絵画は語る 7
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後ろに何かいると言ったイルカが、我慢できずに振り返ってソレに抱きついた。 心底驚いたよ。
イルカに抱きつかれて姿を現したソイツは、奏宴の里の里長が言ってた口寄せ獣 幻の雪豹だった。
これは間違えようがない。 里長の言った通りに美しい。 真っ白な毛並み、アイスブルーの瞳。
豹柄は青みがかったグレーで、爪や牙の先が銀色に怪しく光っていた。 恐ろしく高位な気を纏って。
すぐ奏宴の里へ知らせに戻った。 長はふたりの絵師を叩き起こし、絵師の補助の為、忍びを募った。
雪豹を描くならと、その腕に惚れこんだ絵師ふたりを、何十年も前から里に滞在させていたそうだ。
奏宴の里の忍びの興奮状態は、そりゃすごかったさ。 我も我もと行きたがって収拾がつかない。
思わず変化を解いて“早くしな、逃げちまうだろ!”とぶん殴ってやろうかと思ったぐらいだ。
結局、雪豹写生軍団は5人。 里長と絵師ふたりと、アミダで選ばれた幸運な(?)里の忍びふたり。
「なんて美しい生き物なんだ・・・・ 変化の術!!」
「コレを描けるなんて、絵師冥利に尽きます。」
「まったくです、諦めなくて本当に良かった。」
「なんて気高い獣でしょうか・・・・ 火遁 灯の術!!」
「ワシは今猛烈に感動しておる・・・・ わかるか、アズサちゃん。」
「・・・・・そりゃ、よーござんしたね。」
警戒しないように、離れた所から写生会だ。 腐っても忍び、夜目も利くし、ここから十分見えるだろう。
里から来た忍びは片方が雪豹に変化をして、もう片方が絵師の紙の傍で、火をともしていた。
デッサンさえしておけば、色付けは後でいい。 変化の術で雪豹になれる。 実物を観察出来たから。
きっと明日、このふたりは雪豹に変化して奏宴の里の忍びの夢を実現させる。 里長も変化するかもね。
「触ってみたいなんて、贅沢は言えません。」
「今までだって、チラっと尻尾の先が見えたり影が見えたり・・・」
「じっと伏せてるなんて、まるで奇跡じゃよ。」
「・・・・・アレは・・・・伏せてるのか?」
そう、さらに目の良いアタシには見える。 雪豹の顎の下にイルカの髪の毛先が微かに出てる。
おそらく反対側の足でイルカを抑えているんだ・・・・。 これ以上近付いたらコイツを殺すぞ、と。
そんな脅しをかけている様にも思える、こちら側だと。 ひょっとしてイルカを抱きしめてるだけかい?
前足と顎の間に入れているのだけは確かだ、毛先しか見えないが。 微妙だね、確かめてみるか。
「長、文鳥が雪豹に向かって飛んで行ってしまいましたよ?」
「アズサちゃんは、イルカ中忍の口寄せ獣じゃよ。」
「同じ口寄せ獣なら、近付いても大丈夫でしょう。」
「羨ましいなぁ・・・・」
「後であの文鳥も描いてみたいです。」
「おお、いい考えじゃ、明日頼んでみよう。」
「イルカ・・・・ アタシも素直なアンタを気に入ってる。 無事でいておくれ。」
イルカはさっき、アタシがイルカの身を案じて怒ったと思ってた。 それは少し合ってて少し違う。
でも言った言葉は本当さ。 アンタに何かあったら、アタシはマジで身の危険を感じる。
カカシもテンゾウも、絶対アタシを許さないだろう。 暗部内に戻せない亀裂が入ってしまう。
そしてアタシは目にする事になる。 まるでピエタの様な彫刻を彷彿とさせる、一頭と一人を。
イルカは雪豹に埋もれて、沈黙の黒豹への感謝を述べていた。 雪豹の目が優しくイルカを見ている。
アンタ達には・・・・・ 時間も言葉も生物の種も・・・・ 何も関係ないんだね? 心が温かいよ。
イルカは無事だった。 もう少しだけ一人と一頭の時間をやろう。 今で出ていくのはヤボだろ?
「・・・・・お疲れイルカ。 連中も、もう描き終わった頃だ。」
「そうですか、それは良かった。 ・・・・・だって。 ありがとう、聞いてくれて。 ・・・あ!」
「ほら、早く山に帰りな!! ・・・・・これ以上、人に慣れるんじゃないよっ!」
「・・・・・行っちゃった。 ・・・ふふ! アズサさん、やっぱり母ちゃんみたいだ。」
「ああ?! 誰が母ちゃんだ!! 戻るよ、これで条件はクリアしたんだから。」
「あははは、スミマセン、つい。 了解です!」
木の葉を出て二日。 まさか着いたその日に、暗殺黙認の為の交換条件が達成されようとは。
三代目の計算が的確なのか、イルカの動物運が良いのか。 おそらくどっちもだ、全く恐れ入ったね。
さあ、アタシはアタシの仕事をしよう。 イルカを奏宴の里に残し、明日、標的の住む城へ。
もう変化は必要ないね。 小娘一人暗殺するのに問題はないが、チャクラの無駄遣いは終わりだ。
「解っ!!」
「あぁ・・・・・」
「・・・・・・なんだい、その目は。」
「・・・・べ、別に・・・・ 何でもないデス・・・・」
「・・・・・・。」
・・・・急に木の葉の暗部がイルカと戻って、奏宴の里の奴らに説明するのも面倒だ。
仕方ない、文鳥のままでいてやるよ。 アタシが変化をし直したら、イルカが頬ずりしてきた。
おやめ、この動物フェチ! つぶれるじゃないかっ!! アタシは小さな文鳥なんだよ?!