例えばこんな話 3
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つい先日だった。 おれらの部隊長が“引退するかもしれない宣言”をした。 上忍師になるらしい。
上忍師は正規の忍びの中でも一番三代目が信頼しているポジション。 おれらの引退後のど定番だ。
でも上忍師になりたいってだけではなれないんだよな、これが。 弟子にしたい下忍がいなくちゃね。
実際、育成に回る人が多いんだよ。 例えば今のアカデミー長は聞くところによると前部隊長だったとか。
おれらは殺してばっかいるから、そういうのに憧れるんだよね。 玉の命の育成、みたいなヤツに。
まあ、おれらにはまだまだ先の話だけど。 正直今の段階で、上忍師がどうとかは考えられないし。
暗部で何年も生き抜く強さを身につけて、今の部隊長達みたいに後輩をガンガン育てて、それからの話。
「はは! まあ、補佐も言ってたけど・・・・・ まだそうと決まった訳じゃないから・・・・・。」
「だって・・・・・ 下忍認定試験に合格させちゃったら、部隊長は引退するんでしょう?」
「うん。 でもって、補佐が部隊長になりーの、次の補佐を指名しーの、だしょ?」
「そっちは容易に想像できても、上忍師か・・・・。 想像できるか? 部隊長の上忍師姿・・・・。」
「「「「・・・・・う〜ん。」」」」
おれらの部隊長のカカシさんは、めちゃめちゃ頼りになる忍びだ。 もちろん、補佐のテンゾウさんも。
頼りになる、って事は言い換えれば“敵にいて欲しくない忍び”って事。 実力もズバ抜けてる。
この二人の代は歴代暗部の中でも一番長くて、今じゃ “黄金コンビ” なんて呼ばれ方をしているぐらい。
殉職率が一番低い暗部の黄金時代。 ホントかどうか分からないけど上層部からは、こう呼ばれてるとか。
そんな二人の恩恵を、日々当たり前のように受けているおれらとしては、このままって訳には行かない。
もし部隊長が引退をして補佐が部隊長になったら・・・・ 盛大に送り出したいし、襲名祝いもしたい。
日頃の恩返し、ってヤツかな。 一歩間違えたら死んでた、誰でもそんな経験、必ず一回はしている。
「部隊長達がいなかったら・・・ 私ヤバかった事、何度もあったのよね・・・・」
「皆そうだしょ。 オレらの中で、そういう経験してない奴の方がいないよなー マジで。」
「アラシ、お前めちゃめちゃ目をかけてもらってるだろ? 次の補佐、お前なんじゃないのか?」
「・・・・どうだろうね? でもそうなったらそうなったで、腹をくくるよ、おれは。」
そうなんだよな。 今思えば恥ずかしいけど、おれは16の時に暗部入りして・・・・ 生意気だった。
でも部隊長達の背中を見て戦ってたら、そんな虚勢を張った自分がもの凄くちっぽけに思えて・・・・・
いつの間にか、頼りにされる存在になって行ったっけ。 鷹の眼一族、ってだけで期待されてたおれ。
でも一族の眼の事なんて二の次、おれ自身が努力して身につけた読唇術を凄く買ってくれたんだよな。
“よくやったネ、アラシ?”“アラシの読唇術は役に立つね”そう言ってもらえる度に嬉しくなった。
だからもしおれが補佐に任命されたら、おれの持ってるモノ全てを使って火の意志を伝えて行くつもりだ。
でも、そうなったら、だ。 それはまだまだずーっと先だと思う。 だって部隊長が上忍師? ないない。
「でもまあ・・・・ なんかサプライズを考えておいた方がよくないか? その時の為に。」
「あ! 私もそれを相談したかったの! だから小助さんのトコ行こう、って!」
「おれも! 別に時期尚早でもいいんじゃないかな、とか。 区切りとして。」
「いつでも交代の心構えは出来ています、安心して下さい! ・・・みたいな?」
「お! 部隊長の決意表明に対しての、俺達なりの応援ってヤツか! それいいな?」
「だしょ? こう・・・・ 日頃の感謝を込めて・・・・ 隊員一同、ってな感じで。」
「そうね! あんまり派手でも、早く引退しろ! みたいにとられると悲しいしね。」
「いっつもご馳走して貰ったり助けてもらったりだし・・・・・ たまには逆もいいよな?」
ははは。 やっぱりおれだけじゃなかった。 皆同じ事思ってたんだよな、何かの形にしたいって。
でも引退も決定した訳じゃないし、あんまり派手にやっても追い出すみたいだし、ちょっと悩んでた。
応援って響き・・・・ いいよな? おれら全員で、部隊長の上忍師への道を応援します! 的な。
割烹小助で美味いモン食いながら雑談して。 こんな平和的日常生活を送ってる事への感謝の気持ちを。
当たり前のように甘受して来たけど、これは今までの先輩方が血にまみれて築いて来た生活なんだ。
もちろん暗部だけじゃない、たくさんの木の葉を支えてきた忍び達全員が、そうなんだけど。
おれらの命を何度も救ってくれたのは、部隊長達だ。 その思いも込めて、プチサプライズを考えよう。
「さっきの、あの水の大名さ、草津屋の予約がなんたらとか未練たっぷりで、笑っちゃった!」
「くす! その草津屋周辺で暴れたのに予約もクソも・・・・ こっちは問題なしだったよな?」
「うん、大人しくお帰りあそばされたぞ? たかが温泉旅館の予約を気にするって、どうなのそれ!」
「あ、俺、草津屋のその話聞いた事ある。 良い腕してる、ってウチの上忍連中も言ってたな、確か。」
「「「・・・・・良い腕?? なにが??」」」
「草津屋の按摩師。 予約を入れないと駄目だけど、めちゃめちゃ良い腕してる、って。」
「按摩師?! 水の大名はどうでもいいけど、木の葉の上忍が?! マジでか?!」
「ちょっと待て、按摩だろ? 上忍が無防備に背中をさらす・・・・って。 おかしくないか、それ?!」
「ああ、違う違う、オフレコだけど潜入員の中忍らしい。 だからつい頼んじゃうとか言ってた。」
それなら話は分かる。 潜入員のいる巣は、おれらにとって安心できる空間だしな。 へー 特技?
按摩師で温泉街に潜入か・・・・・ 医療忍者じゃないよな? チャクラ使うとバレバレだし・・・・
繋ぎのついでに、とか。 任務帰りについつい温泉地に寄りたくなる気持ちは、なんとなく分かるよ。
里の中じゃいくら階級が下でも、マッサージの為だけに呼び出せない。 公と私は別モノだしな。
・・・・・お? それいいんじゃないか?! 部隊長達に日頃の疲れを癒してしてもらう、ってのは!
草津屋の温泉にゆっくり浸かってもらって、その中忍に頼んで指圧してもらえば、気分もリフレッシュだ!
花街の泡風呂とボディマッサージもいいけど、たまにはノーマルなので癒されて下さいって、どうかな?
「なあ、日頃の感謝を込めて、草津屋に一泊ご招待・・・・ とか、いいんじゃないか?!」
「「「おおーーーーっ!!」」」