受付忍の心得 1   ABC DEF GHI JKL MNO




おれは任務受付所に配属になって間もない中忍だ。 ここで真っ先に知った要注意事項は、なんと。
海野中忍は、暗部 部隊長クラスの情人らしい事。 戌班のカカシさんと猫班のテンゾウさんの。
三代目火影の直轄部隊は四つに分かれていて、三代目の両腕とも称される部隊が戌班と猫班だ。
だから必然的に、海野中忍の言動に注意しなくちゃならない。 二人に睨まれるなんて御免だろう?

ハッキリ言って、おれ達中忍がどう頑張っても、個人的に親しくなれる様な階級の忍びじゃない。
どういういきさつで、とか。 誰が抱かれちゃってるんですか、とか。 聞くに聞けない階級差だ。
二人の情人だと思うと同じ階級でもあっても、当然ながら海野中忍に聞けない。 ・・・・そうだろう?

情人らしい、情人だと思う、というのは日々の監察による推測だ。 あと・・・・ 先輩諸氏の態度で。
さっきも言った様に、おれは最近受付に配属になった、早い話が新人だ。 中忍歴はそこそこだけど。
だから、先輩諸氏の視線が遠回しに語りかけて来るんだよ。 お前なら聞けるよな? みたいな感じの。
おれなら、入ったばっかで知りませんでしたよー って、気軽に聞き出せると思ってるんだろうなぁ・・・

けど。 人の恋路に首を突っ込むのは馬鹿のする事だろう? 馬に蹴られて死んじゃうらしいし。
・・・・・確かに事実をはっきりと確かめたい気持ちは、ないと言えば嘘になるけど・・・ でもなぁ。
これだけの状況が揃ってるんだから。 確かめるもクソも、それこそ藪蛇だと思うんだよなぁ、おれ。


あー 噂をすればなんとやら、ご登場だ。 任務受付所に暗部の隊員が来る事すら珍しいのに。
ましてや部隊長が二人揃って来るなんて、あり得ないだろう? でもあるんだよ、こういう日には。
海野中忍が任務受付所のシフトに入ってる日。 しかも受付係として座ってる時、なんだなこれが。



「ア・・・ ごめーんネ? ゴミかと思っちゃったヨ!」
「わあ・・・ ちょっとシワシワだけど、読めるよね?」
「いや、その・・・・ いっそ全部、書き直そうかな、なんて・・・・ ははは・・・・」
「「なんだ、それなら良かった! あははは!」」

「あ、イナダ上忍、よかったら新しい任務報告書をどうぞ。 急がなくても大丈夫ですよ?」
「・・・・そうだ! う、家で書いてこようかな? ゆっくり書けるし!」

「それがイイよ、そうしなヨ。 帰還報告だけしとけば、三代目も心配しないしネー?」
「そうそう、単独だったんでしょう? 報告しておけば、詳細は後でも大丈夫。 ね?」
「なんだか顔色も悪いですもんね・・・・ 俺がちゃんと伝えておきます、責任をもって。」
「そ、そう? 悪いな、海野中忍。 ・・・・落ち着いて家でゆっくり書くよ、じゃ!」



ほら。 な? こんなやり取り見てればなぁ。 誰だって、この三人そうなの? って思うだろう?
海野中忍に指摘されて、机で再記入をしていたイナダ上忍の報告書を、クシャクシャにしたりなぁ。
あーあ 可哀想に、イナダ上忍。 笑顔の牽制に屈して帰っちゃったよ。  あれだよな、無言の脅し。

カカシさんとテンゾウさん、あの動物面をな、ヒョイッと頭に乗っけて素顔をさらして話すんだよ。
これがまた二人ともイケてる顔なんだけど・・・・ てか、そうじゃなくて、確かにイイ男なんだけど。
そういう事ではなくてだな。 とってつけた様な満面の笑みが浮んでるんだよ、二人の顔に終始。
んで、目が全然笑ってないんだよな、これが。 ワザとらしく長居してんじゃないよ、な感じ。



「イルカ、何時に上がり? どっか食べに行こうか?」
「ボク達は待機なので、里のどこに居ても平気です。」
「わー いいですねー と言いたいところですが。 今日は通しです。」
「「え――――っ!」」

「じゃあ・・・・ 夜も遊びにきますね?」
「ここは受付所です、遊びに来ては駄目です。」
「ウー んじゃ、ボランテア警備やる!」
「くすっ! それなら大歓迎です、ふふふ!」
「「やった! イルカ、また後で。」」



はい、また後で。 そう言って海野中忍は二人を見送っているけど。 ボランテア警備、か・・・・
二人が口にしたボランテア警備とは、任務受付所の夜間警備の事。 喜びこそすれ、断るなんて馬鹿だ。
暗部の部隊長が二人も警備につくんだぞ? こんな心強い警備は他にないだろう、しかもタダだし。

任務受付所は24時間体制で報告書を受理しなくちゃならないから、夜間も当然、受付忍を置く。
昼間は任務依頼も受け付けるから、窓口の受付忍は大勢いるけど、夜間は報告書の受理だけだから少数。
最低でも二人はいないと、いざという時動けないから、大抵が二人。 でも警備がいれば話は別だ。
そうなると今日の夜間は一人だけでいい。 そう、海野中忍のみ。 多分、担当者は自分から・・・・



「イ、イルカ。 申し訳ない! オレ、今晩出れなくなったんだよ・・・・・」
「? 大丈夫だぞ? 今日はカカシさんとテンゾウさんがいてくれるから、余裕。」
「そ、そうか! 今度シフト代わってやるからな? ごめんな?」
「へへへ、ラッキー! 夜間勤務手当、一日分丸儲けv」
「あははは、そう言ってくれると助かる・・・・ ははは!」



ほら、これも。 こうして先輩諸氏は気を遣っちゃう訳だ。 すると次の日の朝、豪華差し入れが届く。
【気を利かせてくれた夜間担当の受付忍へ 暗部 戌猫より】ってカード付きで、鰻重の特上が。
そのカードっていうのが、かなり可愛らしいカードでなぁ。 なんとハート型だ、しかも薄ピンクの。

な? こんだけの状況証拠があったら、誰だってそう思うだろう? 海野中忍は二人の情人だ、って。
でもって。 いくら先輩諸氏に“お前聞いてみろよ”的な視線を飛ばされても、そこはスルーだろう?