受付忍の心得 9   @AB CDE FGI JKL MNO




潜った初日、イルカは見るからに忍びっぽい男に声を掛けられていた。 お前を一晩買ってやると。
偶然にも花街に遊びに来てたボク達が、慌てて止めに入ったんだ。 その子の先客だから、って言って。
花街にはルールがある、新参者が大きな顔して路上に立つなんて馬鹿もいいとこだ! って怒ったんだよ。

そうしたら、イルカは登録する予定のお店に行く途中だったらしくて。 またもボク達の早とちり。
バツが悪いボク達と、餌箱に収まる前に喰われそうになったイルカ。 なんとも可笑しくって・・・・
誰からともなく大笑いした。 今みたいに乱入したら、忍び版の美人局ができそうだね、って。

まさかその時のやり取りを見ていた他の潜入員が、名案ですよと、里に報告したとも知らずに。

結果、下忍潜入員のイルカは、ボク達とチームを組む事になった。 ただ仕事がもう一つ増えるだけ。
ボク達は花街に遊びに来るついでに、現場の様子を見て狩るだけでいい。 遊びに来るついで、だしね。

まず国境を取り戻す事と、里内・国内の治安の回復が優先だったから、間者や草の始末は後手に回ってた。
でもこれから、国内に潜っているだろう敵の忍び達を始末していく。 そいつらと通じていた奴も残らず。

それには強い忍耐力と地道な努力が必要だ。 木の葉も今まで黙って放置していたのではないんだ。
チャクラ感知出来た忍びらは、早々に狩ったよ? ただ、奴らがチャクラを漏らしてくれれば、の話。
木の葉もそうだけど、敵地に潜入する専門の奴らはチャクラを上手く隠して、感知させてくれない。



ボク達もコロリと騙されたぐらいの海野イルカは、ヒット率の高い囮だった。 忍びが喰い付く餌だ。
潜ってる奴らは普段目立たず大人しくしてるから、ストレスが溜まるみたいで、面白いぐらい釣れる。
殺しがお仕事のボク達忍びは、ほとんどがサディストだからね。 ああいう店で指名するしかない。

ん? どういう店かって? 【あなたの欲望を満たします】を売りにしてる人材派遣屋さん。
はっきり言うと娼館の窓口だ。 宣伝は一切なしの口コミのみ、売る方も買う方も完全登録制・・・・

こう聞くだけで、口が堅そうで信用のできる所だと思うでしょう? 実際にその通りの所だしね。
この人材派遣屋に登録してる数人が、ウチの潜入員なんだよ。 本物の店を利用するのも一つの手。
イルカもそこに登録してるんだ、当然、売り者としてね。 同じくボク達も登録してある、客として。

客は各売り者のPR用30秒ムービーを観る。 それから話して気に入ったら指名出来るシステム。
イルカはほら、ああいう感じでしょう? たまに違うのも引っかかるけど、ほとんどが忍びなんだ。
特殊な性癖だからと隠すフリをして買いに来る、ストレスの溜まった他里の忍び達を釣る為のいい餌。




「オッケー! イルカ! もう天井から降りてきても平気だヨー!」
「・・・・・よっ、っと!   ふぅ! いつもながらお見事です!」
「あはは、イルカもね。 弱々しい囮の玩具君、お疲れ様!」
「うぅ〜 最近成長期みたいで・・・・ 弱々しくなくなってきた・・・・」

「あ、そういえば中忍試験に受かったって言ってたっけ? おめでとう!」
「へー イルカは16才になったのか・・・ って、ボクも16才だけど!」
「ありがとうっ! ていうか、お二人はフケすぎっ! 人生達観しすぎっ!」

「「あははは! 殺しまくってりゃ、人生達観もするってっ!」」
「そりゃそうだ! 俺達忍びって、皆フケてんなぁ・・・・ はぁ・・・・」
「「くすくす!」」



老けてるって・・・・ イルカもボクと同い年でしょうが。 カカシ先輩だって4つ上なだけだよ?
まあ、初代様の頃は忍びの平均寿命が30才ぐらいだったらしいけど。 それと比べりゃマシだよね?
それにイルカとボク達が会った時から、もう三年になる。 つまり、男版美人局チームを組んで三年。

潜入員になるキッカケからチームを組むキッカケ、全部ボク達が絡んでる。 黄昏ちゃうでしょう、当然。
ああ、あんな事もあったな、こんな事もあったな、あの時は笑ったな、とかね。 思い出しちゃう。

花街で遊ぶ前にもう一仕事。 これって結構メリハリがついていいんだよ、ボク達からしたらね。
よし、これ終わったらパッと遊ぶぞー! とか。 忍びスイッチのオンオフみたいな感じなんだ。

「カカシさんとテンゾウさんは、これから遊びに行くの?」
「「そう! 新しい店がオープンしたから行ってみるvv」」
「あははは! この、遊び忍の金ちゃん’Sめっ!」
「「今度イルカも連れてってあげるね?」」

「俺が他の店に出入りしたら、登録抹消されちゃうでしょう、もうっ!」
「「あはは! そうだった! やー 女の生肉はいいよー?」」
「世の中の女の敵発言っ! アズサさんにボコられ・・・・ てか、アズサさんはいつもボコるか!」
「ぶっ!! あははは! そうそう、凶暴S鳥だから!」

「じゃイルカ、死体回収の立ち会い、よろしくネー?」
「ふふふ! 了解ですっ! いってらっしゃいっ!」

ほんとこうやって、花街に遊びに来るたびに、イルカの元気な声が聞けて。 ボク達も元気になるよ。
しかし、詐欺だよな? 騙されたボク達が言うのもおかしいけど。 あれは仕方がないよ、騙される。


イルカは独特の目をしてるんだ。 なんというか・・・ 弱々しい風に振る舞ってるけど負けない、って感じ。
一番最初会った時からそうだった。 自分のやるべき事をしてるだけで、恥ずべき事はない、って目。
ああいう境遇の子は、人の物を盗んだり、売上をネコババしたり、悪知恵がついて当然なのに違った。

目に一杯たまった涙がぽろぽろと流れてたけど、それは買ってもらえないから悔しくて泣いた涙。
同情はいらない、人に迷惑かけずに生きてる、自分の足で地に立って。 そう感じさせた涙だった。
・・・・だからボク達も助けてあげようと思ったんだ。 イルカ扮する不幸な生い立ちの偽少年を。



今はあの時より、さらに輪をかけて虐めてみたい度数が向上。 自分の性癖を受け入れている青年だ。
性癖を恥じない。 俺はこういう性癖に生まれた、それのどこがいけないの? って堂々としてる。
こいつとは相性が良さそうだと、高確率でサディスト達の目に留まるみたいなんだよね・・・・。

30秒ムービーを観て実際にイルカに会った奴は、必ず気に入るんだ。 ちなみに一回じゃ遊べない。
イルカの登録してる派遣所は、花街でも最高峰の娼館窓口。 三回通って初めて商品を手にできる。
ムービー鑑賞で一回、本人と話して一回、その後商談が纏まったら、どこへなりとも連れ出していい。



ボク達の出番は、イルカが気に入られて連れ出された時。 ボク達専属の玩具だから返して? って。
ボク達は程よくチャラい暗部のフリして喧嘩吹っかけるから、相手さんは殺る気満々で掛かってくる訳。
さあこれからお楽しみ、って時に邪魔されるんだから殺気丸出し。 そりゃそうだよね? ふふふ!