絵画は語る 5   @AB CEF GHI JKL MN




アタシが飛んで行って、奏宴の里の奴らもターゲットも、殺してしまった方が速いんだけどさ。
無駄に殺しまくって恨みをかって、後々里の若い忍びがヤラれたら、寝覚めが悪いからね。
ヤルのは桔梗ひとり。 殺さずにすむのなら、それに越したことはない。 報酬は彫の国のカメオだし!
アタシはただの石コロなんかどうだってイイんだ。 あの見事な細工・・・・アレは惚れぼれするねぇ。


「初めて御目にかかります、木の葉隠れの里の中忍、うみのイルカと申します。」
「遠路遥々、ようお越し下されました。 奏宴の里の長 ウズキと申しますじゃ。」
「早速ですが、我が影より、ウズキ殿にお渡しする様にと、コレを預かって来ました。」
「書状ですな? どれ・・・・・ なんと!! 桔梗様を?!」

なかなかどうして。 動物フェチは人の警戒心も解いてしまうらしい。 直に里長に面会とは。
そういえばアタシも、肩に止まってくつろいでたからね。 リラックスできたんだ、不思議と。
アタシ達酉部隊は、変化して飛ぶけど鳥じゃない。 もちろん、木の実や虫なんか食べないよ?
途中、木の実をくれたんだけど、なんとこのアタシが、手すがら食べちゃったんだよ。 ビックリさ!


「我らは争いは好まん。 ここに書いてある通り、雪豹をみつけてくれたら邪魔はせんと約束しよう。」
「は? えっと・・・・・ 我が里の影は交換条件を・・・・?」
「なんじゃ、そなた知らないでここまで来たのか?」
「はぁ・・・・ 俺は説得して来いと言われただけで・・・・」
「むはははは、実直な男じゃのぉ。 そなたなら、雪豹も警戒せずに姿を見せてくれるかもしれん。」

どうやら三代目は、知り合いの忍びがかなり興味をそそる条件を提示したらしい。
ここは美意識の高い国だ。 雪豹とやらも、さぞ美しい豹なんだろうね、貴重な動物なんだろう。
イルカが遣わされたのはこの為か。 確かにコイツなら、どんな警戒心の強い動物も手懐けそうだ。
シビアで疑り深いアイツらや、ウチの根暗で無口な九官鳥も、懐いちまったぐらいだからね。

「あの・・・・ 雪豹って、口寄せ獣ですか? ・・・・契約を交わす為に??」
「そうじゃが、あの美しい姿を絵におさめたい、それだけじゃ。 その為の絵師も里に住んどる。」
「わぁ、会ってみたいです、ぜひ!! どんな大きさなのかな。 目の色は何色だろう・・・・」
「むはは、忍び嫌いでのぉ。 ましてや一般人など、姿を見る事すらできん。 幻の雪豹なのじゃ。」

捕獲ではなく写生。 しかも豹ときたら、イルカが断るはずがない。 喜んで・・・・・ いや、
喜びすぎて興奮しまくり、何か裏があるんじゃないかと怪しまれる。 秘密にしたのはその為だね。
さすが三代目、イルカの性格を知ったうえでの交渉役。 それを条件にしたなら成功も見越している。
あの時聞かされたイルカの生い立ち。 禁断の森 沈黙の黒豹の話は有名だからね、アタシも知っていた。

「信じてもらえないかもしれないんですけど、俺、小さい頃、豹に助けられました。」
「ほう。 なんとも不思議な体験をなされたもんじゃな。」
「しかもそれは、口寄せ獣で、人を寄せ付けない猛獣だったそうです。」
「・・・・そなたが来てくれたのは、何かの縁じゃな。 ヒルゼン殿とワシはな・・・・」

里長は一枚の絵を持って来た。 まぎれもなく三代目の契約獣、猿候王 猿魔。 迫力のある絵画だ。
その完成の経緯を誇らしげに話し、里長 ウズキは、懐かしい思い出を昨日の事の様にイルカに語った。
一緒にいた口寄せ獣の姿を絵におさめたいがゆえ、戦いの中、敵である契約者の忍びに頭を下げたと。
イルカはそりゃもう、感動してたさ。 戦場での猿魔の活劇に、少年の様に目をキラキラさせて。

「あの眼光の鋭さに、忍びは震え上がったもんじゃ。 が、どこか優しい光を帯びておる。」
「そうなんですよっ!! 怖いんだけど、優しい! 全くその通りですっ!!」
「“フン! 実物の方が100倍イイ獣じゃ”そう言いながら、30分も絵を見てましたぞ?」
「あはははは! 猿魔らしい! 俺、シッポ触らせてもらった事あるんですよ〜!」

三代目との昔話に花が咲き、ふたりは猿魔についても、これでもかってホド語り出した。
イルカが尻尾を触った事を自慢すると、里長は手を握ったと自慢する。 ・・・・美意識だよね?
低次元の争いに見えるのはアタシだけかい? まあ、これだけ意気投合すれば、交戦はないとみていいね。