先生に教わろう! 12   @AB CDE FGH IJL MN




オレの忍犬チームは犬型の口寄せ獣、ただの犬じゃない。 でもコレは・・・・ まだほんの小さな仔犬。
先生は部屋の隅っこに行き、オレ達から少し距離をとって変化をかけた。 たかだか仮眠室の一室。
けれどその広さは、あのコにとって広い敷地だ。 フフフ、“あのコ”だって。 イルカ先生なのに。

オレ達は最初先生に言われた通り、部屋の対角線上にいた。 少しでも距離をあける為にネ。
テンゾウもオレも部屋の隅にいたはずなのに、まるでそのコを迎えに行くみたいに前進してた。
小さな毛玉がヨロヨロと頼りなく転がりながら、一心不乱にオレ達めがけて駆け寄って来る。
これでもかって程尻尾を振って。 あるかないか分かんないような尻尾をピコピコさせて・・・・

クス! 実際にこれぐらいの大きさの犬や猫は、尻尾を振れない。 そこまで意識できないんだヨ。
まだヨチヨチと足取りさえおぼつかない。 走った振動で尻尾が揺れてる様に見えるだけだ。
でもイルカ先生はワザと尻尾を動かしてる。 ウン、忍びが変化してるから、フリフリできるよネ?

・・・・悔しいけどメチャメチャ可愛いヨ。  ・・・・ホラ、頑張って、もうチョット! おいで?
殺してばっかいるとサ、こういう弱々しい命って、妙に可愛く感じるもんだよネ。 上手いなぁ・・・・
テンゾウもオレもまんまと先生の愛情作戦に乗せられた。 だってサ、可愛いんだヨ、文句なしに。

イルカ先生はオレ達に“ただ可愛いからやっちゃった!”っていう瞬間を感じてほしいと言った。
つまり、理論立てて頭で考えるより先に、なんらかのアクションを起こしてるのを確認しろ、ってコト。
いつの間にかオレ達は、部屋の卓袱台のあった位置にまで進行してて、弱々しい仔犬と仔猫をお出迎え。
半分冒険を助けた様な形になっちゃったケド、コレが “ついやってしまった” の部類に入るのネ?

「ハイハイ、ココだヨー おいで、おいでー ・・・・・ドーン! 到着〜 アハハ! カーワイイv」
「うわ、今度は膝を登り始めた! くすくす、どううやらゴールは膝の上みたいですよ、カカシ先輩。」
「ウ〜ン 小さいのに根性あるねぇ、さすがイルカ先生。」
「フフ、そうなんですよネ、どうしても先生を意識・・・・ っ!!」
「「?!」」

さっきまでは生後数日の仔犬。 今、一生懸命オレの膝の上に登ろうとしている生き物は小さな先生。
・・・・・忍服を着た小さなイルカ先生が膝の上に。 こんなコトなら覆面をズラすんじゃなかったヨ。
思わず自分の口元を手で押さえた。 だって・・・・・ スゴイだらしない顔で笑ってるだろうカラ。
アー お前も? ウン、オレもそう見える。 見ればテンゾウも口元を手で押さえてはいるが、デレデレ。

落ち着いて考えよう、イルカ先生は一番最初なんて言ったか。 “好きな動物はなんですか?” だ。
その後で確か・・・・ 暗示にかかって下さいと言ったから、オレ達は暗示を受け入れたんだよネ。
小さい動物を見たら可愛がらずにはいられない性格になって下さい、とか言ってたケド・・・・

「暗示は術者より強い能力を持ってる忍びにはきかないから、協力を仰いだんだよネ?」
「ええ、ボク達は “イルカ先生の暗示にかかるぞ” という暗示を自分にかけました。」
「ウン。 ・・・・・ってコトは。 コレは・・・・・」
「はい、半分自己暗示、ってヤツですね。」

そうだよネ。 オレ達はイルカ先生のかけた暗示を自分で増幅させちゃってる、ってコトになるヨ。
つい、“あんよは上手 手のなる方へ” みたいな感じで、ヨチヨチ歩きを応援しちゃったりしたモン。
でも分析する冷静さもどこかにあって、イルカ先生が頑張って尻尾動かしてんのネ、とか思ったり。
生後間もないだろう仔猫と仔犬の目がしっかりと見えていても、イルカ先生の変化だから、とかサ。
実際の仔犬や仔猫の可愛さ+先生がアレンジしたバージョンで、生きたぬいぐるみみたいで可愛かった。

「テンゾウ。 オレにはそっちのコは仔猫のままなんだケド。」
「・・・・ボクもそっちの仔犬はワンコに見えています。」
「「・・・・・・・・。」」

オレには、自分の膝の上にいるのは小さいイルカ先生で、テンゾウの膝の上にいるのが仔猫に見える。
テンゾウにはその逆に見える様だ。 一生懸命自分の元に駆けて来たコが・・・・ イルカ先生に。
弱々しい仔犬や仔猫は確かに可愛い。 でもイルカ先生の変化だと思うと、もっと可愛いと思った。

イルカ先生に見えるのは・・・ 好きな動物を可愛がらずにはいられない性格に、って言ったからか。
先生は動物じゃないケド、可愛がりたい生き物という点では・・・・ ウン、イルカ先生を可愛がりたいヨ。

こんなに安心できる人は始めて。 オレ達の勘違いに気分を害するコトもなく、愛情を教えたいとかサ。
生徒と同じ扱いで頭に触れるだけのキスをしたり。 愛情を教える為に小さな犬や猫に変化したり・・・・
泣いたと思ったら笑って頭に “ちゅ!” って。 先生の触れたつむじんトコが、まだ温かいんだよネ。
オレ達が頑張ってるから、だって。 オレ達が・・・・ 愛情を知りたいと心の底で思ってるから、だって。

口と口でする接吻は、未確認物質を直接体内に侵入させてしまう、どう考えても危険な行為だヨ。
でもイルカ先生は理屈で考えるなと言った。 したいと思ったらしていい、愛情を伝える手段だ、って。
気が付いたら、膝の上に登ってきた小さなイルカ先生を手のひらに乗せ、オレはその先生にキスをしていた。