絵画は語る 14   @AB CDE FGH IJK LN




アイツらは温泉、アタシは暗殺。 なんか貧乏くじ引いたみたいな気もするが、まあいいか。
綱手姫を探して連れて来たあのふたりと、幻の雪豹を描かせたイルカに比べたら、アタシは殺すだけだ。
人は殺すより生かす方が何倍も難しいし手間がかかる。 あの三人はその手間がかかる事をやった。

「すまんの、アズサちゃん。 本当はワシがその役目を背負うはずじゃった。」
「なに、一人殺すも、二人殺すも一緒さ。」
「お前さんの単独行動ではないぞ? ワシがヒルゼン殿に、式を飛ばしておいたからの。」
「!!! ははは、やっぱり! 親父様は、始めからこうなると予想してたんだよ。」

なにも謝る必要はないさ。 アタシには、インペリアル・エッグとカメオが手に入るんだから。
もしこの里長が暗殺したら桐嶋は浮ばれない。 王家を裏切ってしまった事実に、また苦しむだけだ。
ましてや彼女は本当の意味で、この国を殺人鬼から救った立役者だ。 善人は苦しむ必要はない。
彼女が木の葉を訪ねて来なければ、罪のない国民の多くが、きっとこれからも殺され続けていただろう。


「桐嶋殿の小さい頃も、よう知っとる。 あの方は桔梗様の芸術の最大の理解者だった。」
「・・・・・・気付くのが遅れた、そう言ってたと、親父様が。」
「仲の良いおふたりでな。 おおそうじゃ、あの絵は確か・・・・」

里長は猿魔の絵画と同様に、ある一枚の絵画を持って来た。 写真立てに入るぐらい小さな絵だ。
ふたりの妖精が、色違いのドレスを着て、頭に花冠を飾り合っている。 はじけるような笑顔。
幼少時の、皇女桔梗と侍女桐嶋をモデルに描かれた絵だという。 この絵は確かに素晴らしいと思うよ。
傍にいながら皇女に何も言えなかった彼女はたぶん、桔梗を殺人鬼にしたのは自分だと思ってる。

「桐嶋殿は“人生”という漢字から、桔梗様は生まれながらにして生きた芸術だと、申されてました。」
「人は生まれながらにしてなんとやらか、ふざけんじゃないよ。 どう生きたかってのが“人生”だ。」
「はははは、アズサちゃんにとっては、皇女の桔梗様も侍女の桐嶋殿も、ただの肉塊なんじゃな?」

その通りだよ、人間なんていうのはさ、ただの肉塊だ。 どんなに皿が良くてもマズイ肉は食えやしない。
アタシは中身と同じ様に人を殺すと決めている。 だから侍女の桐嶋は、苦しまずに殺してやるよ。
ふたりは幼少の頃から姉妹のように育ち、大変仲が良かった、と奏宴の里長はアタシに言った。
桔梗を殺した者の手にかかる事は、桐嶋にとって何よりの救いになる、そう思ったに違いない。


「それでもやはり桐嶋殿は、彫の国にとっての裏切り者。 この国のワシら忍びは、狩らねばならん。」
「そうだね、国王の娘を売った裏切り者だ。 その絵、桐嶋に持って行ってやってもいいかい?」
「おお、願ってもない事 ・・・・ありが・・・・とう、 アズサちゃん。」
「インペリアル・エッグ、木の葉のアタシ宛てに送っておいておくれ。 頼んだよ?」


木の葉隠れに依頼をする為、国宝級のカメオ三個と大金を持って来たという、彫の国 皇女の元侍女桐嶋。
カメオは王家から送られた物だろう。 国外逃亡をした、ただの女が大金を持参。 おかしな話だ。
そんな女に大金が用意できるはずがない。 火の国の色街にある、敷居の高い廓に身を売れば別だが。

その廓は、要人なら誰もが知っている。 没落貴族や訳ありの未亡人などが遊女として売られている。

「やっぱりここに身を売って、大金を作ったんだね。 彫の国の桐嶋。」
「・・・・・・奏宴の里の忍びですね? はい、覚悟は出来ています。」
「里長からだ・・・・・ コレをアンタに。」
「ああ、あぁぁ、桔梗様・・・・・ 桐嶋も、すぐお傍に参ります・・・・。」

やっぱりね。 この廓に女を買いに来る客は大物ばかり、何も言えないのを知ってるから、扱いは最悪だ。
桐嶋も一生ここで逆らえもせず、男共の慰み者になるよりは、今殺してやった方が良いに決まってる。
アンタの大好きだった桔梗は、一から人生をやり直すんだってさ。 ・・・・よかったね。

「そうですか、ありがとうございました。 木の葉隠れ、依頼・・して・・・・ 本当、に・・・・」
「・・・・・その目が閉じるまで、アンタの手を握っていてやるよ。」

誰もが間違えるんだ、それに気付くかどうかで中身が決まる。 遅れたけど、気付いたアンタは偉いよ。
絵を渡す時、手首の傷に触れたアタシのつけ爪。 一般人なら1分以内で死ぬ猛毒、リシンが塗ってある。
イカレた男共につけられただろう手首の生傷からリシンが体内に入り込み、桐嶋の息を静かに止めた。

彫の国では、死者のマブタに小銭を乗せるそうだ。 三途の川の渡し銭なんだとか。 アンタにはコレを。
報酬で貰った薄い象牙のカメオを、桐嶋のマブタにひとつずつ乗せた。 現実世界での船頭とはココの主。
売れば大金に化ける代物だ、奏宴の里へ遺体を運んでくれるように、この廓の主人に頼んで来たから。
元々アンタの物だ、アタシはひとつあれば満足さ。 船頭さん、アタシとの約束は破るんじゃないよ?