絵画は語る 9   @AB CDE FGI JKL MN




シズネは綱手姫の恋人だった青年ダンの姪。 敵忍に捕まり情報を抜かれた後、犯され殺された妹の子。
綱手姫が発見した時には、ダンの妹はこと切れていた。 だがその体内に別の命をわずかに感じたらしい。
敵忍の子だと無視するか、愛した男の姪だと助けるか。 恋人と弟を失った彼女の選択は、後者だった。

まだ形にもならない虫の様なモノ。 綱手姫はソレを自分の体内に移しかえ、人知れず出産した。
だからシズネにとって、綱手姫は母親以上の存在。 多分、自分の命より大切な人。 何よりも強い絆。


「そうなんですか・・・・ あのふたりの間には、そんな強い絆があったんですね・・・・」
「うん。 よく自来也様が、シズネ以上の存在になれんからの、と愚痴をこぼしてたヨ。」
「綱手姫も、シズネさんも。 木の葉の・・・・ ボク達の家族なのに。」
「宝の持ち腐れだろうが敵忍の子だろうが。 まだ愛する人達が、里に一杯いるのにネ。」

それに気付いて欲しいなんて、偉そうなコト言ってるケド。 オレ達も一年前迄は気付いてなかった。
“仲間を信じて愛する事、それが生きてる間の恩返し”そんな人間が存在するなんて思わなかったヨ。
例え偽善であっても、そう思うコトが出来る人間なんて、世の中に何人いる? それも忍びの中に。
奇跡だ、って思ったヨ。 なんでこんな人間が生き残れたんだ、って。 あの黒豹に心から感謝した。


「むにゃ、むにゃ、綱手様・・・・ いつでもお傍に・・・・。」
「ふ、シズネは良く寝ているね・・・・ カカシ、テンゾウ、ちょっといいかい?」

木遁即席宿は、こんな時大変重宝する。 テンゾウと一緒の任務だと、野宿とは縁がない。
それがイイと猫部隊を希望する新人も多い。 オレも何か考えないと、新人全部持ってかれちゃうネ。
自らを律し、追いこんでいるふたりについてシミジミ語っていたら、その本人がやって来た。
三代目からの書状の内容と、その後の動向の危険性を、綱手姫はオレ達に話した。

「・・・・って事態になったら・・・・って、あたしの取り越し苦労ならいいんだがね。」
「考えられなくもないですネ・・・・ 綱手姫、すぐにシズネさんを起して下さい、出発します。」
「奏宴の里には、実はボク達の恋人が行ってるんです。 まだ動いてないとは思うんですが。」
「なんだって?! よし、わかった。 まあ、あたしの勘はだいたい外れるから、安心しな。」

綱手姫に要請された任務協力、それは・・・・ 彫の国の皇女の遺伝子を取り出し、后の腹に入れる。
長く子が出来なかったという国王夫妻に、もう一度、娘の遺伝子を持った赤子を育ててもらう。
間違ってしまった娘の人生を、一からやり直せるなんて・・・・ 国王夫妻が拒む訳はない。
そんなコトは世界広しといえど、医療忍術のエキスパート、この綱手姫しか出来ないだろう。

だだし、ココからが本題。 綱手姫が遺伝子を取り出す、アズサが暗殺する、その後だ。


奏宴の里は皆、彫の国の芸術を愛している。 小さな里で、温厚な者達とはいえ、やはり忍びの里。
例え自国の皇女の暗殺を黙認しても。 その後、無事に木の葉に返してもらえるとは限らない。
後はただ彫の国の為に。 刺し違えても皇女を殺した木の葉の忍びを、始末するかも・・・・。
歌にだってある、行きは良い良い帰りは恐い。 三代目のコトだから手は打ってあると思うんだケド。

「先輩、綱手姫・・・・ 影の器だと思いませんか?」
「ああ、さすが戦乱を生き抜いた人だ。 実に惜しいヨ、あの自病さえなけりゃネ・・・・。」
「いつか克服して・・・・ いえ、そうじゃなくても、木の葉に戻って来て頂きたいです。」
「オレ達がどう言ったところで、本人にその意思がなけりゃ、それこそ豚に真珠だーヨ。」


三代目はイルカを任務に就けたのは、無駄な血を流さない為だと言った。 動物好きが役立つ、とも。
自分の勘は当たらないと言った綱手姫。 それはそうやって早めに対処するから、回避されるのでは?
自分の為の賭け事では当たらないかもしれないケド、人の為に感じたコトは、案外当たるのカモ。
敵忍の残した命を自分の腹で育てた人だ、誰かの為にという思いは、きっともの凄い運を呼ぶだろう。

「ああ、イルカ。 まだ動いてないよネ? テンゾウ、そうだと言って!!」
「アズサさんが、もしイルカを里に残して、城へ暗殺に行ってしまったら・・・・。」

「しっかりしなっ! グダグダ言ってないで、奏宴の里に向かうよっ!!」
「・・・・・・はいっ、綱手様っ!!」「ブー!!」

・・・・・よく出産する妊婦より、出産に立ち会う夫がウロウロ、オロオロするっていうケド。
それって、こんな感じ?  里を離れてる女達の方が、里にいるオレ達より冷静で強いヨ・・・・