絵画は語る 1
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長く子が出来なかった国王の一人娘、今年18歳になられます皇女は、民の注目を浴びて当然。
ご存知だとは思いますが、我が国は芸術の国。 彼女をモデルにした物は、昔から諸国に大人気です。
母譲りの金の髪と瞳、その美貌で、他国の皇太子や自国の貴族などから、求婚の話が後を絶ちません。
ですが、あまりに蝶よ花よと育てられたせいで、何をしても許されるのだと、思われてしまいました。
自由奔放に育てられた皇女 桔梗〈キキョウ〉様に逆らう者など、彫〈チョウ〉の国にはおりません。
恥ずかしながら私も、小さいころから桔梗様のお傍にいながら、御諌め出来なかった者のひとりです。
『つぅっ、も、申し訳ありません! すぐに・・・・・』
『桔梗様のお美しいお顔になんという事を・・・・ この不届き者がっ!!』
『・・・・・・。 黙れ、桐嶋〈キリシマ〉、このままで良い。 それよりお前、手を出せ。』
『?! 申し訳ありませんでした、お許しくださ・・・・ ぎゃぁっ!!!』
『使えない手など、いらぬであろう? ・・・・どうじゃ桐嶋、ワラワは美しいかえ?』
『・・・・は・・・い・・・・ 桔梗様。』
それが事の発端です。 夕食を召し上がる桔梗様のお皿に、ビーフを取り分けていた時でした。
給仕係が誤って、ナイフで自分の指を削いでしまい、その血が桔梗様の頬に、飛んでしまったのです。
桔梗様はその少女の手にナイフを突きたて、指をおとし私に訪ねました。 美しいか、と。
恐ろしい事ですが、その時肯定したのはまぎれもない本心。 魅せられたのです、危険な美に。
我が国民の芸術への関心は高水準。 私も彫の国の民、美しく見事な絵画や彫刻が大好きです。
桔梗様はまさに動く芸術。 そこに新しく加わった戦慄の美に、感動を覚え魅せられてしまった。
元来、自由奔放な桔梗様は、日増しにエスカレートして行きました。 あの部屋の絵をご覧ください。
「人の死が芸術か・・・・ 殺してるという自覚がないんじゃな?」
「・・・・・はい。 もう誰も・・・・ あの方を止める事は出来ません。」
「じゃが皇女を殺してしまっては、彫の国は事実上、皇室の血が絶えるという事になるの。」
「・・・・・あの方に善悪を教えきれなかったのは、私達城にいた人間。 責任は負うべきです。」
飴細工で作らせたリアルな草花を、突然パクリと食べてみせ、私達を驚かせてはお喜びになったり。
国王夫妻も乳母も。 遊び相手だった私達侍女もみんな。 城中の皆があの奔放さを受け入れてました。
何にも縛られず、自由にやりたい事だけをやる。 桔梗様は芸術の申し子、今でもそう思っています。
金の髪と瞳は、太陽の光を受けてさらに輝きを増す。 日中髪をかき上げただけで、皆が感銘を受ける。
夜の闇さえあの方の輝きを遮れない。 月夜に薄衣をまとい歌われた時は、月の女神の様でした。
庭の花の花弁をむしり敷き詰め、その中に飛び込み、大の字なってお昼寝をされた事もあった。
桔梗様のやることなす事全てが、一枚の絵画や飾り彫刻の様で、誰もが皆、魅せられてしまうのです。
「火の国ならば、我が国の様な小国をあえて吸収せずとも、腰が据わっております。」
「・・・・そこまで信用して頂いておるなら、木の葉隠れは彫の国の為、お力になりましょう。」
「・・・・また約束が守られずとも、火の国の傘下に入るのなら本望というものです・・・・。」
「我が国主は、これ以上火の国の勢力を伸ばそうとは考えておりません。 桐嶋殿、ご安心下され。」
彫の国にも小さな忍びの里があります。 他国の隠れ里ほどではありませんが、奏宴〈ソウエン〉の里。
出来るなら温厚な彼ら奏宴の忍びを、傷つけたくはないのですが、きっと邪魔をするだろうと思います。
我が国の芸術を愛し、彫の国に仕えてくれています。 彼らは、桔梗様を守ろうと動くはずです。
「・・・・奏宴の里にはチョッとした知り合いがおりましてな。 そちらも心配は無用ですじゃ。」
「!!! 彼らとの戦いを回避できると言うのですか?!」
「ほほほほ。 木の葉隠れの里は、だてに大陸一を名乗っておる訳ではありませんぞ?」
「火影殿・・・・。 あなたの様な忍びが治める里、なんと素晴らしい忍びの里でありましょうか。」
民の命と引き換えにした芸術を、我が国の芸術とは呼んではならないと、気付くのが遅すぎました。
このままでは、彫の民が大勢殺されてしまいます。 もう・・・・戦慄の美は必要ありません。
これは、私が用意できた金額。 一国の皇女を暗殺するには足りぬ金額と、十分承知致しております。
「ですからこれらを。 これも桔梗様がモデルなのですが。」
「・・・・これはこれは。 我が里のクノイチが喜びそうな、繊細な細工物じゃな。」
「こちらを現金化すれば、まとまった・・・・」
「いや、このままコレは任務報酬として、ありがたく頂戴いたしましょう。」
どうか。 どうか恐ろしくも美しい、無垢な私達の皇女を・・・・ 桔梗様をあの世へ送って下さいませ。