餌の時間 13   @AB CDE FGH IJK M




凄い構図だこれ・・・・。 おれの両サイドにはアズサさんとカオルさん。 そして目の前には三人が。
カカシさんとテンゾウさんの間には海野中忍。 その三人の間には隙間なんてなくて、ピッタリと。
確実に腰に手を回してますよね、それ。 そうですか、天は全てをお二人に与えていたんですね?
恋愛オンチどころか、さすが暗部と言わんばかりにチャンスをモノにした。 そういう事ですよね?

おれはそう思ってたんだ、三人は上手くいくって。 人の心の渇きを満たしてくれるのは同じく人だと。
でもそんな事、おれが言うまでもなく、気付いていたんだな。 まあ、当たり前っちゃ、当たり前か。
へへへ。 そりゃ怖い思いはしたけど。 どっちかって言うと嬉しい気分だ。 すごくホッとしてる。

カカシさんやテンゾウさんの様な、里を代表する屈指の忍びが幸せそうで。 本当に良かった。
・・・・アズサさんとカオルさんはきっと、とことん我が道を行く人達なんだろうな。 それはそれで凄い。
修羅道を歩いててもブレない強さは、並大抵じゃない。 心を満たす誰かが側に居れば良いと思うけどな。
里の忍びの誰もが幸せに、って。 究極の理想論だけど、近付く様に挑戦してみてもいいんじゃないか?



なんでもカカシさん、テンゾウさん、海野中忍の三人は、三代目の屋敷で知り合って以来、意気投合。
その頃のカカシさんとテンゾウさんは既に上忍で、暗部所属。 海野中忍は潜入部隊所属の下忍。
階級差なんか気にしないで、よく現場でもツルんでいたらしい。 主に、忍び版 男美人局として。


海野中忍が餌と言った事。 カカシさんとテンゾウさんがそう呼んだ事。 それは事実だったんだ。
文字通り、海野中忍自身が標的を釣る為の餌だった。 今回の標的はもちろんおれ。 おれの餌だった訳だ。
・・・・・確かになんか、いつもと違う一面を見て可愛いと思った。 無防備で大丈夫かコイツ、って。
もし興味を示して出来心を起こしてしまったら。 即座にカカシさんとテンゾウさんが出てきたんだろうな。


巷でいう所の美人局は、男女の詐欺だ。 男と女がグル、カモから銭を奪い盗るケチな金銭詐欺。
すこぶる見目のいい女が、気弱そうな男をひっかけ連れ込み宿に入り、そこへ強面のヤクザ者の男が乱入。
テメー、人の女に手えつけてんじゃねえよ! 怪我したくなかったら財布を置いて行きな! ってヤツだ。

けれど忍びの世界での美人局任務は、刺客や密偵のあぶり出しに用いられる。 抑えた気の放出目的。
忍びのほとんどは残虐性を秘めている、それを刺激してチャクラを感知させるんだ。 一歩間違えば危険な囮。
顔に傷がある年若い少年は、その手の人間が好きそうなタイプだ。 つまり、忍びのサディズムを煽る。
髪の毛を下ろせば陰ができ、諦めた様な目をみせ、無防備を装えば。 完璧にその種の人間を煽る餌、だ。


・・・・・容易に想像できる。 今の海野中忍をもっと小さくして華奢にして、髪の毛を下ろし・・・・
そして虐めたくなる様な・・・・ 泣かせたくなるような・・・・ そんな陰のある様を装ったんだろう。
そりゃ三代目も内勤を勧めるよな。 自分を餌にするような、いつもそんな任務をこなしていた忍びなら。

で、そこに木の葉の暗部が登場する訳だ。 自分達のお気に入りの玩具に手赤をつけるんじゃない、とかな。
どんなに上手くチャクラを隠してても、木の葉の暗部が来たとなったら、相手も本気にならざるを得ない。
チャクラが漏れなかったら記憶を抜いて放置。 チャクラが漏れたらその場で狩る。 敵忍のあぶり出しだ。

いつから恋愛関係になったかは分からないけど。 確かに最高の餌とチームワークだな、騙されちゃったし!
正確には、三人は騙していない。 彼らが恋愛関係にあったなら、あの会話は痴話喧嘩だと言い逃れ出来る。

事実、三人は美人局任務をこなしていたんだから。 追及したとしても、その時の話だと言われてお終い。
慰安任務だって、一言もそんな言葉は使わなかった。 おれが、話の内容からそう推測しただけだ。
もちろんそこは、そう思わせる微妙な言い回しを使ってたけど。 聞いた相手が完全に誤解する様に。

・・・・間抜けにも仲人気分だったなんてな? 読み違えた戒めとして、おれのあだ名はアマモでいいや。
でもそこはただでは転ばない、名付け親は猿部隊長。 カオルさんの部下の夕顔さんの役にも立ったんだし。
音場は暗部の猿部隊と仲良いんだぞ、みたいな噂が飛びまくればいい。 しっかりと利用させてもらおう。



「海野中忍、試験の過程だと知らずに叩いたりして・・・・ ごめんな?」
「・・・・・・・・・アマモ、お前・・・ イルカを叩いたのか。」
「はあ、その・・・・・ 喝を入れるつもりで・・・・・」
「あははは! あれ、カッコ良かったぞ? 俺、めちゃめちゃ感動したよっ!」


「念の為言っておくと、それだけで怒っていた訳じゃないよ、ボク達。」
「何だ違うのかい。 てっきりそれだと思ったよ。 まだ何かやらかしたのかい、アマモ。」
「え? ・・・・いや、他には何も・・・・・ いえ、これが怒らせてしまった原因かと・・・・」
「・・・・イルカはオレ達の情人だって言ったよネ? そのイルカに何したのお前。」

え? え? え? 何って・・・・ 何もしてませんよ! 確かに無防備で可愛いとは思いましたけど!
・・・・・へ? その時って・・・・・・ あ。 近かった。 顔、めちゃめちゃ近かった、そう言えば。
そんでもって顎を掴みーの、頬っぺた触りまくりーの、唇の端撫でーの。 超ガン見しちゃったよ、おれ。

・・・・・・時間にしてどれぐらいでした? あの、おれってほら、空想好きで・・・・ ほら、ね?

「「ざっとみても一分間以上。」」
「・・・・・・・・・・・す、すみませんでした・・・・・。」

「あはははは! 入念に腫れてないかチェックしてたもんなー そんな経ってたんだ?」
「「イルカッ! アハハじゃないのっ!!」」

「・・・・あのな、コイツらめちゃめちゃヤキモチ焼きなんだ。」
「アー 一分間触りっぱなしか・・・・ マズったね、アマモ。」

恋愛関係になった美人局チームに、もの凄くヤキモチ焼きの旦那達が降臨。 内勤を勧めたのも二人だとか。
我儘をきいてやったからと、おかげで三代目から里内の上忍試験の査察任務を、よく割り当てられるらしい。
・・・・・・でもやっぱりおれはツイていた。 海野中忍、カオルさん、アズサさんが庇ってくれたから。