夕霧をこうして殺してやろう、って決めてた。
自分で言った言葉には自分で責任を持つ。 そうでないと、人の上に立つ資格はないだろ?

部屋が決まったと喜びながら、夕霧の部屋に入る。 嬉しさのあまり、頭から転ぶ演出をつけて。

「あ!! いてててて・・・・ あーぁ 鼻のガーゼ、取れちゃった・・・・。」
「!! 少年、大丈夫か? こっちにおいで、ガーゼをつけ直してあげよう・・・・ 大きい傷だね?」
「これ研究所の人が、間違って刃物を落としちゃったんだ。 でも、おれ、男だからへっちゃらさ!」
「はは、えらいぞ? だが、血が出ている・・・・ こんなに。  ・・・・ほら、もう大丈夫だ。」

「ありがとう! あ、ごめんなさい夕霧様、おててが血だらけだ。 早く洗った方がいいよ?」
「・・・ふふふふふ 良いのだ、コレはこうして・・・・・ くくくく、なんと見事な!!」

獲物を釣るには美味そうな餌をやらなければならない。 ヤツが欲しがっていた血液だ、当然喰いつく。
夕霧は、中忍の俺の幻術にもすんなりかかるぐらい油断した。 “俺の鼻の傷口が開き血が出ている”と。
「もっと塗れば、もっと濃くなるのだろうか・・・・ ・・・・おお、コレは、素晴らしい!」

ソコからは、術中にハマったヤツの行動だ。 自分のダイヤのブレスレッドをこすって、笑っている。
夕霧の目には、俺の血がダイヤの色を変えたと映っているんだろうな。 出てもいない幻の血なのに。

「俺の声は、もう聞こえてないな。 よし、止めの暗示をかけるか。 夕霧、目をみせて?」




俺は、幻術にハマったままの夕霧の目を覗いた。 直接脳神経に働きかけ、言霊より強力な暗示をかける。
これから奴は遺書を書き自害する。 【我が領民の子の命の償いとして、己が命を差出す】こんなのをね。
遺書を書き始めた夕霧を残して俺は部屋を出た。 睡眠状態の塩見を起こしに行くんだ、目撃者にする為に。

後は“一緒に来て”と塩見を部屋に連れて行くだけだ。 これかから彼が目にするのは、城主の最期。

「塩見さん、さっき夕霧様ね、ぼくに“すまない”って突然謝ったの。 なんでかな?」
「  っ!! 殿っ!! 少年、見るなっ!! 見るんじゃない!! 」
「ひっ! わぁーーーん!! 夕霧様ーー!!! 」

「これは、遺書・・・・・ この少年を見て、あの事件の子供達を思い出されたのだな・・・・・。」
「うぅぅぅ ひっ、ひっく、ううううう。」
「少年、君のせいじゃない、君は何も見なかった。 ・・・・いいね?」


塩見が目にしたのは、今まさに腹から腸を出している最中の夕霧。 事切れる寸前で“塩見”と呼ばせる。
城主の自害を腹心がハッキリと見る、遺書も読ませた。 これ以上ないほどの目撃者だろ?

俺はフラフラと部屋を出るフリをする。 この騒ぎ“城主自害の混乱”にまぎれて城からそっと脱出だ。
大丈夫、抜け道は頭の中に入れてある。 ・・・・・さあ、鉱物研究所へ。 みんなと合流するぞ!