受付忍の心得 13
@AB
CDE
FGH
IJK
MNO
ボク達が相談室に入ると、こころちゃんが机に突っ伏してた顔を上げた。 それはそれは嬉しそうに。
長い間帰りを待ってたご主人様をお迎えする小型犬の様に。 きっと尻尾があったら振りまくってたね。
・・・・う〜ん、なかなか板についてるM気質。 まあ、6年間もそうやって潜ってるから当然だけど。
「イズミ様! ・・・・? そちらのお二人は??」
「やあ、こころちゃん。 今さっき下で会ってね。」
「・・・・三人で可愛がってくれるの? イズミ様のお友達なら嬉しい。」
「「 ぶほっ! ・・・・・あ、いや・・・ まだ。 これからそういう話を・・・・・」」
「いや、それはない。 ここに来てもらったのは、話をつける為だから。 きっちりとね。」
「「・・・・・・・は?」」
「・・・・・そうなんですか、わかりました。」
「うん、お利口さんだね。 こころちゃんもこの際だから、ちゃんと聞いていなさい。」
「・・・・・・はい、お話が終わるのを待ってます。」
「「・・・・・・・・・。」」
いい子だ、といいつつイルカの頬をペチペチするイズミ。 イルカ扮するこころちゃんはもうウットリ。
イズミはイルカを従えて奥側のソファーに腰掛ける。 こころちゃんはその足元に地べた座りした。
膝の上に手をやりポンポンと軽く叩くイズミ。 イルカは音がした方の膝の上にコトリと頭を乗せた。
ちょっと、ちょっと? イルカは奴とお話だけしてた、って言ってませんでしたか、カカシ先輩。
ひょっとして、ここで致さない限りは、多少のおさわりも黙認されるのかな・・・・ 防音だし。
・・・・もう何度も会ってるとイルカは言った。 こんな感じなら、もしや少しずつ調教されてた?!
イルカ自身も危惧した通り、マジMに目覚めてしまう可能性が無きにしも非ず。 確かにピンチだ。
「・・・・う、うわー 可愛い反応! ボ、ボクもやってみたいな・・・・・」
「ホ、ホント! こころちゃん、こころちゃん、ちょっとコッチ来て?」
「・・・・・イズミ様、お二人のおそばに行ってもいいですか?」
「お話が終わるまで待ってるんだろ? 動いては駄目だよ、私の足の横にいなさい。」
「はい、イズミ様。」
「「・・・・・・・・・・・・むかっ!」」
奴の話はこうだ。 こころちゃんはスレてない綺麗な目をしてる。 誰かに支配者されたいマゾヒスト。
自分は物心ついた時からこうだから、傲慢だと相手にとられてしまい、性生活も上手くいかなかった。
血を見るのが好きな奴らとは別のタイプで、上から目線で人に命令をするのが大好きなサディスト。
こころちゃんも、ただ自虐が好きという感じではなく、純粋に支配されたがってると一目でわかった。
これほど相性のいい相手には、きっともう会えない。 できるならこころちゃんを引き取りたい。
だからお二人には悪いが、こころちゃんはもうじき引退させる。 私の家でずっと一緒に暮らす。
実は今日、こころちゃんを家に連れて帰りたい、そう話をするつもりでここに来たんです・・・・ だそうだ。
「もちろんただとは言いません。 これに。 お好きなだけ金額をご記入ください。」
「「「・・・・・・・・。」」」
イズミはそう言って、懐から一枚の小切手と万年筆を出した。 本来なら・・・・ 記入して商談成立。
これがただの客と客の話し合いなら、仕方ないなそこまで本気で入れあげてたのか、って話がつく。
・・・・・・でも。 こころちゃんは潜入員で、ボク達は暗部。 木の葉隠れの忍びなんだよ。
もし手だれの間者や刺客なら、速攻結界を張らなきゃ。 と、部屋に入る前は少しだけ身構えてた。
けれどこれなら。 普通に記憶を抜いて帰すだけですみそうだ。 ・・・・イズミからイルカの記憶を抜く。
チラリとイルカをみてみると、思った通り吃驚してた。 “思い上がってみました”なんて言ってたね。
その通りだったよ、イルカ。 思い上がりでも何でもなく、奴は“こころちゃん”に惚れてたんだ。
「はぁ。 もの凄い入れ込み様ですね、どこぞのお店のご主人ですか?」
「はい、こうみえて外では先物取引の会場を仕切っております。」
「へー 相場会場の? それはそれは・・・・・ 財閥ですか。」
「お二方もお若いのに、場馴れしてらっしゃる。 さぞ由緒正しきお家柄の・・・・」
「それはまあ、そこそこ。 わけありで名乗れはしませんが。」
「こころちゃん。 シャレじゃないけど、心の準備はできた?」
「・・・・・・・はい。」
「うん、そう言うと思ったよ。 こころちゃん、いや、これは源氏名だね。 本当は・・・・ ぅっ!?」
話が纏まって、こころちゃんも連れて帰れると思ったらしいイズミは、露骨に嬉しそうな顔をした。
カカシ先輩がイルカに向かって言った“心の準備”とは、今から記憶を抜くけどいいか、って確認。
・・・・・・・しっかりと頷いたイルカは。 もしかしたらこの為にボク達を呼んだのかもしれない。
一般人なら記憶を消して解放すると知ってる、なのにその日を待つ事が出来なくなってしまったんだ。
チームの餌の危機だ! と煽って。 自分の置かれているむず痒い日々を、終わりにしたかったのか。
偽者に惚れてしまった一般人、一日も早く“こころちゃん”から解放してやりたかったのかもしれない。
とにかく。 イルカのご希望通り、イズミからこころちゃんの記憶をだけを消したよ、よかったね。
イルカはイズミの視線にゾクゾクすると言ってたけど。 マジMになりそうだとか、そんなんじゃなく。
惚れた男が欲する相手を見つめる熱視線に、耐えられなかっただけだ。 おかしいと思ったんだよ。
もう6年も美人局の餌としてここに登録してるイルカが。 今更Mに目覚める訳ないじゃないか。
登録者側の権利として、相性が合わなかった客は拒否もできる。 客にだけ選ぶ権利はないという訳。
そこのところも、ここが長年、花街の派遣型娼館窓口として口コミで信頼を勝ち得ている証拠だ。
こころちゃんが自分のブラックリストにイズミの名を上げれば、もうイズミはイルカの情報をもらえない。
イルカの事だ。 イズミの会社に知り合いの人がいて、自分の存在がバレると迷惑がかかる、とか。
イズミの名を傷付けない様に店側に説明するだろう。 もう宣材写真もPRムービーも目にする事はない。