例えばこんな話 10   @AB CDE FGH JKL MNO




なんというかアレだ、価値観や認知度の違いというヤツだ。 暗部の認識を・・・・ 侮り過ぎていた。
ありがとう、気持ちよかった! と満足げにスヤスヤと、それぞれの布団でお休み中の黄金コンビ。
俺の中では野郎の息子を扱こうか扱くまいか、もの凄い葛藤があったのに。 超幸せそうに爆睡中だ。
どうなんだこれ、と自問自答しても答えは一向に出ない。 とりあえず、出来る事はやったと思いたい。

普通マッサージでリフレッシュと言えば指圧、そうだろう? でも暗部達の認識はボディマッサージ。
それマッサージ違いだから! 泡風呂ってソープだろ? 俺は按摩師で、ソープ嬢じゃないから!
だいたい、俺のどこをどう見たらソープ嬢に見えるんだ?! 泡風呂だってないだろう?!

「・・・・・・・全くっ! ゴールドフィンガーなんて、誰が言ったんだ、無責任なっ!」

雨射のマッサージをそいういう風に暗部がとらえていたなら、完全に誤解しちゃうだろうが!
そういう風とは、つまり・・・・・ 任務で疲れ果てた里の忍びを抜いてあげる潜入員の按摩師。
俺の軽はずみな言動を後悔するばかりだ。 手作りの癒し券を作ってやれだの、いつでもどうぞ、だの。
おかしいと思ったんだよな、たかが潜入員の俺の噂を聞いただけで訪ねてくれたんだもん・・・・。

「俺も、もっと詳しく話すべきだったよ・・・・ まさかそんな風にとらえていたなんて・・・・」

ああ、昨日の昼間、あんなにカッコよかった暗部隊員達が、レッサーパンダに思えてきたよ・・・・。
知ってるか? レッサーパンダは、見てくれはめちゃくちゃ可愛いけど、もの凄く凶暴なんだぞ?
パンダ、なんてついてるけどアイツは立派なアライグマ科。 でもパンダもクマ科なんだよな・・・・
・・・・・・と、さっきまで起こっていた現実を忘れる為、どうでもいい事をつらつらと考えていた。

起こってしまった事は仕方がない、それに頼まれた “心身ともにリフレッシュ” の役割は果たした。
これは引くに引けない、頼まれたからにはなんとかしなくちゃ、って。 ついてるモノは同じだし。
自分でスル時を思い出して、俺なりに頑張って工夫もしたつもりだ。 おかげでなんとか誤魔化せた。

部隊長達も言ってたよな、気持ちよかった、って。 こんなにグッスリとお休み中の様だし。
暗部の人達はきっと、俺の想像もつかないような任務をこなしているんだろう、毎日毎日・・・・。
それに最初、あんまりノリ気じゃなかったみたいだし・・・・ 雰囲気がこう・・・・ え? みたいな。
顔を見ちゃいけないと思って目隠ししてたけど、それはほら、忍びならなんとなく感じるだろう?

「今日も・・・ 黄金コンビが揃って出動するぐらいの任務・・・・ だったんだよな・・・・・。」

しかし・・・・・ こんな男前二人がソープで抜いてもらってるの? 目立ち過ぎるんじゃないか??
なんとも羨ましい限りだ。 タダでいいから寄って行って? とか。 ガンガン声かけられそう。
そういや、俺、髪の毛乾かしてなかったから、急いで乾かして・・・・ そのままだった・・・・・
別に伸ばしてる訳じゃないけど、結わえられる位の髪の長さにしてる。 そのせいもあるのかな。

髪で顔が隠れるし薄目を開けていれば、女に抜いてもらってる様な気がしないでもない・・・・ かな?
本当は嫌だけど、部下達からの好意を無にしちゃいけない、そう思ったのかもしれないな・・・・。
まあ、どっちにしても。 暗部の長にとって、日頃の感謝を込めて部下達から招待された温泉宿だ。

暗部の隊員とそのトップツーに、ちょっと認識がおかしいんじゃないですか? なんて。 俺には言えない。
あんなに嬉しそうに癒し券を作っていた隊員達。 想像とは違った癒しだったけど我慢したこのふたり。
わざわざ勘違いを指摘して、恥をかかせる事もないんじゃないか? 俺が黙ってれば丸く収まりそうだし。
完全に誤解してたもんな・・・・。 それに、癒し券はあの二枚のみ。 いくらなんでももう来ないよな。

「・・・お疲れ様でした。 いつも火の国の平和を守って下さって、ありがとうございます。」

これは俺の本音。 暗部達の求める癒しと、正規の忍びの求める癒しとでは、誤差が大き過ぎただけ。
彼らにとって“心身ともに”というニュアンスは、性欲を体外に出す・・・・ って事なんだろう。
その証拠に、さっき交代で順番待ちしている時に観てたTVはAVだ。 そんなのも日常なんだろうな。

まあ、数奇な出来事として、俺の胸にしまっておこう。 しかし・・・・ ゴールドフィンガー、か。
今度繋ぎに来た上忍にお願いして、そんな呼び方は訂正してもらおう。 また勘違いされたら困る。
・・・・暗部以外に、労りの意味を取り違える忍びが里に居るとは思わないけど。 一応、念の為だ。
何が良いかな・・・ 労り、癒し・・・・ ? ヒーリングフィンガーとか。 うん、これで行こう!

その噂は巡り巡って、必ず暗部の耳に入るはずだから。 そうなったら、落ち込むだろうなぁ、ふふふ。
トイレに入る時に鍵をかけ忘れたとする。 見られた自分よりそのドアを開けた人がバツが悪いだろ?
・・・・なんて、ヘンな例えだけど。 きっと俺より、真実を知った暗部達の方が恥ずかしいだろう。
でも、よっぽどの事がない限り、潜入員の俺と任務で一緒にはならないし、アッチは面をつけてるし。

「もうお会いする事はないと思いますが、あまり無茶をなさらないで下さいね? では、失礼します。」



三代目直属の精鋭軍団は、ちょっと認識がズレているけど、素晴らしい忍びである事は確かなんだ。
その迅速さと正確さ“木の葉の暗部”という名がもたらす威圧感。 俺は実際にこの目で見たから。
彼らを素晴らしいと感じる事、それはその組織を取りまとめている長の存在が素晴らしいという事。
組織のトップツー、部隊長と補佐。 その二人を近くで見て、隊員達はあそこまでになったんだよな。

俺さえ知らん顔していれば。 何事もなく、それぞれが日常へと戻るよ。 俺はまた雨射に戻るだけだ。