これも運命だと 思えるか 6   @AB CDF GHI JKL M




あの後、如月さんはいつもの調子を取り戻し、テキパキと作戦を立て、俺に指示を出した。
まず、彼女と俺が村長宅に行き、滞在を許可してもらう。住み込みの神崎医師にも紹介してもらう。
その間、医者の所に来ている患者とやらに暗部が接触し、情報を聞き出す。
俺たちは最低でも30分以上、時間を稼がなければならない。

ところで、呼べば来てくれるヒーローな暗部は、今回限りの特別サービスだって、残念。
普通“顔なし”の時は、暗部は現れないそうだ。 本来は最初から最後まで陰に徹するらしい。
戦況は、情報が全てを左右する。 情報を集める潜入隊と、実動部隊の暗部。
繋ぎをとってお互いの状況を報告し情報を共有する。 どちらも信頼し合わなければ任務の成功はない。

倉持村長は特に怪しむふうもなく、俺を歓迎してくれた。
屋敷にいる自分のお抱え医師“神崎先生”に、ぜひとも会って行きなさいと言う。
お婆さん“ハツ”は、短期間のうちに人心をつかんでる。 すんなりと事が運ぶのは、そのおかげ。
如月さんに続いて階段を下りると、病院独特の薬品の匂いがしてきた。
診察室らしい部屋に案内され、待つこと5分。
30〜40才くらいの人のよさそうな男が、お茶を持って俺達を出迎えに来てくれた。


「トウヤと申しましてな、夕べうちの裏手で山賊に襲われたらしく、倒れとったんじゃ。
 気にするなといくら言うても、恩がどうのと、ワシの世話する言うてきかんのじゃ・・・」

「はは、今時、ずいぶん義理堅い若者だね。にぎやかになっていいじゃないですか、ハツさん。」

「こちらのお婆さんが助けてくれなかったら、私はとっくに死んでおりました。
 ずっととはいきませんが、せめて傷が完全に治るまでは、恩に報いようと思います。」

「どこかで聞いたようなセリフだね。 ハツさん?
 トウヤくん、このハツさんは、自分から口減らしで山を下りて来て、
 死に場所として選んだのがこの村。 ハツさんも、今の君と同じことを僕に言ったんだよ。」

「ワシはいつ死んでもええのじゃ。 ただ、ちょっとでも、村のために何か出来たら・・・」
「ほら、同じだ。 人の好意は素直に受けるもんだよ? ・・・クスクス。」

頑固な、それでいて神崎先生には強く出れないお婆さん____そんな演出だったので、俺も乗っかる。


「え? そうだったんですか?! では先生も私の命の恩人なんですね、だって、
 先生がいなかったら、お婆さんは死んでて、私もお婆さんに助けてもらう事はなかったんですから。
 そうだ!先生のお手伝いもしますよ。 ハツさんのお世話に、先生のお手伝い!
 命のお礼には とてもならないけど、使ってやって下さい。お願いします。」

俺は深々とお辞儀をしてみせた。ちょっと強引だったかなぁ・・・まあいいか。
先生を尊敬します・・・的な感じで、好感は持ってもらえたと思う。

「彼女が村に住む様になってから、僕はとても助かっているんだよ。
 村の皆は指をちょっと切っただけでも、すぐここへ来るからね。
 だからハツさんをよろしくたのむよ? 僕への感謝はそれが一番。」

「・・・わかりました。 ハツさん、先生がこうおっしゃっています。
 ハツさんのお世話をする事が、先生のお手伝いになるそうですよ?」

「むむむ・・・、神崎先生がそう言うんじゃ、仕方がないのう・・・」


そろそろいいだろう・・・かれこれ一時間は稼げたはずだ。
最低でも30分以上は引き離しておいてくれ、ということだったので、一時間は上出来だ。

「先生はお忙しいからの、そろそろ帰らにゃいかんよ、トウヤ。 神崎先生、お邪魔してすまんかったのぉ。」
「あ、そうだ先生。他に私にできる事があれば、ほんとに何でも言って下さい・・・といっても、
 地質学専門の学生なんで、医学の知識はほとんどありませんが。 ハハハ。」

「ありがとう、土関係で聞きたい事があったら、ぜひお願いするよ。」
「はい。お茶、どうもご馳走様でした。」

神崎先生はとてもいい人だった。村人から慕われているのも納得できる。
・・・でも如月さんの言う通り、なんか引っかかる。 なんだろう? もやもやするなぁ・・・
それに、監禁場所も見当がつかない。村長宅には地下の診察室以外、人の気配があまりなかったし、
診察室の奥には暗部が入っていたし。人が何人か集まってたら気付かないわけがない・・・

「なんか引っかかるじゃろ?」
「はい。何が・・・という訳ではないんですが・・・」
「ワシもじゃ。いつもあそこに行くたびに、何かが足りないような気がしてのぉ・・・」
「足りない? ・・・足りない何か・・・何か足りない・・・」

巣に戻るまでは“ハツ”と“トウヤ”で会話を続ける。 これは潜入部隊の鉄則だ。
“巣”とは、潜入の隊長がいる場所のこと。 この任務中はハツお婆さんの家を指す。
今日の報告は明日にでも聞けるだろう。 如月さんが繋ぎを付けてくれたはずだから。
暗部の2人は“おえらいさん”らしい患者から、どんな秘密を聞き出せたのかなあ・・・?