餌の時間 4
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海野中忍には、くれぐれも森の宿に行かない様に言った。 乗りかかった船だから自分に任せてくれ、と。
でも海野中忍は頑なにこう言った。 自分は忍び、それを任務と言われてしまえばそれに従います。
死ぬわけじゃなし、自分が少し我慢をすれば・・・・ 死と隣り合わせの部隊の忍びが満足するんです。
その言葉を聞いて、思わず。 本当に思わず手が出てしまった。 おれは慎重派のはずなのに。
「!!! ・・・・・ぃっつ!!」
「あんたがそんなだから、あの二人がつけ上がるんだと・・・・ どうして分からないんだっ!!」
「・・・・お、音場中忍・・・・」
「すまない。 いや、叩いた事は謝る。 でも言った事に対しては謝らないぞ?」
「・・・・・・・・。」
もちろん本気で殴った訳じゃない。 ビンタ程度だ。 唇を噛んで下を向いている海野中忍は・・・・
なぜか少し微笑んでいて。 気のせいか嬉しそうだった。 いや、気のせいじゃないな、嬉しいんだろう。
自分の本当の気持ちを知っている奴がいて、喝を入れてもらったんだから。 事実、海野中忍は・・・・
“ふふふ、まいったな・・・・”と、小さく呟いた。 ・・・ホントごめんな? そんなに痛くなかったろ?
これも思わず手が出た。 海野中忍がおれに叩かれた頬を、いつまでもさすっているから気になって。
もしや唇でも切れたか? 腫れているのか? 絶対そんなはずはない、そこまで力は入れていない・・・・
おれは推薦をもらった忍びだぞ、と言い聞かせて海野中忍の手を、そっと頬からどけて確認してみた。
「・・・・・ほっ! どこも腫れてないし、切れてない! あー 良かった!」
「・・・・・ぷっ! ・・・・俺が被害者なのに?! くすくす!」
「なあ、海野中忍。 おれにいい考えがある。 だから・・・ 森の宿には行くな。 な?」
「・・・・分かった。 ふふ、喝が入ったよ、音場中忍。 ・・・・ありがとう。」
「・・・・や、別に・・・・ ぁあ?! ごめんっ! つい・・・・・」
「・・・・・・・ふふ!」
両手で顎を掴んで頬と唇をマジマジと見ていた。 その手を慌てて放す。 近いって! 近すぎだろおれ!
海野中忍も! 何にも言わないんだもんなー“ふふ!”じゃないって! なんか妙な間が・・・・
不意に思ったけど。 ちょっと無防備すぎ、この人。 海野中忍は笑うと・・・・ もの凄く可愛かった。
遠慮がない、威勢がいいと、あの二人も言っていた通り。 本来、彼は物事をはっきりと言う忍び。
任務ではそうだ。 そして受付では、さり気ない気配りも出来る忍び。 で、屈託なく笑う・・・・
忘れられない、快楽に溺れる様・・・・ 海野中忍の違う一面を発見して・・・ ?・・・そういう事か?
・・・・・・だったらこれは・・・・ あの二人は海野中忍に? それに気付いてないのかもしれない。
どっちにしても他の部隊長に話してみよう。 おれのただの勘と憶測で動く訳にはいかないから。
てか。 話・・・・・ ちゃんと聞いてもらえるかな・・・・ 一抹の不安。 こら、ビビるな、おれ!
約束だぞ? と、一方的に今夜の外出を禁止した。 これぐらいの一方的な約束なら・・・・ 許されるだろ?
まずは、暗部が訓練している第七演習場に行ってみよう。 正規の忍びは近寄らない暗部専用の演習場。
山が一つ、まるまる演習場になっている。 バカでかい演習場だが、別に立ち入り禁止という訳ではない。
入ってもいいが、暗部の修行の間合いに入って怪我をしても里側は責任を取らないぞ、というスタンスだ。
入って命を落としたという有名な話がある。 馬鹿な上忍達が腕試し的な意図で侵入した事があった。
自分の実力を過信していたのだろう、気配を消してどこまで隊員に近付けるかを試したらしいが・・・・
切り捨て御免、全員死んだと。 暗部の演習場に気配を消して入るだなんて、ハッキリ言って自殺行為。
これは里でいう所の重罪、立派な同胞殺しだが暗部に限っては免許皆伝、同胞殺しの許可が下りている。
だからこその部隊だ。 里を抜けた仲間、敵と通じていた仲間など。 一応全てが同胞と呼ばれる仲間内。
火影様から殺人許可証をもらっている忍びの集団、そう言っても過言じゃない。 おれ達とは少し違う。
おれ達は依頼人の任務依頼や、三代目からの命令で殺す。 暗部は殺しそのものが容認されているんだ。
例え実力のある上忍同士の喧嘩であっても、暗部が仲裁に来れば一発で収まる。 喧嘩両成敗だから。
暗部の存在は、里内の力の均衡を保つためにも必要不可欠なんだ。 恐ろしくもあり頼もしくもある。
おれも海野中忍も、里の忍びのほとんどは、火影様同様、三代目直轄部隊にも絶大な信頼を寄せている。
カカシさん、テンゾウさん、海野中忍も、三代目が信頼している忍び達、誤解したままなのは絶対に駄目だ。