先生に教わろう! 10   @AB CDE FGH JKL MN




なんだか微妙にピンクっぽい・・・・・ 謎の空気が流れて来た。 ・・・・・・・これはあれか?
“思い出にするから唇にキスして先生!”とかなんとか言い出しそうな感じがするんだけど。

いや、年長のくのいちクラスの子らは、おませさんで・・・・・ そういう子もいるんだよな中には。
俺のキスぐせを聞いて軽い気持ちでお願いしに来たんだけど。 その時の記憶が甦って来たよ、とほほ。
もちろんその子への答えは頭にちゅーだった。 本当にしたい相手に心からお願いしろ、そう言って。

うっ! 沈黙が痛い・・・・・。 そのいかにも期待してます、っていう目は何?? 何を求めてんの?!
三代目直属の部隊を指揮する様な雲の上のお偉方が・・・・ そんな真剣に・・・・ なんで・・・
照れくさそうに頭なんか掻きながらも・・・・・ そんな縋る様な眼で見ないで下さい・・・・・

「あ、あの・・・・・・ 一つハッキリさせたい事が。 いいですか?」
「「うん、なに?」」
「・・・・・・・教えてほしい大人のキスとは、これいかに?」
「フフv 舌入れたーいv ねっとり絡めたーいv」
「息つぎとか、吸い方の強弱とかも・・・・ へへv」
「・・・・・・・・・・・・・。」

当たって欲しくない事って、意識すると結構な確率で当たっちゃうよな? ・・・・・・大当たりだった。
何がどうなってこんな話になったんだろうか。 ついさっきまで、意思の疎通は出来ていたと思う。
これもあれか? 俺のキスぐせのせいか?? アカデミーのくのいちクラスの子と同じで??
だったら頭にちゅーでいいかな、同じだしな、うん・・・・・・・・・・ な訳ないよな、どう考えても。

だいたい教えて、って何だ。 さっきまではキスが怖い、とか・・・・ そういう話だったよな、確か。
危険を回避できる、あえてしようとは思わない、とかも言ってたよな? キスは危険だという認識の元。
忍びとして徹する一流の心構えは、中忍の俺にも理解できた。 なのになぜ “教えて” になるのか。

「・・・・・・あの。 ちなみにお子さんはいらっしゃいます??」
「ア、オレ達が結婚してるかどうかを聞きたいの? バリバリ独身だーヨ。」
「ボク達は個人レッスンです。 伴侶や恋人も一緒に・・・・ はないです、はい。」
「・・・・・・・・・・そ、そうですか。」

「えっと・・・ 子煩悩なお父さんズじゃ・・・・・ ない??」
「フフフ、そう見えたみたいだーネ。 そんなに甘やかしてないと思ってたんだけどサ。」
「確かに部下は可愛がってますが。 信頼という名のスパルタです、どちらかと言うと。」
「・・・・・・・・・・部下・・・・・。」

話が大きくすれ違ってても、会話はそこそこ成立してた。 合致するポイントがあったからだ。
それは何だ? 俺の事を二人は先生と呼んでる。 そして俺が生徒へのキスの話をする度に・・・・・
・・・先生と生徒、ひょっとしてひょっとする? 俺は生徒がいる先生だと思われてるんだよな?
生徒に何を教えてる先生なのか、どんな生徒を受け持ってる先生なのか。 整理してみてピンときた。

「・・・・・・・・・・・・・キスの・・・・ 先生?」
「イルカ先生が教えてくれるならマスターしちゃう!」
「頑張ったな、の追加サービスキスも楽しみです!」
「・・・・・・・・・・ちょい待ち。」

本当ならこの卓袱台をひっくり返して怒鳴りたい。 けれど、あまりにも悲しい認識を知ってしまった。
“キスが怖い”こんな・・・・ こんな悲しい話ってあるか? あの天下の暗部の司令塔が、だぞ?

あの縋る様な眼が頭にこびりついてる・・・・。 俺はさっき、キスは愛情表現の手段だと言ったけど。
二人は、なくても平気だと思っていたと言っていた。 それって、愛情はいらなかった、という事だ。
忍びの口内は危険だ、それは理屈では分かる。 けれど理屈で説明がつかないのが愛情だろ?

分かり易い例えでいくと、迷子になった子供を探して欲しいという任務依頼があったとする。
無事に忍びに保護された子供、我が子と再会した親は開口一番“どこ行ってたの!!”と怒る。
そしてそれから緊張の糸が切れ、わあわあと泣きだす。 “心配させてこの子は!”と抱きしめる。

最悪の事態を考え神経がすり減り、食べる物も喉を通らないほど心配していたのに、まず怒るんだ。
場合によっては最初に引っ叩いたりする。 怒鳴ったり殴ったりする行為だけなら愛情とは別モノ。
理屈じゃない。 その行為そのものじゃなく、そこに気持ちがこもっていれば、それは愛情だよ。
気持ちとは違う行動をとる事も。 嬉しい時に泣いたり、悲しい時に笑ったり。 理屈じゃないんだ。

二人は、この俺の目の前にいる二人は・・・・ 今迄、気持ちと行為を切り離していた、という事だ。
それは一流の忍びだから出来る事だ。 普通ならそんなの・・・・ 心が血を流し悲鳴を上げるよ。
そうしないと耐えてこられなかった? そういう忍びだからこそ生き残って来れたのかも・・・・・・

俺を“キスを教えてくれる先生”だと思い込んでいる二人。 信頼できる忍びだからキスをして、と。
分かってますか? 気付いてますか? “出来るなら試してみたい” そう思ったのはどうしてですか?
キスが下手だと馬鹿にされそうだから? 気持ちが良いから? ・・・・・違いますよね、本当は。
気持ちという形のないモノに触れてみたいんですよね? 唇を通して感じてみたいんだ、人の愛情を。

「・・・・・ご期待には添えません。 俺、キスの先生じゃありませんから。」
「「?! 何言って・・・・・ イルカ、せんせ??」」

「イルカ先生・・・・・ キスの先生じゃないんですか??」
「・・・・・・っ。 はい。 自分でも馬鹿だと・・・・ 思いますが・・・ っく・・・・。」
「イ、イルカ先生?! なんで? どうして泣くの??」
「キスの先生じゃないけど、愛情を教えてあげたいと思うのは・・・・ 駄目ですか?」
「「・・・・・・愛情・・・・ を?」」

ああそうさ、笑ってくれていい。 舌を絡めたいだの、息つぎを教えてくれだの言ってる二人に。
俺、愛情を教えてあげたいんだよ。 だって俺は教師だ、キスの先生じゃないし、相手は大人だけど。
他里も恐れる木の葉の暗部のトップツー。 けど・・・ 俺の目には愛情を欲している子供にしか見えない。

信頼できる仲間となら試してみてもいいかな・・・・ そうやって怖いはずのキスを克服しようとした。
俺にはそんな一流の忍びの心構えなんてどうでもいい、分かってるのは自分で体感したいと思った事だ。
自分でこうと決めて、それに向かって努力する・・・・ 教師なら、そんな生徒を応援したくなるだろ?