例えばこんな話 7
@AB
CDE
GHI
JKL
MNO
雨射〈うい〉は、火の国の温泉街 温泉旅館 草津屋専属の按摩師。 木の葉の忍びをも唸らせる腕。
これは潜入員の俺の肩書きだ。 下忍になる前から三代目の肩を揉んで鍛えた指圧は、プロも顔負け。
忍術はこれっぽっちも使わない、正真正銘、俺の特技だ。 だから潜入員にはうってつけだろ?
実際、繋ぎに来てくれた忍びや、立ち寄ってくれた忍びに指圧をしてあげるから、嘘はついてない。
中忍になってすぐ、この特技を生かす事ができる潜入部隊に配属された。 雨射はもう一つの俺の顔。
小さな雨粒を射る様に、どんな情報にも耳を傾けろ、大雨になる前に里に知らせろ、って意味がある。
後から三代目がもっともらしくこじつけたけど、うみのイルカの頭一文字ずつをとって並べただけだ。
潜入員は里と二重生活を送り、市井に出るとそれになりきるんだ。 俺は草津屋の按摩師として過ごす。
里にいる時は中忍、温泉街にいる時は按摩師の雨射。 かれこれ四年近く、二重生活を送っている。
温泉街は他国からの観光客が多く、あらゆる情報の宝庫だ。 花街と同様に噂話やこぼれ情報が聞ける。
草津屋から雨射に予約が入った時や、国内外の情報を収集する時に、按摩師 雨射として任務に就くんだ。
しかし今日は、いろんな事があったな。 予約が入っていた水の国の大名が、予約をすっぽかした。
・・・・まあ、その原因を作ったのは、何を隠そう俺自身なんだけど。 おかげで感動すら覚えたよ。
嫌な予感がしたんだよな。 予約が入っていたから、あの大名が草津屋に来ることは分かっていた。
二軒先の温泉旅館に、土の国の要人が宿泊するって聞いたから名前を調べてみたら・・・・予感的中。
あの大名同士は犬猿の仲で有名だ、こりゃマズイだろ! そう思って慌てて里に式を飛ばしたんだ。
そしたらなんと! 暗部が四人も来てくれた。 で、あっという間に事態を収拾してしまった。
死傷者が出たけど、馬鹿な野次馬が三人死んだのと、他には、避難し遅れた一人が軽傷を負っただけ。
思わず草津屋の窓から、見えない様に小さく拍手しちゃったよ! それぐらい鮮やかに収めたんだ。
さすが木の葉の暗部! 流れたのは敵忍の血のみ。 しかも相手の忍びが遺体のお片づけまでしてた。
やー もうほんと感動の嵐だったよ。 木の葉の暗部が動いた、それだけであそこまで威圧するなんて。
でもそれで終わりじゃなかった。 その後、その暗部が訪ねて来てくれたんだよ、草津屋にいる俺を。
俺の噂を上忍から聞いて、ぜひ力になって欲しい、暗部の部隊長と補佐の為に協力してくれ、ときた。
どんな噂か知らないが、俺で出来る事があったなら何だってやるよそんなの。 だってなぁ・・・・
日頃お世話になってる部隊長達に癒しを、とか言うんだよ。 昼間、超カッコよかった四人の暗部が。
火影直属部隊の凄い忍び達なのに。 あまりにも純粋でひたむきな思いに、猛烈に感動した俺は・・・・
調子に乗って、癒し券を作ってはどうですか? などと言ってしまった。 相手は子供じゃないのに。
それもこれも、マッサージのお礼は何でも自分達に言ってくれ、とか言うからだ。 お礼なんて。
だから言ってしまった。 お礼はいらないから、心を込めて部隊長達を招待してあげて下さい、って。
昔、三代目に俺がよく作ってプレゼントしたんだよ、肩揉み券。 その事を思い出しちゃって、つい。
あの時、いつも三代目は喜んでくれたし。 でもそんなの俺が子供だったからだ。 なのに・・・・
そんなとっさの俺の思いつきを“喜んでもらえるかな?”と素直に実行し始めた日にゃ、もう。
『激仕事が出来て超仲間思い・・・・ どうやったらこんな風に教育出来るんですか、火影様!』
・・・・と、心の中で何回叫んだ事か。 可愛らしいイラストも描いてたなぁ、二枚の手作り癒し券。
それを大切そうにしまって、足取りも軽く去っていく暗部の隊員達に、またも思わず言ってしまった。
いつでも草津屋に予約を入れて下さい、何をおいても駆けつけますから! と、そう声をかけたんだ。
いくらお願いされたからって、里の精鋭集団の暗部だぞ? あー もう! なれなれし過ぎだろ、俺っ!
あー いつでも予約を入れてくれ、確かにそう言った。 まさかそれがその日の事になるとは・・・・
癒し券を持って帰った暗部達は、ものの小一時間ほどで戻って来てこう言った。 “予約をお願いします!”
丁度二人一緒の任務が入っていて、その任務明けの休息日を、草津屋でゆったりと過ごしたいそうだ。
部隊長と補佐を心身ともにリフレッシュさせてあげて下さいと、改めて宜しくお願いされてしまった。
暗部の部隊長と補佐が一緒の任務・・・・・ どんなハードな任務なのか、想像もつかない。
てっきり、次の日かその次の日に訪ねてくれるのかと。 だから俺は露天風呂で寛いでいたんだ。
吃驚したよ、せっかく来たんだからと、のんきに温泉へ浸かってる場合じゃなかった! 大失態!
なんと暗部の部隊長達が、夜中に草津屋に到着。 雨射のマッサージを楽しみにして待っているらしい。
余談だけど、俺は大の温泉好き。 旦那さんが知らせてくれなかったら、もう一時間位は入ってたよ。
隊員達が予約に来てから、日付こそ変わったけど時間にすれば6時間ほど。 なんて素早い任務遂行だ・・・
彼らの実力は俺の予想を遥かに上回っていたんだ。 俺の馬鹿っ! 慌てて支度をして部屋を訪ねた。
「お待たせしてしまって申し訳ありませんでした、ご予約ありがとうございます。 雨射、入ります。」