餌の時間 1
ABC
DEF
GHI
JKL
M
おれは木の葉隠れの中忍。 自分でいうのもおかしいけど、三代目や上忍からも目をかけてもらっている。
中忍といってもピンからキリまでいる。 中忍になるには、各国共通の中忍試験を受けて合格すればいい。
そうすれば晴れて中忍だ。 だから中忍が一番幅広い人材がいる。 下忍に近い様な感覚の奴とか。
上忍に匹敵する実力の奴も。 おれが中忍になって、そろそろ4年になろうかという今、転機が訪れた。
昇進するには火影様の推薦と、二名の特別上忍以上の忍びの推薦がいる。 今回おれの名が挙がったらしい。
推薦されたからといって、誰でも昇進出来る訳じゃない。 各隠れ里内で、非公式の昇進試験がある。
要は、中忍は大陸全土の平均レベルより上の忍び。 特別上忍以上は他国に誇れる里の忍びであるという証。
大陸の中で一番大きな火の国、そこを守る木の葉隠れの里として。 里と忍びの名の重さを背負う事になる。
もちろん額当てをもらった下忍の時から、その重さは付いて回るが、もしおれがくだらない死に方をしたら?
木の葉の上忍のレベルはこんなもんか、そう思われてしまう。 中忍ならピンからキリまでいるが・・・・
けれど特別上忍や上忍になれば、その生き様が里の忍びの質を内外に知らしめる事になるんだ。
木の葉では、ただ強いからというだけでは推薦されない。 それこそ、おれより強い奴らはゴロゴロいる。
ではなにが必要なのか。 例え殺られたとしても、敵ながらアッパレと思ってもらえる様な戦いは・・・・
おれは今回の昇進の推薦に、喜ぶよりなにより先に、正直怖くなった。 その責任のあまりの重さに。
賊の討伐と奪還任務。 価値の分からない山賊がお坊さん一行を襲い荷物を奪った。 経典の入った木箱を。
木箱の鍵には封印が施されているが、もし破られて中身がただの書物だと判ったら燃やされてしまう。
どうか我が国の高僧の残した経典を取り返してほしいと、そのお坊さん方がウチへ任務依頼にやって来た。
自分達は聖職者、襲う者などいないだろう。 背負った木箱の中身は経典、ただの書物だからと。
そう安心していたのだろうが、中身が何なのかそんなこと山賊や盗賊の知ったこっちゃない。
さすがに聖職者を殺しはしなかったが、彼らの背負った木箱の一つ残らずを持って行ってしまった。
大事そうに封印まで施してある木箱、中身がお布施や供物だと、賊が思ったとしても不思議じゃない。
国境とはいえ火の国の国内。 他国の聖職者が強奪にあったなどと、あまり良い印象を与えない。
だから、ついでに山賊の討伐も兼ねて来い、という任務だった。 まあ、こっちはお坊さんには内緒で。
賊の討伐は火影様からの命令。 当然依頼人のお坊さん方には、木箱の奪還料のみをお支払いいただく。
国境付近に、聖職者を襲う様な罰当たりな賊が居着いているなんて。 国を守る隠れ里として由々しき事態。
討伐任務がタダ働きだからといって文句は言わない。 これは火の国の忍びの里、木の葉の信用問題だから。
おれはその討伐兼、経典奪還に向けて編制された隊の隊長として任務に就いたが、負傷者を出してしまった。
素人の山賊とはいえ相手は死に物狂いでくる。 中忍二人が心臓に近い位置を切られ慎重に治療をした。
仲間の治療をするという行為は、時間を要する。 なるべく早く取り返してほしい、という依頼なのに。
早期奪還希望の依頼人の要望に添えない事は承知だ。 経典だけを誰かに先に持って帰らせてもよかった。
でも中忍になりたての奴もいるこの隊を分散するのか、医療忍者と負傷者だけを残してもし何あったら。
これが初めての殺しの任務の中忍もいた。 その中忍達を庇って怪我をした仲間を心配する奴も。
動揺が走っている隊を分散させて、もしどこかの・・・ それこそ上忍クラスの抜け忍と出会ったら?
そう思うと分散の命令が出せない。 だから医療忍者が治療をするまでの間、全員をその場で待機させた。
火影様に慎重すぎると睨まれても、依頼人に遅すぎると怒られても。 責任はおれがとる、そう言って。
あの任務の後、おれの昇進に関する話が出たらしいんだ。 でもおれは・・・・ 本当にただ慎重なだけで。
火影様や推薦してくれた忍びが、過度の期待をしている様な気がしてならない。 これは謙遜じゃなくて。
おれより実力があって決断力のある中忍は、他にたくさんいるから。 なんだかんだと考えながらも来た。
そう、おれは今、三代目に話があると呼ばれて・・・・ 火影室の扉の前にいる。 十中八九、その話だ。
「失礼します、三代目。 中忍 音場〈おとば〉エンカ、入ります!」