受付忍の心得 11   @AB CDE FGH IKL MNO




う〜ん、ピンチだ。 これはひょっとすると・・・・・  ひょっとする・・・・・ かも・・・・。

実はもう何度も会ってる人がいる、話すだけ。 遊郭なら通うのはわかる、贔屓の旦那になる為だもん。
でもなぁ・・・・ ここは登録制の人材派遣屋さんだ、火の国の花街でもかなり信用のおける娼館窓口。
三度目の正直じゃないけど、ここのシステムは分かり易い。 商品は見てお話してから選ぶ事が出来る。

最短で三回来ればOK。 三回以上来る時は、話をしても気に入らなかったから別の子にする時だ。
同じ子と話す為にまた来るなんて謎の行動。 まあ、店側は毎回紹介料を取れるから喜んでるけど。
・・・・通ったって意味ないのに。 PRムービー観て選んで会って話す、その後、指名すればいいだけ。

なのにあの人は、派遣してほしい連絡先を告げないんだ。 例えば、どこどこの店に何時、とか。
決まった宿やホテルの空きを待ってる風でもない。 一体何がしたいんだか。 だって普通は・・・・ な?

こういう所に来る人は、男でも女でも特殊な性癖を抱えてる人が多い。 自分の欲望を満たす為に。
だから相性のいい相手をピンポイントで嗅ぎ分ける。 耳フェチ、脚フェチ、視姦好き、その他諸々。

俺はかれこれ6年も淋しがり屋のM属性で登録してる。 その間、指名して来た奴らは当然、S属性だ。
だからすぐにでも虐めたいはずなんだ、そうでないと困る。 尻尾を出させることが俺の仕事だから。
S属性に興味を抱かせてこそ囮の価値があるのに。 また今回も話すだけで帰って行ったなぁ・・・・。



「ヤッホー イルカ! 様子見に来たヨ。 指名入ってるんだって?」
「今度は男? 女? どんな感じの奴だった? 忍びっぽかった??」
「あのですね。 もしかすると忍びじゃないかもしれないんです・・・・」

「珍しい、久しぶりにハズレを引きそうなの? でも油断は禁物だよ、イルカ。」
「ウン、そういう風に感じさせるヤツだとしたら、かなり切れ者の間者だから。」
「ですよね? でもまだ外に連れ出してくれなくて・・・・ う〜ん、これは・・・・・」
「「これは、って・・・・・ なに??」」

指名されてるといえばそうなるけど。 話に来るけど派遣先を教えてもらえない、あの男の人の話をした。
PRムービーで目に留まり、実際に会ってお話して意気投合、後はいざ指定の場所へ・・・・ のはずが。
なぜか行動を起こさないで、話にだけ来る。 毎回俺を指名してくれるから気に入ってはいるらしい。
派遣先を指定してもらわなきゃ遊びに行けない。 面接の小部屋がただの喫茶店と化してる事を話した。



「・・・・・ナンなの、ソレ。」
「・・・・・意味不明ですね。」
「指名するたびに毎回紹介料を取られるのに・・・・・」
「お金には不自由してないでしょう、こういう所に来る奴は。」
「そうだネ。 他にナニか目的があるとみて間違いないヨ。」

「・・・・なんか会うたびにゾクゾクするんだ・・・・ 俺。」
「「マジで?! 危ないよ、手だれの間者だよ、そいつ!!」」
「あ、いや。 命の危機とか、虫の知らせとか、そういう類のゾクゾクじゃなくて。」
「「・・・・・・・??」」

謎の客なのに、なんで俺が忍びじゃなく一般人だと思ったのか、その理由。 これも話してみた。
当たり前だけど、話をする度に親しくなる。 だからなんとなくその人のひととなりも判ってくる。

興味本位ではない事は、俺の全部が知りたいと覗きこんでくる様な、あの瞳から窺い知ることができる。
金持ちの道楽なら、外に連れ出して数人を相手に遊ばせれば、それで気が済むだろう。 でも違う。
あの人は・・・・ もの凄く生真面目な人なんだ。 ・・・・・・俺を気に入るぐらいだからS属性だけど。

「ひょっとして出会い系のクラブと勘違いしてるんじゃないかな、って。 最近思い始めた。」
「・・・・・・・・・それは痛いな・・・・」
「あと、遊郭のように贔屓の旦那にならなきゃ連れ出せない、と勘違いしてるとか。」
「・・・・・・・・・あり得ナーイ・・・・」

「そう、あり得ない事といえば! 俺に惚れちゃってたりする? なーんて思ったりなんかしたりv」
「「あははは! 笑えない、って! いや、笑ってるけどv」」
「あはははっ! ちょっと思い上がってみましたv」

や、冗談はさて置き。 はっきり言うと、俺がゾクゾクするのは、あの人の視線のせいなんです。
忍び特有の残虐性を臭わすS属性と違って、真性のS型人間とこう何度も接触すると、落ち着かなくて。
なんだろ・・・・ 純粋な・・・・支配者? それも変な言い方だけど、逆らえない雰囲気というか・・・・
俺は忍びで潜入員で、その俺は俺の中にいつも居る訳ですよ。 でも違う俺がゾクゾクしちゃうんです。



「ミイラ取りがミイラになる前になんとかしたいんですが・・・・・」
「「・・・・・・・・・ちょっと。」」

「いや、これは冗談抜きで。 そっちの気があるのかも。 俺、ピンチ。」
「「・・・・・・・・・マジですか。」」
「・・・・・・マジです。」

俺に喰い付く客は、八割方敵の間者や潜伏中の刺客。 特殊な趣味の一般の方々もまれに引っかかる。
前者ならカカシさんとテンゾウさんがその場で狩るんだけど、後者の場合は記憶操作してお終い。
だから記憶を抜くにしても何にしても、外に連れ出してくれなきゃ、今の状況をお終いに出来ない。

「・・・・・って事で、次回指名された時、何とかして下さい。」
「まさかの人任せ?! 派遣先を自分で聞き出しなよっ!」
「俺達はチームでしょう?! 俺がマジMに目覚めてもいいんですか?!」
「・・・・・別に? そうしたら責任もって虐めてあげるネ?」
「酷っ! 三代目に職務怠慢だ、って言いつけてやるっ!!」

「「・・・・・・。 つかえる囮は大事にしなくちゃね?」」
「そうですよ? これだけ喰い付きのいい餌は、そうそういませんよ?」
「「・・・・・ぶっ! よく言うよっ! あはははは!!」」
「くすくす! だって俺、あの視線に逆らえませんもーんv」
「「・・・・・・・・。  ( あのイルカが・・・・ マジMに目覚めそうとな?! ) 」」

とっとと彼に、俺の存在を忘れてもらうに限る。 自分で何とかできるものならとっくにしてるよ。
記憶操作とかそんな高度な術、俺に使えるわけないだろ? チームだからって暗部と一緒にするな。
多分違うと思うけど、もしこれで敵の間者なら、俺がチャクラ練った時点で、即殺されちゃうって!

花街に寄るついでじゃなくても、ちゃんと現状を話せば、二人なら助けてくれると思った。
ふぅ! これでようやく終止符が打てる。 嘘は言ってない。 ゾクゾクするのは本当だもん。

これ以上の接触は、俺が耐えられないだけ。 うー 悔しい、一般人の野郎の視線にしてやられそうとは。
こうなりゃ、恥も外聞もない、醜態をさらす前に何とか手を打つ! はやいとこ記憶を抜いてもらおう。